第23話 防衛戦⑦
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シャルロが町で堕神の襲来を告げて走り回るあいだ、南門を守っていた自警団も
しかし町の人たちの多くはまだ堕神の姿を見たわけではないため、思いのほか冷静に行動しているかのように見える。
……しかし、シャルロは焦っていた。
――移動が遅すぎる……荷作りしている場合じゃないのに――!
「皆さん、早く北門方面へ! 堕神が来ます!」
必死で促しながらシャルロはいつの間にか自身の手が震えているのに気付く。
しかも今回はさらに状況が悪い……虚無を眷属とする堕神は当然、虚無よりはるかに強力なのだから。
自警団たちが隊列を組んで南へと走っていくのとすれ違い、シャルロは咄嗟にその姿を目で追った。
――自警団で相手にできるわけがない――堕神なんて、私だって見たことがないのに。
シャルロは残してきたロルカともうひとりの男性を思い出し、唇を噛む。
神繭と虚無の主である堕神が戦って誰かが巻き込まれる――そんなことは許されない。
そうさせないために戦ってきた、そのはずではなかったか。
「……っ」
踵を返す彼女を引き留める者は……誰もいなかった。
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「このおおぉぉッ!」
ロルカは町へと向かう堕神を追い掛け、その右前脚を斬り付ける。
ニーアスの一撃にはほど遠いが確実に傷が増えており、堕神は攻撃のたびに煩わしそうに体を震わせた。
けれど、それだけ。一向に止まる気配がない。
――俺のことなんて眼中にないんだ。
ロルカは己の未熟さに腹が立って……情けなくてたまらなかった。
「このッ……こっちを向くんだ! ――このぉッ!」
――ニーアスに頼まれたのに。
支離滅裂な考えを繰り返し、それでも攻撃の手は緩めない。
そのロルカの前、聳える南門とレンガ造りの
防壁の上には自警団らしき者たちの姿があり、堕神の動きに気付いて蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「――駄目だ! やめろ!」
三つ頭が持ち上がる。その巨大な体を後ろ足で支え、堕神が悠々と立ち上がる。
三つの顎が開かれた瞬間、堕神は――吼えた。
『ブオオオオオォォォォォッ!』
ビリビリと鼓膜が震える。腹の底が重低音でうずく。
ロルカは呻きながらその後ろ脚目掛けて剣を突き立てた。
けれど。
ボッ! ――ゴバアァッ!
炎の塊が吐き出され、
「うわッ――!」
瓦礫と炎の雨が降り注ぎ、ロルカが飛び離れたところで冷気を纏う次の一撃が放たれる。
再び爆ぜるレンガの壁。
咄嗟に自警団が残っていないかと振り仰いだロルカにの肩に、飛来したレンガがぶち当たった。
「――うぐっ……」
ロルカは衝撃で地面に転がり、呻く。
「い……つ……」
視界が揺らぐ。
気持ちの悪い揺らぎに体が軋む。己と世界との境界が曖昧になっていく。
――戦わなくちゃ。堕神は戦うべき相手だ。俺は――神繭なのに――。
けれど願いは虚しく……無慈悲なまでの咆哮が夜闇を木霊する。
「……止まれ……止まれ! やめろおぉぉッ!」
両腕を突っ張り、上半身を起こしたロルカは――絶叫した。
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