第70話 受けるしかない!?

 とんでもない事になってしまった……。


 この目の前のゴルという先生から攻撃を受けている。


 これが僕の『職種別試験』だという。


 向こうにいる先生の方が丁寧に指導しながらやってくれてるから是非ともこのゴリラさんは遠慮願いたい。


 何で僕だけ鉄製の武具な上にゴリラの相手をしないとダメなのか?


 それは僕が心の中で「ゴリラみたいだなぁ」と思ってそのまま名前を言い間違えたからだろう。まぁ、自業自得だけどね……だってゴリラみたいなんだもん!


 後──


 フィアと抱き合ってたのが良くなかったのかもしれない。教育的指導とか言われたし……。

 僕は『魔力譲渡』をしていただけなんだが、このゴルという人はそれを知らない。


 そこから導かれる答え──つまり嫉妬だ。

 このゴルという先生は相当モテないのだろう。きっと僕を見て羨ましくて仕方がないのかもしれない。


 でも、いくらなんでもペシャンコになるような攻撃をしてくるとはいかがなものか!?



 やはり、この人の事はゴリ先生と呼ぼう。


 というか……周りから嫉妬の怨嗟が聞こえてくる……。


 さっきの天蓋も、もっと強力な盾を作っておけば良かった……入学してから変な噂が流れない事を祈ろう。


 こういう時は──


 印象を操作した方が良いと前世の記憶が言っている。


 このゴリラに勝ったら少しはマシになるだろう……そんな事を思っていたんだけど──


 このゴリラさん、アホみたいに強いんだよね……。



 さて、地面にどでかいクレーターが出来る強烈な一撃目は避ける事に成功したまでは良い。


 本当、『見切り』や『アクロバティック』がなかったらペシャンコになったかもしれなかったけどね!


 それより問題は次の一撃だ。


 なんとかゴリ先生の後ろに回ったのはいい。この後どうするかが問題だ。この鉄の盾を投げて攻撃でもするか?


 ──とか思っていると一気に視界が明瞭になる。


 どうやら素の力による横薙ぎだけの風圧で砂埃を消し飛ばしたっぽい。


 しかも、非常に拙い事に──既に素早く移動して大剣の攻撃範囲内だ。避けるのは難しい。


 ゴリラみたいなのに相当速い。


 受ければ間違いなく吹っ飛ぶだろう。


 いや、吹っ飛ぶだけで済むわけがないな……間違いなく骨は粉々だろうッ!


 単純なパワーでこれとか有り得ないでしょ!


『力こそ正義』──


 領主邸で姉さんが言った言葉が頭を過ぎる。

 確かに『力』と言えば財力、権力、腕力、知力、武力とか色々とある。


 どんな『力』でもあればなんとかなる事が多い。


 でもなッ!


 今回は試験じゃん!?


 せめて木製でやってくれよ!



 あと、リリアさんの応援──気が抜けるからやめてくれませんかね!?


 そもそも何で学園内にいるのさ!?



 というか大剣が来るゥゥゥッ!


 どうする!?


 僕から『アイギス』を取ったらそこらの人らと変わらないんですけど!?



 深呼吸してベストアンサーを探すッ!


 すぅ──


『避けれないなら、受ければいいじゃない?』


 困った時、たまに現れるマリーさんの言葉が聞こえてきた気がした。


 マリーさん……受けたくないから避けようとしてたんですが?!


 受けるとか無理無理! ミンチになる未来しかみえないんですけど!?


 むしろ裏切られた気分だよ!?


 僕の中で『マリーさん、お前もか!?』って他の偉人さんが叫んでるよ!


 誰か──脳内の僕よッ! 良い案をくれッ!



『笑えばいいと思うよ?』


 既に大先生のお陰で笑ってるよ! しかもこれ偉人ですらない漫画か何かの名言じゃん!



 考えろ、考えろ、考えろ──僕はここで満点合格しなければならないんだッ!


【視覚】のお陰で十分見えているし、【直感】により攻撃箇所はなんとなくわかる。


 ただ避けれないだけだ。


 だけど、普通に受けたらヤバい。


 いつも通り──逸らすにしても、このタイミングだと吹き飛ばされる事に変わりはない。


 ならばしかない。


 僕に強化系スキルはない。


 ここで手に入れるッ!


 僕の考察が正しければ──


 魔力を体に纏わせれば『身体強化』のスキルが得れるはずだッ!


 強化さえしてたら吹き飛ばされる事はないはす! たぶん!


 なんかマリーさんの言葉通りになってるのが癪だけど! この有り余った魔力を活用する時がやってきた!


 筆記最終問題を証明するのだ!



「──すぅ──」


 僕は息を吸い込み集中し、魔力を全身に纏うように流していく──


 鉄の盾だと壊される可能性もあるから盾にも魔力を流す。


「さぁ、お前の力を見せて貰おうかッ!!!」


「──来いッ!」


 迫り来る大剣──


 場所は腹部だ。刃引きしてあっても大剣で斬られたら引き千切れそうだ。


 僕は盾と四肢に魔力を込めて──踏ん張る。


 インパクトの瞬間、吹き飛ばされる事なく──


 僕とゴリ先生は近距離で睨み合う形で鍔迫つばぜり合いみたいになる。


 踏み込んだ理由は横薙ぎに振るわれる大剣の1番手元付近の力が少ないからだ。


 これなら体の小さな僕であってもダメージを最小限に出来る。って、師匠が前にそう言ってた気がする!


 そして、身体強化も僕の推察通りのようだ。凄く体が安定しているように感じる。

 ゴリ先生の圧倒的なパワーの前でもなんとか耐えれている。


 ただ、本当この人の力おかしくね? この人スキル無しのはずだよね?


 さすがゴリラみないな見た目だけあるな!


 そんな事を考えているとゴリ先生が話し出す。


「ふむ、合格だ。お前は俺の権限で満点をやろう。まさか防ぎ切られるとは思いもせんかったな……」


 おぉ!? 満点!?


「──やったッ! ありがとうございます! ゴリ先生ッ!」


「お前ぶっ殺すぞッ!」


「ちょ、ゴリ先生──大剣振り回すと危ないですよッ!」


「──ちょこまかと──むんッ!」


「え゛!? 嘘ん!?」


 さっきの攻撃よりも数段速い速度で振り上げられた大剣の風圧に吸い込まれそうになり──


 全く動けなくなった所に大剣が迫る──


 これにはさすがに僕も対応が出来なかった。


 迫る大剣がピタッ、と目の前で止まる。


 冷や汗が半端ない。


「──『身体強化』ってのはなぁッ! こうやって使う事も出来るんだよ。覚えとけッ! 後、俺の名前はゴルだッ! わかったな!?」


「はい……」


 ゴリラに『身体強化』を使わせるとヤバいのはよくわかったな……パワーを底上げしただけの風圧があそこまで凄いとは……。


 この人はやっぱり、かなり強いな。


 僕も慢心しないで気合い入れないと。



 ゴル先生か──


 去り際の姿はやっぱりゴリラに見えるな。


 バナナとか食ってたら本物と区別がつかない──


 ──おわっ!?


 大剣が飛んできたよ!


 この世界の人は勘が鋭い人が多いな……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る