第72話 レイドバトルだ!?

「さぁ、最後の試験に向かおうか!」


「そうね」


「ぶっ飛ばすッ!」


「さっさと行きましょ。他の人はとっくに行ってるわ」


「緊張しますね……」


 僕が声をかけるとレラ、ロロ、ユーリ、サラさんの順で各々が応えてくれる。


「応援してますが──お気をつけて。どうやら今回の模擬戦は高ランク冒険者が依頼を受けて行っているようで怪我人が続出しているみたいです。無理されずに。フィアもどうやらそちらの治療に駆り出されたみたいです……」


 ユフィー様は心配そうに言ってくれる。


 フィアがどこに行ったのか疑問だったけど、そこで回復魔法を使うように言われたのかもしれないな。


「なるほど……まぁ、ボチボチ頑張りますよ」


 しかし、受験生に怪我をさせるような試験官か……嫌な予感しかしないんだけど?



 僕達はのんびり話をしている間に最後なったので模擬戦を行なっている場所に歩いて向かう──



「こ、これは……」


 到着すると激しい戦いが繰り広げられていた。一緒にいるメンバーもその激しさにごくりと唾を飲み込む。


 それにかなり強めの『』が試験官から放たれている。


 その試験官らしき冒険者と対戦しているのは僕に捕食者の目を向けていた銀髪の獣人の子が手甲を装着して戦闘している。


 この子は『拳の極み』持ちでレラと良い勝負をするだろうと予想していた子だが──


 現状は鋭い拳打を放っているが、冒険者の試験官は涼しい顔をして避けている。


 攻撃をしてはカウンターを受けての繰り返しだ。


 全身打撲が凄く、見ているこっちが辛くなるぐらい酷い。


 それに周りをよく見れば倒れている人がけっこういる。それ以外は震えながら棒立ちだ。きっと威圧が強くて動けないのだろう。


 戦闘不能になった人達は在校生が近くに設置された回復魔法の使い手がいる場所まで運んでいる。


 その先には必死な顔で治療するフィアの姿があった。


 重症者もいるな……。


 あの冒険者──動きがさっきの職種別試験の先生と変わらない……明らかにAランク以上確定だな……。


 それに模擬戦は一対一ではないのだろうか?

 さっきの女の子の他に黒髪の男の子が立ち上がって攻撃をしかけている。



「おーやってるな」


 この声は──


「ゴリ先生、何故ここに!? これはバトルロワイヤルか何かですか? ──おわッ」


 ゴリ先生の鉄拳制裁が迫るが僕は難なく避ける。


「ちっ。俺はゴルだと言ってるだろうがッ!」


 いや、なんかその見た目だとストレートに言ってしまうんです……というかあんたさっきどっか行ってたじゃないですか! 何でここにいるのさ!


「す、すいません。つい心の声が漏れちゃって……それで、この試験って一対一じゃないんですか?」


「俺は見回るのが仕事なんだよッ! 入学したら覚えておけよ? 一応、模擬戦は一対一のはずだが──面倒臭くなったんだろうな……。怖気ついたならやめておけ。どうせやられるのは目に見えている。あいつは次期Sランクだからな」


 ゴリ先生は総監督みたいな立ち位置なのね……なら僕の相手とかしないでほしかったよ!

 しかし、面倒臭いという理由でバトルロワイヤルになるのか……ゴリ先生が止めない所を見るに、許されてるんだな……。


「なら、あの人は先生より強いんですか?」


「馬鹿言うな。俺は引退したが──元Sランクだぞ?! あんな小童に負けるかッ!」


 ゴリ先生って、元Sランクだったのか……通りで強いわけだよ……。


 正直、ゴリ先生にはまだ確実に勝てないけど、あの人なら可能性はあるかもしれない。試したいな。


 ただ、あの獣人の女の子と黒髪の男の子は動きを見るにレラと同じぐらい強いのに2人がかりで押されているんだよな……次期Sランクか──


 ゲームとかで最初にある勝てないバトルみたいな感じと似ている気がする。力試しとしては十分だろう。


 どうせならで勝ちに行くか。


 レラ、ユーリ、ロロ、サラさん──そして僕があそこに加わればなんとかなるかもしれない。


「ゴリ先生、これ別に協力しても良いですよね? ──ちょ、殴らないでくれません!?」


「ちっ、お前回避力だけは一人前だな。当然、あいつ──レアルがこの形式にした以上は協力しても問題は無い」


 レアルさんって言うのか。この形式って……まぁ、共闘していいのならレイドバトルみたいなものだな。


「わかりました。これって加点はどうなってるんですか?」


「……あそこに他の教員がいるだろ? あいつらが動きとかを見て加点している。お前達が用紙を渡せば参加が決定する」


 なるほど、確かに言われてみれば先生っぽい人がいるな。


「先生──」


 もうゴリ先生とは言わない。殴られるから!


「なんだ?」


「──別に倒してしまっても構わないでしょう?」

 僕はキメ顔を意識する。


「ふっ──やれるならな。やる気満々だな」


「だって、これ試験でしょ? 死ぬわけじゃないんだし自分がどこまでいけるか確かめる良い機会ですよ。満点の加点は頂きますよッ!」


 ふっ、決まったなッ!


