第66話 逃げ道無いし!?

 ──このお婆さん……クレアさんというのか……料理とかするお婆さんで、きっとシチューとかを作ってくれる流れだ!


 いやいや、今はふざけてる場合じゃない! 確かエレノアさんの予知で大量の魔法を撃ってきた激強の人じゃね!?


 ヤバいな……この人の前で目立つと目を付けられるかもしれない。


「やっぱり免除で良いです」


 僕の頭は一瞬にして冷え、即座に免除する方向で決意を固める。


 自重しないと言ったが──あれは嘘だッ!


 自分も大事!


 もうトップ通過は諦めよう!


 どうせ母さんに怒られるだけさ! なぁに皆とクラスが違っても同じ学校に通ってるんだ。いつでも会えるし、何かあったら即助けに行くッ!


 これで問題なしッ!


「え? お前、変わり身早くね?!」


 うるさい! それよりもこのお婆さんに目を付けられないようにするのが先だッ!



 そんなやり取りをしていると、ユーリがこちらに気付いて声を上げる。


「あっ、クレア様ッ!」


「おやおや、ユーリもおったか」


 ユーリとこのお婆さんって知り合いなの?


「はいッ! 見てて下さいよ! 『暴風刃エアロテンペスト』」


 ユーリが的に目掛けて『風魔法』を放つ。


 風の刃が的を全方向から切り裂いていく──


 おっそろしい魔法だな……あんなのくらったらミンチになる未来しか見えないぞ?


 採点板を見ると65点と表示される。


「ほうほう、中々上手くなったのう」


「ありがとうございますッ!」


 ユーリは褒められた事が嬉しいのか、その場でジャンプして喜んでいた。


 ちなみに胸は無いから全く揺れていない。揺れているのはツインテールの髪の毛だけだ。


 そんな事を思っているせいか──キッ、と睨まれてしまった。相変わらず勘が鋭い。



 続いてレラが『魔法剣』を使って斬ると65点と表示される。まだ少し魔力の使い方が荒いけど、かなり形になってきている。


 フィアは以前より太くなった閃光シャイニングレーザーで65点を出して喜んでいる。


 こちらもユーリと同じくジャンプして喜んでいる。ユーリと違ってお胸様が揺れている。


 とても眼福だ。当然ながら僕はガン見はしていないが、周りがガン見している。


 まぁ、気持ちはわかる。僕も最初の頃は重力に逆らうおっぱいに驚いたものだ。



 そして、サラさんは剣技を繰り出し30点。ユフィー様は『魔弓』で50点だった。


 サラさんを見るにあんまり点数が出ないようにされているのかもしれないな。他も50点を超えてる人が少ない。


 というか傷はつくものの──全く破損していない。かなり頑丈なのだろう。


 さて、残りはロロだ。何故か槍を持って遠い的を壊す気みたいだ。普通は槍なら近距離にするはずだけど、どうするんだろ?


「──『半竜化』──」


 ん? 竜の鱗がロロの肌を覆っていく。


 そして、魔力を込めた槍を振りかぶって──


 って、投げるの!?


 勢い良く投げられた魔力を纏った槍はそのまま的の中心に接触する──


 点数は80点だ。周りも驚いている。おそらく最高得点なのだろう。しかし、それでも少ししか壊れないっておかしくね? あれ何で出来てるのさ!?



「ふむ、例年通りの的なら満点続出じゃな。さて──坊主よ、的当てはわしが許可してやるぞ? お主はライラとカイルの息子じゃろ? それにさっきの魔力量はわしと同等かそれ以上じゃ。を持つ盾使いがどうやってあれで何点を出せるか見てみたいわい」


 僕って精霊魔法の素質があるのか? そういや、エレノアさんと契約させられてたな……でも精霊魔法なんて使えないけどね。スキル無いから!


 いやいや、それより既に目を付けられていた件について!


 しかも素性もバレてるじゃないか!


 先生なんか「マジか! こいつがあの伝説の息子!?」とか言ってるんですけど!?


