第12話 再会の輪舞

「シオンちゃんに会うのは

あのエレベーター以来だから

一体何年ぶりなのかしら?」


『飛んだ』後、


シオンちゃんからの手紙は、

『学校』を通してエアメールへ

姿を変えて届いていたの。


『学校』から

シオンちゃんの手紙が届くのは、

お互いの居場所が外部に

漏洩しない対策としてで、

『卒業』した子女には

同一に取られること。


わたしの目の前で、

重厚でオーセンティックな

エレベーターの扉が開くと

そこは 豪華な白亜のエントランス

ホール。


近代的な外観とは打って変っめ、

このフロアーは

最古の近代建築と云われる

バロックや、

ネオロマネスク調をテーマに

デザインされた

サロンホールなのよ。


「シオンちゃんは、まだね。」


わたしは、

勝手知る分電盤まで歩いて、

照明のシャンデリアを1つだけ

電灯させるよ。


「♪~~♪♪~。.・゜・.」



鼻歌に合わせて、髪を纏める。

そして、

ステップを踏みながら

ホールの真ん中へと

わたしは

軽やかに移動するの。


「本当は、時間も無いけれど。

シオンちゃんとの再会は

ちゃんとしたいのよね。」


『学校』から飛んでから、

手紙のみの連絡を

取り合ってきた、

かつての戦友に会う場所。


(まさか、急なバンケット

コーディネートでバタバタ中、

奇跡的なヘルプに彼女が現れる

なんて。複雑、、で。)


「ハジメさん、様々よね。」


エントランスの左右にある

廊下からは

隣のファシリティの日本庭園が

見え、廊下も天井がアーチ。


海外の賓客をもてなす

場所として、

いわゆる舞踏会や、サロンオペラ

も可能な装飾になるの。


今は、間もなく開催される

国際会議場として、

円形にテーブルが組まれて

いたて、最後のチェックと、


「ホールから、簡易エプロン

ステージも、エントランスに

下ろさないと。何とか、、

うん!間に合うわよ!!」


ちょうど真ん中だけが、

円形に空いてる

その中で、わたしは

グッと気合いを入れたの。


1つだけのシャンデリアで、

ほの暗い中、

天井のダウンライトが

アーチに浮き彫りにさせる。



『カツーン!カツーン!カッ』


大理石調の床に

自分のものではない、

ヒール音が

一定の音を響かせ

わたしの後ろで止まる。


そう、

シオンちゃんだよ、、、



「まるで、宮殿の大広間だねっ

ー。天井の間接照明が照らす

と、青い光のプールみたい!」


それは

数年ぶりに聞く声。


わたしは笑顔になって、

シオンちゃんに

振り返り、応えた。


「ボールルームダンスの本場

みたいに思っちゃうよね?。」


ほの暗く浮き上がる

ステンドグラスとライトアップが、

2つのシルエットを作っていく。


シオンちゃんが

堪らないとばかりに

ヒールをさらに響かせた!


「アザミちゃん!?」


『カッ!カーーーツ!カツーン』


「アザミちゃん!?っ」


『カツン、、』


丁度、シャンデリアの真下。


ロングヘアを後ろで束ねた

長身のわたしに、

シオンちゃんが泣きながら

抱きつくよ。


「ようやく会えたわよね。」


「う、うぅ。アザミちゃん!

