第25話 ききょうの回想 8 天慶3年 長月
稲妻が榎の木に落ちたていくのを見て、もうおしまいだとわたくしは目を
「ききょうどの、ご覧あれ。姫様は生きておられる」
我に返り見上げますと、右馬の介様のお指しになっておられる先に木にしがみついたままの姫様が見えたのでございます。しどけないお姿ではありますが、生きておらればこそ・・・。何が起こったのでございましょう、と眼で問いますと、右馬の介は感嘆したような声を上げられたのでございます。
「鏡が稲妻を
照魔の鏡とは・・・あの
その鏡の先で、安倍さまは剣を抜いて黒雲が変じた龍と向きあっておられました。鏡はもとより、その安倍さまご自身の姿が宙に浮いているのを見ても最早不思議にさえ思えませぬ。
いや、なんと申しますか、先ほどまでお恨み申し上げていた安倍さまが今となっては、頼もしいお姿にさえ見えたのでございました。姫様の御命を奪おうとした黒龍こそは悪の源、それに対峙され、姫を守っておられるのは安倍さまでございます。
「今、いくぞ、晴明」
私と同じ思いだったので御座いましょう。右馬の介様はだっと駆けだしました。どうした訳か先程の見えぬ壁をするりと駆け抜け榎に取り付こうとしている
姫様をさように
その木の上に辿り着けば・・・、
「ああ、おひぃさま」
私は声を限りに叫びました。
「もう僅かでおじゃります。僅かでおじゃります」
ですが、片方の手を失ったにもかかわらず、黒龍は背をぴんと逸らせ、恐ろし気な口を開いて再び姫様に狙いを定めておりました。
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