第67話 ゴリ先生と呼ぼう!?

 あの後はそそくさと逃げるようにその場を後にした。皆も既に追いついて来ている。


 しかし、ラノベのようにはいかないものだ……まさかドン引きさせてしまうとは……。


 結果的に当初の目的は達成している気がするからいいんだけどさ……。


 クレアおば──じゃなくて、大賢者様作のアイテムを2種類も破壊すれば問題ないでしょ……なんせ僕1人だけらしいし!


 うんうん、前向きに行こう!


 さぁ、次の試験は『職種別試験』だ。


 到着すると──前衛職と後衛職、非戦闘職に別れているみたいだった。


 皆が試験を受けているのを見ていると筆記試験の時にいたスキンヘッドのムキムキ先生がいた。


 筆記試験の時も思ったけど、この人──にそっくりだな……心の中でゴリ先生と呼ぼう。


 実はこの異世界にもゴリラはいる。魔物だけどね。


 実物のゴリラの魔物もこんな感じなのかと顔をまじまじ見ていると人語を僕達に話し出すゴリ先生。


 いや、凄く失礼な事を思っているけど他意は無い。本当はこの場で笑い転げたいぐらい似ているから、試験の為にふざけた事を考えながら緊張をほぐしているのだ。それに心の中だけだし問題ない!


「坊主共、ここで基本的に試験はになる。特に後衛職と非戦闘職はな」


 ん? どういう事?


「前衛職は??」


 僕は疑問の声を上げる。


「この後の模擬戦は自信のある者が受けると良い。模擬戦では加点しかされんが──現役高ランク冒険者が相手で怪我をする可能性が高いからな。というか確実に怪我をする。今年の試験では去年の模擬戦内容の試験がこっちの職種別試験に組み込まれているし、次の模擬戦を受けない場合は組手の後に自分の得意分野を見せてくれれば加点する」


 なるほど、模擬戦の試験は現役冒険者が相手か……確実に怪我をするって……手加減無しなのか?

 現役高ランク冒険者が相手という事は特に非戦闘職には難しく、危険性が高い試験なんだろう事は予想出来るが……。


 確か──今から受ける試験は今年から後衛職の死亡率が高いから実施されたと聞いているが統合された感じなのかな?


 さっきの的当て試験を免除された人と模擬戦を辞退する人はここで確認されて加点をされるという救済処置が取られているのは公平さがあって好感が持てるな。


 職種別試験というのは言葉だけで実際のところは生き残れる可能性が高いかどうかを見極めるテストなのだろう。一応冒険者育成学園だし……魔物と戦う授業だってあると聞いている。


 一応、ゴリ先生に聞いてみるか。


「ここでは具体的には何をするんですか?」


「ふむ、前衛職はここで用意したの武器を使って基本的な扱い動作確認と対戦相手に一撃を入れられるかの技術を見る。後衛職と非戦闘職は近接戦闘がどれぐらい出来るかを見る事になる。基本は前衛職の試験と同じだが、武器は何でも構わない。そして、その後に各々が希望するのであれば模擬戦に、希望しない場合は自分の得意分野を見せてもらう。それはあっちのテントの中で見せてもらう事になる。わかったら並べ」


 前衛職は用意されている木製の武器を使って基本的な扱い方を試験するのか。


 模擬戦を辞退したら向こうに見えるテントで得意分野を見せるのね。


「「「はーい」」」


 返事をし──僕、レラ、ロロ、サラさんは前衛、フィア、ユーリ、ユフィー様は後衛の場所へ並ぶ。


 魔術師、回復術師、弓士であるユーリ、フィア、ユフィー様は先程の点数を見られた後はさっきの話通り、護身術というか自衛を試されるようだ。


 しばらく待っていると──


 ──ユーリの試験が始まるようだった。


「では、開始する前に簡単に説明しておく──近接で自分の全てを使って生き残れる証明をするか、俺に一撃当てれば試験は終わりだ。俺からは攻撃はしない」


 ゴリ先生ではない男の先生が話し出す。この人が担当のようだ。


 後衛職や非戦闘職は前衛職と違って武器は何を使ってもいいみたいだけど、先生は攻撃はしないのか……。


 開始の合図と共にユーリは懐からナイフを手に持って、先生目掛けて斬り込んでいく──


 構え方は様になっているけど、動きがぎこちない。


 あまり練習をしていないのかもしれない。スキルも──うん、無いな。今軽く見たけど『短剣術』とかは無い。『料理』スキルはあったけどね……正直意外だ。ユーリって料理が出来るのか……。


