第6話 ピンチは突然に!?
あの後、シャーリーさんとフィアは僕の家に泊まった。
しばらくはここにいると聞いている。母さんと積もる話もあるのだろう。
僕はというと──今は庭で木剣を振っている。何故、盾ではなく、木剣なのか?
もちろん『剣術』スキルが欲しいからだ!
横でフィアが素振りをする僕を見ている。
「シャーリーさんと一緒にいたらいいよ? 見てても楽しいものじゃないしね」と言ったのだが、首を横に振りながら外に出てきた。
「やってるわねっ! 私もやるわよ! って誰よその子は!?」
しばらく素振りをしているとレラがやってくる。
「母さんのお客さんが来てたんだ。この子はその人の娘さんでフィアだよ」
「……ス……フィ……アです……」
フィアの態度はやはりたどたどしい。
「聞こえないわよ! もっと声を腹から出しなさいっ!」
フィアは僕の後ろに隠れてしまう。
「レラ、もう少し優しく言ってあげてよ」
「私は優しいわよ!? というかロイから離れなさいよ!?」
少し語尾が強いからキツく聞こえてくるんだと思うよ? とは口が裂けても言えない。
言ったら最後──腰にぶら下がっている木剣が僕に襲ってくる可能性があるから。
「まぁまぁ、レラが優しく言ったらきっと大丈夫だよ」
これが僕の精一杯の言葉だ。
「私はレラ……ロイとは幼馴染よ。よろしく……」
レラは出来る限り語尾を強めないように優しく話しかける。幼馴染の部分を強調したように聞こえたのは気のせいだろうか?
「──スフィア……です」
するとフィアも深呼吸をしてから自分の声をしっかりと出す。
何気に僕もしっかり初めて聞いた気がする。
何より、名前がフィアではなく──スフィアだった事に驚いている。
レラも名前が違うわよ? と言わんばかり僕を睨みつけてくる。
そんな目をされてもシャーリーさんも訂正しなかったしわからないよ!
「スフィアって言うのね? ロイはフィアって呼んでたけど?」
「私の愛称は……フィア。親しい人はそう呼ぶの……」
なるほど……それでシャーリーさんから訂正が入らなかったのか。間違ってはいないしね。こちらも親しい人という言葉を強調している気がするな……。
「親しい!? ロイとはどんな関係よ!?」
「……婚約者よ」
頬を赤らめるフィア。
嘘だ! 婿に迎えればとか言ってたけど断じて婚約者じゃない!
そもそも、婚約ってお金持ちの人や貴族って呼ばれる人達がするもんじゃないのだろうか?
それより、僕はやっぱりモテ期が到来しているのか!?
「なっ!? そんな事は無いわっ! 私とロイは将来冒険者になって一緒に暮らすのよ!」
それも初耳だ!
既にレラの中では僕と一緒に冒険者になって2人で暮らしている事が決定しているようだ……。
2人の会話がどんどん白熱しているような気がする……。
フィアからは初対面の印象とは違い、とても大きい声だ……。
なんか言い合いに近い気がする。
よく考えてみよう……。
2人はとても可愛い。それこそ将来は美人になる事は間違いないだろう。
対する僕も今世では男前になれると母さんからお墨付きを頂いている。
つまり、お似合いかもしれない。
しかし、レラは昔から僕に怒る事が多かった……つまり、好き嫌いで言えばどちらでも無いという事なのかもしれない。
フィアは昨日会ったばかりで好かれる要素がまず無い。それに昨日の会話から僕と母さんの模擬戦を見ていたはず。格好悪い姿しか見せていない!
うん、やっぱり気のせいだな。きっと母さんのネームバリューだ。
2人とも将来美人になるであろう可能性を秘めている。
こんな子達の夫になれたら、きっと嬉しいだろうなぁとは思うけど、僕には高嶺の花だな。
……さて、自己紹介も終わったし、練習も早くしたい。
僕も会話に入る事にする。
「なんか話がおかしいから……これ自己紹介だったよね? それにフィア、婚約者じゃないでしょ? 昨日会って友達になったばかりじゃないか。レラもそんなに怒ってばっかじゃダメだよ?」
「「ごめん……」」
「わかってくれたんなら良いんだ。2人とも喧嘩とかしてたら可愛い顔が台無しだよ?」
2人は頬を赤らめていた。
でも、2人が打ち解けてくれて良かった。
フィアは僕と同じで友達が少ないとシャーリーさんから聞いてるから一安心だ。
さぁて、練習しないと。
「じゃあ、いつもの通り──練習しよっか! フィアも一緒にしよ! フィアは何が出来るの!?」
「私は──『回復魔法』と『光魔法』が使えます」
「凄いね! 僕はまだ魔法は母さんの回復魔法しか見た事がないよ!」
正確には『生活魔法』と言われる魔法は母さんが使っているのを見た事がある。
けど、属性魔法はまだ母さんの回復魔法しか見た事がない。ワイバーンの時にそれっぽいのは見た事あるけど、あれは魔法なのか不明だ。
「……肩揉みしてくれるなら見せてあげてもいい」
おぉ! 見せてくれるなら肩揉みぐらいなんて事ない!