 いつか言いたかった言葉が言えたッ!


 キメ顔で言えたはずだッ!


 心は既に大満足だなッ!



「ロイド殿……」


「サラさん、何ですか?」


「とてもではないが──勝てるとは思えないのですが……」


「そうよ……まさか『狂戦士ベルセルク』のレアルがいるなんて……無理よ……」


 サラさんだけでなく、いつも強気なユーリまでが怖気ついているのか。さすがに強制はさせられないしな……3人でなんとかするか。


 しかし物騒な二つ名だな……有名人なんだろうな。僕は全く知らないけどね!


 レラとロロもきっと知らないんだろう。二つ名や名前を聞いても平常心だ。むしろ早く戦いたくてうずうずしている。


「──なら2人は不参加か……ロロとレラは参加するんだね?」


「「当然ッ!」」


 中々頼もしいじゃないか。レラとロロの実力や戦い方は知っているから連携も取りやすい。


「先生、これ3人分です」


 僕達3人は用紙をゴリ先生に渡す。


「良い目だ。健闘を祈る」


 僕は笑いながらサムズアップする。



「さぁ、レラ、ロロ──レイドバトル開始だッ! 協力して倒すぞッ!」


「「了解ッ!」」



 っと、その前に──


「2人とも少し待っててね」


 自己紹介しますかね!


 僕が近付いて行くとレアルさんが声をかけてくる。


「お前らも試験受けるのか? 俺は一応、スキルや武器の使用が許されているが、まだ使っていない。使わせるぐらいは根性見せてくれよ? さぁ、いつでもかかってきていいぞ? 


 まぁ、子供だし舐められて当然か。というかスキルや得意武器無しか……せめて使わせたいな。


「へ〜なら僕達が使わせてあげますよ。あ、すいません、戦う前に僕の自己紹介を──そこの2人ちょっとストップしてくれませんか?」


「「五月蝿いッ!」」


 この2人……止まる気配が無いな。をしたいのに介入出来ないなぞ? そもそもバラバラに戦っても勝てないんだし、協力してほしいんだけどな。


 しょうがない──



 僕はを込める──




 ◆




 ふむ、やはりライラの息子か──


 肝が座っている。どこまでいけるか楽しみだな。


 こいつら3人の目は修羅場を潜っている事が伺える。勇気と無謀は違うが、こいつらは馬鹿ではあるまい。


 さっきの会話から察するに──

 まだ11歳で死の危険を間近に感じた事があるのだろう。


 確かに即死するような攻撃の場合は俺が選んだ奴らを介入させる予定だ。その為にそこそこ腕の立つ奴らを配置しているからな。


 こいつらと今戦っている2人は伸びるだろうな。


 特にロイド──こいつはSランクまで上がる事が出来るであろう素質がある。なんせ子供の身で強化無しとはいえ、俺の攻撃を防ぐ事が出来る子供なんてまずいないからな。


 しかし、今回の試験ではレアルに鼻っ柱を折るように指示してある。

 今年はユニークスキル持ちが多く、世間では持てはやされて自惚れている奴らばかりだからだ。


 上には上がいると叩き込む──



 そんな事を考えているとロイド達はレアルの前まで行き、何やら話し出す。



「へ〜なら僕達が使わせてあげますよ。あ、すいません、戦う前に僕の自己紹介を──そこの2人ちょっとストップしてくれませんか?」


 ロイドの声を無視してレアルに攻撃をしかける2人。


 あいつは何がしたいんだ? 自己紹介なんぞ必要ないだろ。


「「五月蝿いッ!」」


 そら戦闘中ならそうなるな……。



「ほぅ、中々魔力を込めておるな」


 俺の後ろからいきなり大賢者のババアが現れる。


「ババアか……魔力?」


「ババア言うでないわッ! このゴリラがッ! これだから脳筋は……坊主をしっかり見てみぃ」


 ババアとは昔からの付き合いだが、まさかこんな所で再会するとはな。

 このババアが駆り出されるぐらい今回、学園の改正は重要なのだろう。


「……確かに魔力を込めているな。何するつもりだ?」


 ロイドの雰囲気が変わり、口を開く──


「──止まれ」


「「──!?」」


 ロイドの低い声にピタッ、と2人は止まる。レアルも目を見開いている。


 かなり強い『威圧』をロイドが放っている。


 高ランク冒険者の『威圧』と変わりがないかもしれんな……この年で『威圧』を使いこなすとは……。


「レアルさん──僕はロイドです。よろしくお願いします」


 ロイドはレアルに手を差し出す。


「……あぁ、中々の威圧だ。少しは楽しめそうだ」


 レアルも手を握り、握手をする。


「さぁ、どうでしょうか? 僕は盾使いですのでご期待に添えれるかわかりませんが──全力で戦わせて頂きますよ。僕達が今どれぐらい強いのか──確かめさせて頂きますッ!」


「ふふっ──さぁ、かかってくると良い──」


「では──遠慮なく──」


 こうして戦闘が再開された──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る