第71話 この目付きは!?

 さぁ、次は『模擬戦』だけど──


 ロロやレラ、サラさん、ユフィー様が終わっていない。


 ユーリも参加するらしいから一緒に待っている所だ。


 ユフィー様は後衛の先生の所で弓の命中精度を確かめている。王族だから英才教育を受けているんだろうなぁ、と思うぐらい扱いが上手い。一通り確認が終わるとテントの中へ入って行った。


 どうやら『模擬戦』は受けない判断のようだ。


 僕の『魔力察知』に反応があった──おそらくテント内でユフィー様は『魔弓』をチェックをしているのかもしれない。



 視線を前衛職の方に移すとサラさんが木剣を使って前衛担当の先生と撃ち合っていた。


 レラに比べると剣速は数段劣るし、太刀筋がわかりやすい。だけど──


 型というのだろうか? 構えが綺麗だ。


 攻防もしっかりとして安定している。さすがアールスレイ王国騎士団長の孫娘だ。


 丁寧に指導された後、サラさんは模擬戦に行くと伝えている。



 しばらくするとロロの試験が始まった。


 ロロは木槍を携えてやる気満々だ。


 僕と出会った当初に戦った時は魔法や『魔槍』などを乱打して周りの被害が凄かった記憶がある。


 今回は木製を使っているから魔力を纏わせると直ぐに壊れてしまうだろうから使わないはず。


 それにこの試験は基本的な扱い方を見る試験だからね……というか僕の試験が特殊過ぎだろ。


 ロロの槍捌きはどんな感じなんだろうか?


 それに見た感じ、型も何も無い。ただ、槍を肩に担いでいるだけだ。


 どうやらロロが動き出すようだ。


 ──!?


 先程ののほほんとした感じは無く、流れるような動作で距離を一気に詰め、自分の間合いに入れないように槍を突き出していく。


 ロロは頭が空っぽだけど、戦闘センスはかなり高い事が伺える。


 やはり──竜人と言われる種族だから元々の能力が高く、速いな。


 こうやって戦うのではなく、人の戦闘や模擬戦を見ると違った感じがする。


 ぶっちゃけると──かなり速く感じる。


 今も笑いながらロロは滅多刺しを行っている。


 よくあんなのを対応出来たなと思う。【直感】先生達がいないと僕は普通にやられそうだな……。


 試験官の先生も難なく捌いているあたり、やはり強い。


 最終的に槍は届かなかったけど、とても褒められている様子が伺える。



 次はレラだ。


 木剣を使って凄まじい速度で斬り込んで行くが、先生が受け流していく。


 ロロの時と同じで、ここにいるほとんどの人の注目を集めていた。


 まぁ、注目度としては僕の方があったとは思うけど……なんせ『ゴリラvs子供』だから……。


「ねぇ……ロロやレラの攻撃って見える?」


 ユーリは唖然とレラを見ながら僕に聞いてくる。


「……なんとか」


「え? あんたあれ見えるの? おかしいんじゃない?」


 なんとも酷い言い草だ。仮にも僕は前衛で盾使いなんだから見えないと対処出来ないじゃないか!


 確かに今回は軽い木製を使っている為──かなり速い。

 僕も【視覚】を強化して、目で追うのがやっとだ。


 あの速度に対応出来るかと聞かれれば一応出来るだろう。その代わり【直感】や『危機察知』先生達に頼らないと無理だ。


 後衛職のユーリにあれは視認出来ないだろうな。というか普通の人ならほとんど見えないだろ……。


 レラと僕に関しては──


「レラは母さんから稽古を受けてるからね。あれぐらい出来て当然さッ!」


 ──そう、幼い頃から母さんの扱きを乗り切っているから問題ない! 僕もさっきゴリラの攻撃を防いだし!