「肩揉みするから見せてっ!」
「じゃぁ、あそこの木に撃つね? お母様に教えてもらったとっておき見せてあげる──
「……す、凄い……」
木のど真ん中を一条の光が突き抜けた。
「えへへ」
「やるじゃない。今度は私の番ね? 最近、使えるようになった技があるのよ──えいっ!」
僕の真横にいたレラは木剣を横にいつものように振るうと──
フィアが貫通させた木を見えない刃が切断する。
木がドスンと倒れる音がその場に響き渡る。
「……」
僕は口をパクパクとさせる。
フィアも十分凄いけど、いつも一緒にいたレラがいつの間にかこんな事が出来るようになっている事に驚いた。僕がサボってる間に差が開いている……。
シャーリーさんはフィアより凄い魔法を放つんだろうな……。
母さんも強いし、周りが凄い人ばっかだな!
なんか僕だけ普通だ!
もしかして、冒険者の人達ってこんな人達ばっかりなんだろうか……。
「さぁ、次はロイの番よ!」
「楽しみです」
2人から凄い期待の眼差しをされているが……僕にこんな凄い事は出来ない。
僕に出来る事は──
◇◇◇
────
────────
────────────
「「あぁん……しゅ、しゅごい……」」
肩揉みぐらいだろう……。
2人とも可愛いし、スタイルが抜群だからこんな声を聞くとむずむずする……母さんとシャーリーさんで鍛えた不屈の精神が役に立っている。
まだまだ耐えられるぜっ!
フィアも恥ずかしさがなくなってきているのか、声が普通の大きさだな。なんか打ち解けた気がする!
声は卑猥だけど……。
それにレラも普段強気なのにこんな一面もあるのかと思うとギャップ萌えが凄いっ!
あぁ、【性感度】大先生──
ありがとうございますっ!
なんとか面子が保てた気がします!
◆
なんなのこれ!
すっごい気持ちいい……フィアが先に受けてて気持ち良さそうにしてから、私もやってもらったけど頭がボーッとする。
こんなの初めて……。
またやってもらおう。
肩揉みが終わると、私は家に帰る事にした。
今日もロイと訓練出来て大満足っ!
それにフィアっていう友達も出来た。この子は私達と同い年って言っていた。
私に友達はロイ以外にいないから嬉しかった。
でも、フィアもきっとロイの事が好きだ……。
私も負けてられない!
そう思って帰っていると目の前に人影が現れる。
人数は3人──
よく見ると昔に私を虐めていた年上の奴らだった。
『開花の儀』以降に一度絡んできた時があった。
殴られそうになったから反撃して倒した記憶がある。
にやにや笑いながら現れたこいつらは仕返しをしにきたのかもしれない。
でも、私はあの時より更に強くなっている。
こんな奴らに負ける事はないはず。
「よぅ、半端者。待ってたぜ? 俺達は冒険者になったんだぜ?」
「……だから何?」
「相変わらず半端者の癖に強気だな? 俺達は強くなったんだよ! お前を痛めつけてやる──」
3人は武器を取り出して一斉に攻撃してくる。
だけど──
「──遅いっ!」
私は木剣を使い一太刀で斬り伏せる。
「「「うぅ……」」」
「街中でこんな事して許されると思ってるの?」
「五月蝿いっ! 兄貴っ! お願いします!」
その声で後ろからまた人影が現れる。
「……」
強い……ライラさんよりは弱いけど。
「ほぅ、こいつが強気の半端者か? まだガキだが、中々上玉じゃねぇか。俺はこういう我の強い女をベットで屈服させるのが大好きなんだよな」
何故か足が震える……動けない。
「半端者、顔色が悪いなぁ? 兄貴は最近この街に来たBランクの冒険者だ。この街で一番強いぜ? お前が兄貴に犯された後は俺達も楽しませてもらうぜ?」
こんな奴らに──私の初めてなんかやるもんかっ!
負けない──
絶対にっ!
私は全力でBランクの男に斬りかかる──
「──中々やるな。だが──まだまだだ。実戦不足だな。ほらよ──」
簡単に弾き返され、着地するが──
そのまま飛ぶ斬撃を放つが、これも避けられる。
私はそのまま斬り続けるが、攻撃が当たる事はない。
体の動きが何故か鈍い──
いつもの私なら勝てない相手ではないのに。
次第に私の息は上がっていく。
「──痛っ……」
私の背中に激痛が走る。
振り向くと魔法を受けたようだった。背中が焦げている。おそらく『火魔法』だろう。
目の前のBランクの男に集中しすぎて3人にまで気が回らなかった……。
私は膝を着く。
「まぁ、悪くなかったぜ? さぁ──これから楽しませてもらおうか?」
近くに寄ったBランクの男は私を馬乗りにして服を引きちぎる──
無力だ──
強くなったのに……私はこんな最低な奴らにも勝てない……。
ロイ──
ごめんね──
私──
ロイが大好きだよ──
私はこれから起こり得る事を想像し──涙が流れる──
「ロイ……」
「おっ? お前彼氏いるのか? そりゃあいいや。俺はそういうのが大好きだからな! そいつの顔思い浮かべてぎゃんぎゃん泣いてくれ!」
もう泣かない──
私は心まで絶対に屈したりしない!
「良い顔だなぁ〜そそるぜぇ──がっ」
そう決意した瞬間に目の前の男の顔に拳が当たり──
私は解放される。
誰か──助けてくれた?
誰?
涙で視界が霞んで見えない。
「てめぇ──ぶっ殺すっ!」
見えなくてもこの声は誰かわかる──
「ロ、ロイぃぃぃぃ──」
私はロイの声を聞いて自然と涙が更に溢れ出してきた──
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