第74話 時間稼ぎだッ!?

「何でそんな簡単に行けるのよッ!」


 3人が戦闘を開始する様を見ているとヒステリックな声が聞こえてきた。


 確か──ババアの再来とか言われていた奴だな。


「……戦闘を生業なりわいにする者は時に引けぬ時がある。勝てない戦いをする事もあるだろう。お前らぐらいの年でそんな事はあまり無いが──今後、大人になった時にあるかもしれん。その時に逃げる事が出来ると良いな?」


「でも……」


 俺は甘くない。入学すれば、こいつらは冒険者見習いになる。命の危険を伴う事も当然ある。


 だが、俺も鬼ではない。だから俺は告げる──


「あの小僧も言っていたが──これは試験だ。怪我はするかもしれんが、命の危険は無い。将来……一歩踏み込む勇気があれば救える命もあるかもしれんぞ?」


 ──遠回しに『失敗しても良い』と。


 俺も冒険者に成り立ての頃はよく失敗ばかりだった。せめて俺が教える生徒にそんな思いはしてほしくないし、背中は押してやりたい。


 勇気と無謀は違うが──これは試験だからな。


 このさっきより強くなった『威圧』の中飛び込める胆力があればきっとこの先役に立つだろう。


 ただ……レアルが暴走しないかだけが気掛かりだが……。


「動けないよ……足が動かない……」


 後、一押しか──


「お前らは──じゃないのか? お前が誰かを守りたいと思った時──それで守れるのか?」


「──!? サラッ! 行くわよッ!」


「はいッ!」


 2人は用紙を俺に渡してロイドの元へ走り去って行く。



 ……視線を感じるな……ババアか。


「…………」


「何だババア」


 にやにや笑いながらババアがこっちを見てくる。


「丸くなったのぉ……お節介ゴリラに進化したか……」


「うっせぇッ!」


 まぁ、確かに昔の俺では考えられんな。


 さて、レアル相手にどこまで粘るか見物だな。



 ◆



 あー、ヤバいな……僕1人で凌げるのか?


 既には仕込んでいるし──やはり皆の復活を待つのが無難だろう。


 時間稼ぎなら僕が1番向いている。


 そう思いながら警戒レベルを一つ上げる。



「お前が来ないなら俺から行くぞッ──」


「──!?」


 速ッ!?


 腕に出している盾を前に出して拳を逸らす。


「やるじゃないか。武器を使っていないとはいえ、今のを避けたのは自慢して良いぞ?」


 お褒めの言葉を頂いたが、かなり危なかった……これがAランクか……いや、次期Sランク──


 正直言って予想以上の強さだけど、母さんよりは弱い!

 でも下手すれば、他の『聖天』並かそれ以上かもしれない。1人じゃ間違いなく負ける。


「そりゃーどうも……──ちっ。【盾の舞シールドダンス】──」


 間髪入れずに拳の乱打が僕を襲う。


 更に速い──


『身体強化』を使われているから段々速くなってるな……こっちを観察しながら徐々に速くしているような感じか──


 拙いな。


 なんとか5枚の盾を操り、攻撃の妨害を行いながら回避するが簡単に盾は破壊されるので直ぐに盾を具現化するの繰り返しだ。


 数手先までならなんとかなるけど、ここまで攻撃が続くと僕でも対処出来ない。


 たまに拳の風圧で皮膚が切れる。


 体が追いつかない──


 ──って、今気付いた! 僕も『身体強化』しようッ!


 うんうん、きっとこれならまだ時間稼ぎぐらい余裕だな!


【視覚】の強化だけだと体が反応出来なかったけど、今なら反応してくれるはず。


 しばらく僕は『身体強化』しながら【直感】『危機回避』『見切り』先生達をフル活用して避け続ける──


 どんどん回避していく僕を見て、レアルさんも目を見開いている。


「大したものだ。これはどうだ──」


 その言葉と同時にレアルさんが拳を振り抜くと──


「ぐはッ」


 先生達の警鐘と同時に腹部に激痛が走った。


 見えない攻撃? ──遠当てみたいな攻撃か!?


 これは何かのスキル!?


 ってヤバい、拳打が来る──


 目の前に拳が迫る。


『身体強化』してたらダメージは軽減出来るか?!


 いや、『危機察知』先生の警鐘の鳴らし方からして致命傷だ。


 しかも、避けようにも僕はまだ体勢が整っていない。


 避けれない──


 その時、僕の『魔力察知』に反応が出る──


 その方向を見る。


 ユーリか!?


「──『多重展開』──火槍ファイヤーランスッ!」


「はあぁぁぁッ!」


 レアルさんの死角に複数の火の槍が襲った後、サラさんが剣で攻撃してくれたお陰で僕はなんとか顔面への一撃を回避する事に成功する。


 当然ながらレアルさんは簡単に魔法を掻き消しているし、サラさんの一撃は簡単に弾かれる。


「助かったよ、サラさん、ユーリッ!」


 僕はバックステップで下がりながらお礼を2人に告げる。


 これぞ友情パワーか!?


「ふんっ、感謝しなさいッ!」


 少し照れながら言うユーリ。


「間に合って良かったです……」


 ホッとしたように言うサラさん。


 2人とも少し震えている。先程よりも強い『威圧』の中、耐性もなく来てくれたのが嬉しい。



 それにそろそろ──


 僕はパチンッ、と指を鳴らすと【回復盾リカバリーシールド】の盾が霧散する。


「「「──!?」」」


「そこの4人──いけるかな?」


 少し驚いた顔をしている4人に僕は声をかける。


「「余裕ッ!」」

「ええ……」

「あぁ……」


 レラとロロは勢い良く返事をし、アイラとミゼルは戸惑いながらも応えてくれる。


 これだけ戦力があれば、一撃ぐらい入れられるでしょッ!



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