 きっと、いつの間にかいなくなったリリアさんも良い報告をしてくれるだろう。


「そういえばレラってライラ様の弟子だったわね……納得……あんたもSランクのゴリラの攻撃を受け切ってた異常者だし……」


 本当失礼だな! っていうかゴリ先生は完全にゴリラ認定されてるな。


「……あのゴリラね……死ぬかと思ったよ。というか、母さんってだけで納得出来るんだ……」


 田舎にいたのもあるけど、母さんの昔話を聞いてても「若い頃は凄かったんだな〜」ぐらいしか思わなかったし、詳しく言ってくれないからそれ以上聞く事もなかったんだよな……訓練が厳しすぎて、疲れ果てた僕にそんな暇がなかったとも言う!


「ライラ様の訓練について来れる人なんて一握りだけなのよ? 一昔前は『聖天』でもその訓練に耐え切れた人しか聖女様の側近になれなかったんだから! 通称──『地獄巡り』と呼ばれていたわ。ついてこれない者は『』を飲まされるから成り手が少なかったそうよ? 訓練内容も──」


 マン汁並に酷い通称名だな……しかも久しぶりに『マン汁』って聞いたな……聞くだけで吐き気がする。もう飲みたくないな……。


 話を聞くに聖騎士の訓練内容は幼い頃から個別で僕がやらされていた訓練と変わらないメニューだった。違う内容と言えば、出来なかったら激しい体罰のような訓練が無かった事ぐらいだろう。その代わりにマン汁だったけど……どっちも体への暴力の臭いがプンプンするから、そんなに変わらない気がするけど。


 まぁ、酷い訓練を幼い頃からやらされていた事が判明した……。


 僕が訓練をやり始めた5歳ぐらいの頃──


『これが異世界式の訓練方法なんだな! ハード過ぎるし死ぬだろ! この世界の子供達逞し過ぎるだろ! それに何だよこのクソまずい飲み物は!?』


 ──とか心の中で叫んでたな……懐かしい。


 遠い目をしながらそんな事を考えているとレラも試験が終わる。


「相手の動作を予測して動きなさい」など、他の人と違って少し踏み込んだアドバイスを受けているようだ。


 ここで僕は一言物申したい。


 前衛担当の先生はで凄く親切丁寧だ。


 僕の時とは天国と地獄ぐらいの差があると断言しよう。


 何故、僕だけゴリ先生だったんだ?


「ユーリ……何で僕だけゴリ先生が担当だったのか知ってる?」


 本当不思議なんだよね……僕だけしかゴリ先生の試験受けてないじゃないか……。


「…………」


 何故急に黙る!?


「その反応は何か心当たりがある感じ?」


「……私が半透明の天蓋に攻撃しながらエロい事してるって叫んだからじゃない?」


 気不味い表情で僕と視線を合わせないユーリ。


 何言ってくれてんのさ!? 確かにエロいはするけど断じてエロいはしていないぞ!?


「そっか……何でそんな事言ったの?」


 ユーリは賢いとフィアから聞いている。きっと何かしら理由があるはずだ。


「スフィア様を魔の手から解放する為よ。そもそも、魔力を使った人には後で魔力回復ポーションが貰えるから『魔力譲渡』は必要じゃなかったのよッ!」


 えーっ! 魔力回復ポーションとか支給されるの!?


 ヤる前に言ってよ……僕なんかゴリ先生の相手をさせられたんだけど!?


「……あぁ、なるほど……なんか僕の『魔力譲渡』って他の人と違うらしいからね……回復も早いから便利っちゃー便利なんだけどね……そうか……ポーション貰えたんだ……」


「エッチぃのは禁止ッ!」


 ユーリによって『魔力譲渡』禁止令が発令された件について!


「……はい」


 せっかく普通に話が出来るようになったんだ。

 仕方ない……緊急時以外は守ろう……。


 しかし、この鋭く射殺すような目付きはユラさんに本当似ているな……ゴミを見るような感じだ。


 エレノアさんが裸で抱きついて懇願してる時にユラさんが見せた目付きと一緒だ……。


 フィアがこの場にいればきっと止めただろうな……なんか魔力を使い切る癖がついてる気がするし……。


 そういえば、さっき先生に声をかけられてテントじゃなくて、どこかに連れて行かれたな。


 どこ行ったんだろ?


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