 あの伝説って何なの!?


 というか、『』という言葉とユーリと親しげに話している姿から導き出される答えは──


 この人──じゃんッ!!!!


 うわぁ……この試験回避したい……フラグの回収早すぎるでしょ!


 本当は『アイギス』さんに『ブレス』セットして跡形もなく消し去った後に『あれ? 僕何かやっちゃいました?』って白々しく言って、周りに拍手されて次の試験に──


 という流れが消え去ってしまったじゃないか!


『双聖壁』の息子とバレてハードルも上がったじゃん!


 僕は冷や汗が出る。


「いや、加点の方がありがたいかな?」


 なんとか回避したい。


「大丈夫じゃ、もしあれに傷がつかんかって点数が低くても加点してやる。わしの権限でな?」


 そんな依怙贔屓えこひいきいらないよ!


 逃す気無いじゃん!


 諦めるか……既に目は付けられているし、大先生さえ使わなかったら問題ないはず。


 腹括るか……。


 ただ、ブレスとか使って後でつつかれるのは嫌だな。それ以外の方法でなんとかせねば……。


「わかりました──ただ参加する以上、加点はいりません」


「ふむ、その──にやけ面は相当自信があると見た」


 大先生の効果で緊張をほぐしてるだけだから!


 内心慌てまくってるよ!


 僕の中で出来る単体最強技はあれしかない──


「では──いきます──【盾刃転シールドリボリューション】ッ!」


 盾を具現化して回転させていく。


『魔力操作』が前より向上しているから溜めの時間が短くなったな。これなら対人戦でも十分使える。



 大賢者様は「ほぅ」と感心し──周りは盾が急に現れたのと、その使い方に驚愕していた。



 とりあえず──


 なるようになれッ!!!


 目指すは完全破壊ッ!!!!


 全力で予定通り──作戦を遂行するッ!!!!



 高速回転した盾は甲高い音と共に的に向かっていく──


 そして的に当たると同時に真っ二つに切断──


 ──出来てないし!


 硬すぎるだろ!?


 採点板は!?


 点数板を見ると80点だった。


 ロロと同じか……。


 おそらくインパクトの瞬間にダメージが計測されているっぽいな。


 一回の攻撃しかダメなんだろうけど、この攻撃は操れるからこのまま継続しても問題ないだろう。


 僕のターンはまだ終わっちゃいないッ!


 試しに回転力を上げて攻撃すると90点が表示される。


 おぉ、もっと回転力を上げたら満点だな!


 僕は満点を出すんだ! もっと回転を──


 ──ぬおぉぉぉぉッ!



 そして、今出来る最大の回転にして的に向けて放つと、今度は真っ二つになった。


「よしッ! 満点だッ!」


 視線を周りに移すと──


 周りはシーンッ、としていた。


 しまった……満点取るのに必死だった。


 とりあえず、決め台詞だ!


「あれ? 僕、何かやっちゃいました?」


「やっちゃったのう……受験生で完全に破壊したのは初めてじゃな……」


「なにこいつ?」みたいな周りの視線が痛い……。


 ラノベのように「すげぇぇぇっ!」ってならないんだね……何か僕の思ってたのと違うぞ?


 きっと今、僕の表情は笑いながら引き攣っているんだろうな……。


 逃げよう……。




 ◆




 こやつ……わしでも真剣に魔法使わんと粉微塵に出来ん物を軽々と壊しよった……。


 これは今回用に冒険者ギルドの依頼でAランク相当で破壊可能に作っているというに……。


 しかも、盾使いでこの攻撃力──


 先程の試験では周りを圧倒する『威圧』と莫大な魔力量──


 そして、精密な魔力操作──


 親も大概じゃったが、2人の子供は完全に化け物じゃな……まさかミスリル製の的が壊されるとは……。


 しかも、先ほどの試験では水鏡に微精霊が大量集まっておった。


 小僧もそうじゃが、他にも素質が十分な子供も多いし、学園が始まったら楽しみじゃな。


 色々と──

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