第28話 お手伝いさん
「そう言えば、庄司さんの指示で全員の荷物は検査したと言っていましたね。血液の謎を追うよりも死体はどこに隠されているのか。こちらを考えるのが建設的かもしれないですよ。死体が見つかればおのずと血液の謎も解明されますしね」
「なるほど」
この部屋を見ていても死体が消失したトリックは解らないが、死体が完全に無くなったわけではない。荷物に紛れさせていないものの、どこかに隠されているはずだ。それを発見することが出来れば、どうしてここに乾いていなかった血液が残されていたのかも判明する。
「ええ。どうせ先ほど軽食を食べたんですから、夕食は昨日よりも遅い時間になるでしょう。梶田さんも今から用意するでしょうからね。時間がありそうなので、ちょっとこの別荘の中を探索してみましょうか」
青龍の提案に、もちろん反対する者は誰もいなかった。
まずは杉山の横の部屋に行ってみよう。そうなってノックをしてみると、部屋の主は在室中だったようで返事があった。
「あっ、お客様。何かありましたか」
「いえ。そう言えば、朝から姿が見えませんでしたね」
顔を見せたのは昨日、ディナーで給仕の手伝いをしていた女性の一人だった。あまり気にしていなかったが、三人いたはずだと雅人は思い出す。
なんせこの青龍と航介、さらにはこの別荘の主の庄司が奇天烈なものだから、手伝いの女性たちなんて忘れていた。しかもこれだけ騒ぎがあっても出て来なかったから、仕事は終わったと朝のうちに帰ってしまっていたのかと考えていたのだ。
「申し訳ありません。旦那様に部屋から出るなってきつく言われていましたから。その、杉山様がいなくなってしまったとかで、慌ただしいから邪魔になるって。余計なことはせず、呼ぶまでここにいろって、詳しい説明もなく」
ねえと、その女性は中へと呼び掛けた。するとそうそうと二つの声がする。改めて部屋のドアを全開にしてみると、部屋の中には二段ベッドが二つあるのが解った。その一段部分に残りの二人の女性たちがいたのである。
「ということは、朝からずっとここに缶詰ですか」
青龍が確認すると、そうなんですと不満そうに最初に出た女性、
「まあまあ。緊急事態ですもの。食事は梶田さんが気を遣って差し入れてくれましたわ。下の厨房からここは、別館の中の階段を使えばいいですからね。皆様のお邪魔にはなりませんわ」
そう答えたのは、この中では年長の
だからか、緊急事態というわりには悠長に構えていた。おそらく杉山がいなくなったというのも、内輪揉めの結果だろうと考えているのだろう。
「へえ。そういう派遣会社もあるんですね」
楓は初めて知ったと目を丸くしている。雅人もお手伝いさんを派遣する会社があるというのは初耳だった。
「そうなんですよ。お金持ちの方と言っても、皆さんが自前で常時メイドを雇っている時代じゃないですからねえ。必要な時だけ雇うんですよ。だからうちのようなサービスが成り立つんです。でも、バイトの子が多いでしょう。それなりのマナーがいる現場が多いですから、粗相がないようにって、私のようなおばさんも派遣されるんです。いわばお目付け役ですわね」
ほほっと、森は上品に笑ってみせる。
なるほど、何かあった時に対応する係というところか。苦情になる前に対応する係と言えるかもしれない。品よく客とバイトの間に入り、ミスをカバーするのだろう。
「でも、さすがにこんな事態は初めてですよね。誰かがいなくなったからって何時間も部屋に放置されるというのは」
「そりゃあ、初めてですよ、マジシャンの先生。そちらは」
ようやく青龍以外に人がいるのに気づいたとばかりに、森は雅人たちに目を向ける。その目は少し不安そうだ。
「刑事の金井です」
「同じく竹村です」
あちこち嗅ぎ回っているのを不審に思ったのだろうと、雅人と楓はそう判断して警察手帳を示す。青龍の場合は名前が知られていることと、その整った容姿で不審がられないのだから、世の中不公平なものだ。
「あらあら、刑事さんだったんですか」
「はい。この氷室さんのマジックを見るために招待して頂いていて、休暇中だったんですけどね。杉山さんがひょっとしたら事件に巻き込まれたのかもしれないと、こうして捜索中です」
「まあまあ、大変ですねえ。それで、刑事さんが捜査しなければならないなんて、ただいなくなったわけじゃないんですか。一体、何があったんですか」
真横の部屋だというのに、本当に何があったかは知らないままだったという。もちろん、梶田にあれこれ訊ねたが、杉山がいなくなったとしか教えられなかったという。そして窮屈だろうがここでじっとしていてくれと頼まれたのだと説明した。
「実は隣りの部屋を使われていた杉山さんが、大量の血痕を残して消えてしまったんです。不可解な状況から事件に巻き込まれたのは間違いありません。その、皆さんは昨夜もこの部屋でお休みでしたよね」
雅人はいつも捜査に使っている手帳を取り出して訊ねる。何かヒントになるようなことを知らないか。その確認だ。
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