 その他にもスキルがあったけど、ナイフとは関係が無い。何故そのスキルの武器を使わないのかと思うが、単純に貸し出し用武器にはなかったからだと納得する。


 がむしゃらに斬り込むユーリだけど、当然ながら先生には攻撃が当たらず、空を斬るばかりだ。


「噂の大賢者の再来でも懐に入られたら簡単に死ぬぞ?」


「うっさいわねッ! ここからよッ!」


 ユーリは息を吸い込み、ナイフに魔力を込める。するとナイフが炎に包まれてに変わる。


 あのナイフ──魔道具か!?

 あれなら別に武器を借りなくて済むな。さっきユーリのスキルでちょっと気になったのは『鞭術』だ。


「──!?」


 先生は驚いた顔をした後直ぐに平静を保つが、そこには余裕の表情はなかった。


 鞭攻撃は音速を超えるはず。その事を瞬時に理解したのだろう。


「さぁ──行くわよッ! 私に跪きなさいッ!」


 どんどん鞭を放ち続けるユーリ。明らかに鞭の方が扱い慣れている事が伺える。


 うわぁ……鞭が地面に当たると裂けてるよ……魔道具の威力って凄いな……。


 ロリロリなユーリが鞭を使っている光景は新しい何かのプレイのように見えるし──


 そして、先生が楽しそうにしている姿を見ると──


 異世界だし、そんな趣味の人もいるかもしれないと思うと色々と複雑だ。


 別にこの先生がそういう性癖を持っているとは言っていない。ただそう見えるだけだ。


 というか、この先生めちゃくちゃ強いんじゃないかな?


 魔法が込められた鞭の攻撃は雑魚の魔物なら十分に殺せる威力があるっぽいのに簡単にで逸らしているし、一向に当たる気配が無い。


 しばらくすると、先生が「十分だ。魔道具に頼り過ぎるなよ」と終わりを告げられる。


 途中からは接近戦ではなかったけど、十分生き残れる証明はしただろう。


 しかし、鞭で攻撃が当たらないのか……前衛担当の先生も同じぐらい実力がありそうだし、僕も気合いを入れないとダメだな。


 全然関係ないけど、この突っ立ってるゴリ先生とユーリが戦闘していたら野獣を躾けてるみたいな図になったな……。


 というか、ユーリは模擬戦受けるっぽいぞ? テントの方に行ってないし!


 テント行ってよ!


 とか思っていると、ユフィー様の順番がやってきた。


 弓の攻撃はさっきの的当てで問題ないなかったようで単純な肉弾戦を行なっていた。


 本当にこの人は王女様なのか? と疑問に思うような体捌きだった。


 アレクさんがお転婆と言っていたが、そんなレベルではない。


 普通にニヒルに笑いながら殴りまくる姿は脳筋王女という言葉が相応しいだろう。


 なんせ拳が地面に当たった時は小さな凹みが出来るぐらいだったし……何やらスキルでも使っているのかな?


「もう十分だ……前には出過ぎない方が周りは心配しないと思うぞ?」という言葉と共に終了を告げられるユフィー様。


 先生も王女様とわかっているのか、周りの事を考えるように遠回しに伝えられていた。


 きっと、脳筋なんだと思われたのかもしれない。弓を扱うより、直接殴ってる方が生き生きとしてたし……。



 さて、次は──フィアかな?



 ──あれ? いない?

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