第40話 意外な意見
「ともかく、それを考えると庄司さんはあり得ませんし、同時に岩瀬さんもないでしょう。パーティーでよりを戻すかどうかは別として、わざわざ台無しにしようとは思わないでしょうし」
「だな。いや、待てよ。そもそも、杉山は庄司が同性もいけることを知っていたのか」
「それは知らなかったと考えるのが妥当だと思いますよ。もし知っていたら、付き合わなかったでしょう。ああいうタイプは女性であることにプライドを持ち、女性らしさを追求していますからね。そういうステレオタイプな考え方の方は、同性愛には不寛容かと思います。
もちろん、岩瀬さんと何かがあるというのは気づいていたみたいですけど、まさかそういう関係だとは想像していなかったでしょうね」
「ふうん。そういうものか」
「ええ」
意外と役に立つ意見を言うものだなと感心し、そう思うかと、一応は女子の楓に確認を取った。大して理解していないだろうと思ったが、そのとおりだと大きく頷かれる。
「マジで面倒なんですよ。ああいうタイプの女」
「そ、そうか」
予想以上に強く断言され、雅人は認めるからそれ以上はいいと手で止めた。しかし、楓は憤懣やるかたないという調子で続ける。
「何なんでしょうね。女らしくって。マジであり得ないわ。しかもそういう女性って多くが自立心ゼロ。いい男を捕まえることが女の幸せとか思ってるんですよ。気持ち悪い。旦那はあんたのアクセサリーかっつうのよ。ああいうのを見るたびに、私は結婚しないって思っちゃうんですよね」
「――」
部下の思わぬ心の闇を知った気分だ。
それにしても、女性の社会進出と声高に叫ばれているが、実情は全く違うんだろうなと、別のことまで考えさせられる。男の間であれこれいがみ合いがあるように、女の間にも男には解らないいがみ合いがあるのだろう。
「ともかく、温度を下げて現場を保存できない以上、ここにあるバラバラ死体が変化すると思った方がいいですよ」
「ふうん」
まだ、なぜそう言えるのかが解らない雅人は気のない返事をするしかないが、ともかく他の面々から事情聴取をするのが先だなと思い直したのだった。
応接室は青龍から借りた舞台の目印で使うという養生テープで仮封鎖し、事情聴取は横の居間で行うことになった。その方が、犯人を心理的に追い詰めやすいのではないか。そう判断してのことだ。
しかし、まずは犯人ではないと確定的な庄司を呼び出した。こちらは風呂場に行った時に水以外に不可解な点はなかったか。これを確認するだけだから早い。
「不審な点ですか。そうですね。ちょっと寒いなって感じたぐらいでしょうか」
「寒い」
「ええ。お風呂場の戸を開けた時にひやってした空気が流れてきて、とても寒かったんですよ。外が雨だから仕方ないのかなって思ったんだけど、それにしては寒かったな」
「ふうむ」
この場に青龍がいないのですぐに確認できないのが不便だが、温度を気にしていたからこれは有力情報のはずだ。雅人は今の情報に大きく丸を付けておく。
「それで早めにお風呂の湯を張って浸かろうと思ったら、水が出ないでしょ。弱ったなと思って」
「なるほど。そのお風呂のお湯ですけど、それだけ別から供給されているなんてことはあるんですか」
「ええ。他の一緒にしていると、なかなか熱いお湯が出ないんですよ。前までは厨房に供給するボイラーと一緒だったんですけどね。それだと湯が出るのに時間が掛かるもので、お風呂のお湯だけ別のボイラーを設置していますよ。そいつも二つのお風呂を同時に沸かそうとすると、すぐには沸かなくなってしまって困るんですけどね」
「ああ。別館の方のお風呂ですね」
「ええ。でも、今日はみんなが本館にいたから、別館と同時に沸かしているわけじゃなかったし、それで変だなって刑事さんに相談したんです」
「解りました。ありがとうございます」
「いえ。その、犯人はやっぱりこの中に」
「その可能性が高いかと」
「そうですか」
そこまではきはき答えていた庄司は、がっくりと肩を落とした。
やはり、ここで不可解な事件が起こり、さらには社員の誰かが犯人かもしれないという痛手を考えているのだ。
「刑事さんは、岩瀬あたりから事情を聴いていますよね」
「ええ。ある程度は」
「やはり、罰が当たったんでしょうか。他の社員からしたら、何やってんだって話ですもんね」
「あっ、いや」
思わぬ弱音を吐かれて、雅人はどうすればいいんだと戸惑う。が、さっき思い切り呆れた自分がいるだけに、そんなことはないと言えなかった。
「解ってるんです。でも、岩瀬だけは特別なんですよ。俺が社長になれたのだって。あっ、すみません。関係のないことを」
「いえ」
庄司は落胆したまま居間を後にした。
どうやら思っている以上に二人の結びつきは強いらしい。それはよく理解できたが、いやはや、社長になれたのさえ岩瀬のおかげか。となると、岩瀬からも事情を聴いておくより他はない。
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