第6話 癖のあるメンバー
「及川さん、ご機嫌斜めは余計よ。あれは史門が悪いんだから。それにしても、誕生日にマジックってどうなのって思ってたけど、ちょっと期待できるわ。まったく、イケメンが来るならそう言ってくれればいいのに」
どこまでも斜めな意見を述べる杉山に苦笑しつつ、よろしくと青龍は挨拶しておく。
何やら癖のある人ばかりらしい。それはすでに理解できた。
「次、あの奥で壁に凭れているのが秘書を務めている
「ど、どうも」
秘書というだけあってか、岩瀬は積極的に前に出てくるつもりはないようだ。それどころか、ちょっと視線を伏せていて恥ずかしがっているようにも見える。
整った顔をしているというのに自信なさげな態度とは、どうにも腑に落ちない感じだが、航介がすぐに耳打ちしてきた。
「奴はちょっと特殊でね。まっ、その辺は後で」
それを何故か杉山が鋭い目で見ている。
それで、ああなるほどね、特殊ってそういうことかと、おおよそは察知した。
「さて、次」
「はいはい、自分で自己紹介するよ。世界的にも有名な人にくだらないことを吹き込まれちゃ敵わないから」
次と手を向けられた男性はそう言って周囲を笑わせた後
「
と自己紹介してにこやかに笑った。それに対して航介が間違いなくリーダーでしょうとツッコミを入れる。すると周囲から苦笑するような笑いが起こった。
なるほど、場の空気を和ませることを得意としているわけか。
「彼が初期の人工知能の土台を作り上げたと言ってもいいでしょう。しかもデータサイエンティストとしても優れていて、人工知能を用いながら複合的に解析することを得意としているんですよ。いわば最も応用の利く人というわけです」
「というわけです」
結局は航介に紹介させ、にやっと神田は笑った。
人当たりのいいタイプというかおちょけるタイプというか、何とも面白い男だった。ただし、それが時には場の空気を悪くすることもあるだろうなと思う。神田は三十二歳だそうだ。
「で、ラスト」
「レディを最後に回すなんて最低ね」
「いやいや。桑野さんは大トリってことで」
睨まれた航介に代わって、やはり場を和ませたい神田がそう言って拍手を送る。
そんなことをされては、桑野もツンっと澄ましているわけにはいかなかった。恥ずかしそうに顔を赤らめると、青龍の前に出てきてぺこりとお辞儀をする。
「どうも、大年増と思われている
「またまた。俺より若いのに」
「煩いわよ」
「とまあ、二人はいつも言い合いをしているから」
囃し立てる神田に怒鳴る桑野。それがいつもの構図だからと流す航介。なるほど、癖の強い会社だ。
青龍は思わず舞台用の笑顔ではなく苦笑いを浮かべてしまった。
「あっ、そういうニヒルな笑いのほうが似合ってるよ。悪そうな感じで売ればいいんじゃない」
でもって杉山にそうからかわれ、青龍はますます笑うしかなかったのだった。
「ここか」
「はい」
居間で自己紹介タイムが進んでいた頃、ようやく雅人と楓は別荘に到着していた。
山道を抜けるとどんっと現れた、見るからに立派な古い洋館に、二人して圧倒されてしまう。しがない地方公務員の二人には縁遠い世界だ。
「金持ちって凄いですね。こんな洋館、
「ああ、あれか。
「そうそう。そんな感じですよね」
「まあね」
と、同意したものの雅人の記憶は曖昧だ。さらに神戸に行った思い出がない。
雅人が修学旅行で行ったのは京都だった。というわけで、洋館談義を早々に切り上げて駐車場を探すことにする。
「こっちか」
「すでに皆さん来ているみたいですね」
「ああ」
駐車スペースとして整備された洋館の横手には、すでに数台の車が止まっていた。ぱっと見て高級車ばかりかと思ったが、中には雅人と同じような軽自動車もある。
狭いスペースに苦戦しつつ、何とか空いていた場所に車を停めることに成功した。
「はあ。普段はこんなに車がないんだろうな」
「でしょうね。せいぜい二台くらいを停める程度じゃないですか。これだけの車を停めるとぎゅうぎゅうですね」
隣がまあまあ値の張るレクサスとあって、雅人は慎重にドアを開けて降りた。
安月給の身としては、ぶつけて傷がついたといちゃもんを付けられるのは勘弁願いたい。
「さて、玄関にいくか」
「荷物は」
「後回しでいいだろ。他のメンバーが揃っているのならば、先に挨拶をしておいた方がいい。俺たちは邪魔者なんだからな」
「そうですね」
旅行カバンは車に積んだままにし、二人は揃って玄関へと戻った。
その間に洋館をそれとなく観察するが、やはり古そうだ。昔からここにあったのか移築したのか。ともかく、つい最近作られたものではないらしい。
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