夢
……ここはどこだ?あたりを見回して、すぐに気が付いた。ここはデパートの屋上だ。それも、13年前の。
「さあみんな!元気な声でライダーに助けを呼ぼう!せーのっ!」
「助けてライダー!!」
子供達に呼ばれて、颯爽とライダーが登場する。今でもはっきり覚えている。ここで昔、ヒーローショーを見た。この時は本当にライダーが好きで、自分もいつか同じようなヒーローになれると思っていた。
「フハハハハ!お前の負けだ!」
「まだだ!子供達の笑顔は、俺が守る!」
何度倒されようと、その度に立ち上がる。
「頑張れライダー!」
「みんなありがとう!はああああ!!」
子供達の声援を受け、それを力に変える。声と共に、高く飛び上がる。
「ライトニングキック!!」
空中から地上の敵に向かって斜めに降りながら繰り出すキック。ライダーの代名詞だ。
「うわあああああ!!」
キックが怪人を貫き、ライダーは勝利する。これでヒーローショーは終わりだ。ああ、今見てもかっこいいな。無邪気に楽しんでいた昔の自分を思い出して、ふっと笑った。子供たちに囲まれている様を、諦めとか憧れとかそんな目で見ていたら、ふとライダーと目が合った気がした。
ゆっくりと目が覚めた。現実だ。時計を見れば、夕方の4時を過ぎている。どうやら昨日帰って来てからずっと寝ていたらしい。風呂にも入ってないし、単語帳も見てない。そうか、塾が終わって、それから……それから俺は何をしていたんだっけ?考えても思い出せないので、とりあえず下の洗面所で顔を洗い、リビングに行く。
「やっと起きたの?朝起こしたのに全然起きないんだから」
「うん、ごめん」
「まあ、たまには学校サボってもいいんじゃない?今ごはん作るわね」
「ありがとう」
卵が焼ける音を聞きながら、ボーっと考える。自分で考えても答えは出ないので、なんとなく母親に聞いてみる。
「母さん、俺の将来の夢って何だと思う?」
「え?知らないわよ。あんた全然そういう話しないじゃない」
「……そうだね」
あまりにもバッサリ切られてしまい、思わず少し笑ってしまった。
「なんか夢ができたの?何を目指そうとあんたの勝手だけど、本気で目指したいなら一個だけアドバイスあげるわよ」
「アドバイス?って何?」
「もしチャンスが巡ってきたら、絶対掴みなさい。そのチャンスをつかみに行くのが、夢をかなえるための方法よ」
チャンス、か。いつか自分を変えるような出来事が起こるのかな。そんなことを考えていたら、母親がいつも通りの朝食を持ってきた。
「やらぬ後悔よりやる後悔ね。迷ったらとりあえず飛び込んでみなさい」
「そんなもんかね」
「そんなもんよ」
食べ終わって食器を片そうと立ち上がると、母親がふいに口を開いた。
「そういえば、昔はライダーになるライダーになるってうるさかったのに、いつから言わなくなったっけ?」
そう言われて、今までの人生を軽く振り返ってみる。
「……さあ、もう覚えてないな」
食器を軽く洗って、拭いてから元の位置に戻す。そして食器棚の戸を閉めた。
「ちょっと散歩してくるよ」
「あら、なんか雲行き怪しそうだから傘持っていきなさい」
「すぐ帰るし、大丈夫だよ」
そう言い残し、俺は家を出ていった。
静かなどこにでもあるような住宅街に、突如非日常が混ざる。2mも超えるような身長の男が、コートを着て歩いていた。
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