第13話 野生の勘⑤
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その日は道順と待ち合わせの場所、時間を決めて解散した。
結局、歳はふたつしか離れていなかったため敬語も気遣いもなしという方向で纏まったが、ロルカは彼女のような年頃の女の子がどうしてひとりで旅をしているのかと疑問に思う。
とはいえ理由などそれぞれだ。
ニーアスだってそんなに歳が離れていないはずだが行商人である。
深入りするつもりはロルカになかった。
宿に戻るとニーアスはまだ帰っていなかったので、ロルカは小さなテーブルに地図を広げ、自分が『野生の勘』によって見た光景を思い返す。
あのときロルカは町の北側から入り、南へと抜ける目抜き通りに立っていたはずだ。
――そうすると……南。川のほうから
ロルカはじっと地図を見詰め、どう対処すべきかを思案する。
――町の人を巻き込むわけにはいかない。迎え撃つなら畑のあたりはどうだろう。
考えながら地図の上ですーっと指を滑らせたロルカは……ふと地図に落ちた影に反射的に振り向いた。
瞬間、ロルカの頭がなにかにぶつかり目の前がチカリと瞬く。
あまりの衝撃に呻くロルカの前――蜂蜜色の髪が揺れた。
「い、痛ぇ……な、なんだよ……いきなり振り返らなくてもいいだろが!」
「ニーアス! ごめん、びっくりしてさ……」
「もうちっと警戒していてもいいぐらいだけどな――。まぁいいや。依頼はどうだった?」
「あぁ、俺ともうひとり女の子がいた。明日から一緒に町を回ることになってる」
「へぇ。どんな子? 可愛いか?」
「ん、それがさ。紫水晶みたいな綺麗な髪と目なんだ。初めて見た」
「――紫水晶? …………まさかな。早すぎる」
「早すぎる? 知り合いだったりするのか?」
「……いや、こっちの話だ。一方的に知っている奴がいるだけさ。その色は北方の民族が持っていてこのへんじゃちょっと珍しい色だが――いないわけじゃない。それに……そいつ、ひとりだろ?」
「そうだと思うけど」
「んじゃ、人違いだ。俺の知っている奴は単独行動はしない」
「そっか」
「……よっし、飯食おうぜ」
ロルカはニーアスに頷いて地図を畳む。
彼には
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翌日。
早いうちにシャルロと待ち合わせていたロルカは宿で用意してもらったという弁当をニーアスから受け取り、さらに受付で大きめの桶を借りた。
「桶……そっか、お水を持ち運ぶのに必要だね。すごいねロルカ! 私そこまで考えてなかったな」
シャルロが感心したように言うので、ロルカは慌てて首を振る。
「あー、ううん。これは俺の案じゃないんだ。成り行きで一緒にいる商人に依頼のこと話したら桶でも持っていけばって。さすが用意周到なだけあると思う」
「わぁ……ロルカって商人と旅してるの? 護衛している……とかかな?」
「護衛……いや、どっちかというと俺が助けてもらっているって感じだ」
「そうなんだ、でもロルカも戦うんでしょう?」
「それは勿論」
「でも……それならどうして一緒に依頼を請けなかったの? 旅の資金稼ぎじゃないの?」
「あぁ、ちょっとその、後払いで買ったものがあってさ」
「え、ロルカ借金しているってこと?」
「人聞きが悪いよシャルロ……まぁ、そのとおりなんだけど」
「あ、ごめんなさい……立ち入ったこと聞いちゃった……かな」
しゅんとするシャルロにロルカは小さく微笑む。
「いいよ、気にしないで。……ほかに選択肢がなかった。……そうしなきゃならなかったんだ」
「――そうしなきゃ、ならなかった……か。あ、ロルカ。あれが最初の花壇だよ」
一瞬だけ影を落としたシャルロの瞳は次に前を向いたときにはもとの光を取り戻していた。
彼女は薄紫色の髪を弾ませて花壇に駆け寄ると、なにを思ったのか両手で景気よく土を掻き出し始める。
……その勢いたるや土が空を舞うほどで、驚いたロルカは動揺し、その土を受け止めようと駆け寄ってしまった。
「ちょっと! 待ってシャルロ!」
「えっ? わあ! ロルカ危ない!」
「うわあッ⁉」
声とともにロルカの上に降り注ぐ土塊。
シャルロは目を瞠り――直撃を喰らったロルカを呆然と見詰めたあとで肩を震わせる。
「ふ、ふふ……あははっ、ロルカ酷い顔だよ! 土まみれ! あははっ」
「笑いごとじゃないっていうか……なんだってそんなに勢いよく土を掻き出すかな……」
「あぁー……隠れるための穴を掘るときの癖……かな? 深くまで掘るときは土を掻き出す必要があるの」
――か、隠れるためって、なんだろう……。
ロルカは呆れてしまったが……最終的にはおかしくなってきてシャルロと一緒に笑ってしまった。
思えばそれほど笑ったのは村を出てから初めてだ。
感情すら薄くなっていたのかもしれないと考えたロルカは……ともに笑うシャルロに少しだけ感謝する。
――繭狩りのもとに辿り着いたときに感情までなくしていたくはない。俺は皆にあんなことをした繭狩りたちとは違うんだから……。
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