第26話 防衛戦⑩
「に、ニーアス……いまの……聞こえた?」
そう言って危なげなく着地してみせたロルカをちらと見ると……ニーアスは小さく鼻を鳴らす。
「ああ。あれが
彼は憂いを帯びた表情を一転させ飄々と笑みを浮かべると、剣を収めてひらりと右手を挙げる。
……その背の金色の羽根はいつのまにか消えていた。
「お疲れさん、ロルカ」
「……うん。ありがとうニーアス」
ロルカはその手のひらに自分の手のひらをパシン、と叩きつけて苦い笑みを返す。
――裏切られたって……言っていたな。哀しくて苦しかった……そっか、そうやって堕ちてしまったんだ……。
戦う理由……ロルカは深く考えたことがなかった。
だけど……還ることはまた産まれることだとロルカは思う。
弔うことのできなかった村人たちを思うと胸が疼くけれど――堕神を弔うことができたのならば、それはよかったと考えていいのかもしれない。
――怪我人がいないといいけど……。
ロルカは小さく吐息をこぼし、ふと視線を感じて顔を上げた。
……その翠色の瞳に映ったのは……風に揺れる薄紫色の髪と、同じ色の瞳。
崩れた
――シャルロ。
ロルカはなにか声を掛けようと逡巡したが……言葉は出てこない。
やがて彼女はなにも言わず、ついと踵を返し対虚無防壁の向こう側へと姿を消した。
「…………」
黙ってシャルロを見送ったロルカに気付いているのかいないのか……そこでニーアスが飄々と告げる。
「さてロルカ。逃げるぞ」
「……えっ?」
「荷物はこっちだ、お前のもちゃんと持ってきておいたから感謝しろよ?」
「ちょ、ちょっと待ってニーアス。逃げるってどういうこと?」
「どうもこうもねぇよ。お前も俺も追われる身だぜ?」
「…………あ」
自分は繭狩りに追われている。神として羽化してみせたニーアスもまた然り。
思い当たったロルカは思わず唸った。
そもそも。
ニーアスはロルカとシャルロが会うと予想して追い掛けてきたはずだ。
つまり彼はその時点で荷物を持ってきていたということになる。
「えぇとニーアス……こうなるってわかっていたの、かな?」
「言ったろ、お前の逢い引き相手が
ニーアスは肩を竦めるとさっさと踵を返して歩き出す。
まだ星々は薄れることなく頭上で瞬いており……人々の喧騒が大きくなっていく。
「逢い引きって……酷い例えだな……」
ロルカはため息をこぼし、もう一度だけシャルロがいた場所を振り返ってから――彼の背を追い掛けた。
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