アザミちゃん!もう、本当に」


わたしの、昔の名前だけ

叫んで、泣いている

かつての戦友、、


「、。シオンちゃん。」


わたしは 、

クロブチの眼鏡から

雫を垂らし、

シオンちゃんの背中をポンポンと

叩いて宥めるしかないの。


シオンちゃんは、

全然変わらないのね。


「あ、シオンちゃん。名前、

わたしね、名前変わったの。」


だから

そうして出した、わたしの名刺。


このヒルズビレッジの

ホテルネームと ホール部が

脇書きされて、


中央には『田村 あさみ』


と印刷されている奴ね。


「あさみちゃん。なんだ。」


「悪いんだけどね、

そーゆー 事で いいかな?」


改めて、シオンちゃんは

名刺の名前と、

わたしを 見比べたよ。



「よく見たらっ、アタシが知って

るアザミちゃんと 全然印象が

変わってちゃって地味に?」


「そっ。そうしてるの。だから、

アサミね。いろいろあって」


「わかったっ!アサミちゃんっ」


そして

シオンちゃんはホールの壁画に、

豊穣の女神が

ニンフ達と 輪舞しているのを

見つけるの。


「アサミちゃん、一曲いかが?」


昔みたいに

わたしに、手を 差し出した。


あの屋上を思い出して、

わたしは眉を真ん中に寄せる

けれど、


「仕方ないな。余り時間ないの

は、シオンちゃんも解っている

くせに。少しだけ、、ね?」


眉を、

ハの字に下げながら、

笑うように

シオンちゃんの手を取るの。


2人で、いち礼をして


追憶をBGMに、

ゆっくりと2人で、

ワルツもどきを スタートする。


「♪~~♪♪~。.・゜・.」


鼻歌を歌って

シオンちゃんをリードしながら、


くーーーるーーんんん、、


ゆるやかにカーブを

滑るように ナチュラル

スピンターーーンをするよ。


「アサミちゃんが王子様パート

なんてっ、贅沢だよ!何得?」


シオンちゃんは 見よう見まねで、

足運びも ままならない

なりに、


わたしとの

優雅なリバースターンに、

ついてくる。


「だってシオンちゃんは、

救世主のヘルプなんだもの。

本当に、ありがとう。ボトル

シップのエキシビション

パフォーマンス、シオンちゃん

のレポートで即提案書出来たよ」


黄昏はもう 帳が降り始め、

並ぶ窓から 差し込む夕方の光が

約束の時間をしらせるの。


「芸術祭で、実際のパフォーマン

スを見てるしっ、ステージの

アップは任せてっ!アーティス

トとも顔つないでるからっ!」


普通なら

切羽詰まって焦る状況なのにね。

でも、

わたし達の馴染みの空気が、

ヒリヒリした毎日を

共に生きた信頼が

ダンスで、

スローモーな流れへと

俯瞰する感覚を与えてくれるの。


シオンちゃんの雰囲気は

相変わらずの安心感で、静寂と

ダンスするみたいに、

心が落ち着く。


「人の手配は、なんとか出来た

から、じゃあシオンちゃんに

ステージアップお願いするね」


懐かしいのかな?

それには、

少し悲しい

共有の時間だったと思うのよ。


走馬灯のように

回転灯篭みたいにね、

あの『シンデレラの隠れ家』での

時間とかが


ターーーンすると

目の前に揺れて、ホイスクする。


光る絹の糸を

針に通して、シオンちゃんが

繋ぐレースの内職のお手伝い。


手にしている

光沢の感触と 裏腹な


息を殺して生きる時間、、


「不思議だよねっ!何年も

会っていないのに、ダンスする

と、学校の事が昨日みたいに、

感じちゃうんだ。魔法だよ!」


同じ事をシオンちゃんも

感じてるのね、じゃあ!


「わ!アサミちゃん!

シャッセもどき!って!

そんな 踊れないよ、アタシ!」


あはは、シオンちゃんが、

思わず 睨んで来たのよ!


「大丈夫。誰がリードしてる

と思ってるの?学院の王子様

なのよ?さあ、流されてね。」


つーーーーん。だってそう、


ナチュラル スピンターーーン。


「アハハ、すごーいっ!!」


シャンデリアが揺れる。


無言で 踊るしか

息抜き出来る事 なかったのね。

あの頃。

だって、何にもないんだもの。


壁の妖精たちみたいに

ターーーン。するのよ。


シオンちゃんは、泣きそうに

楽しそうに 笑う。

だから、また

ターーーン。


だから、

シオンちゃんの手をフワリと

放して そのまま タンタタンって

フリックして、カーテシー。


そのまま、佇む 2人。


踊ると 分かるのよね。

いろいろな 気持ち。

だから外交で舞踏会って

あったのかもね。


「アザミちゃん。

幸せ、なれてる、かなあ、、」


シオンちゃんが表情に影を

落として

わたしに投げ掛ける。


シオンちゃんが見つめのは、

わたしが胸に着けたままの

『田村 あさみ』

という ネームプレート。


「あと2時間で、ボトルシップの

メディア対応になるの。シオン

ちゃん、ギャラリーの皆さんに

は、ご迷惑かけます。でもね、

助けてくれて有り難う。」


わたしは、第二の名前を撫で

かつての戦友シオンちゃんに、

心を込めて

頭を下げた。


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