第9話シオンside : 駅ビル迷宮の記憶

「 シオーン、変わらずジャパニー

ズ令嬢風がナイスに 可愛いい」


ケイトウは、ライトブラウンの

巻き髪を キャラキャラと

揺らして シオンの背中を

モフモフハグする。


「 ご機嫌よう?シオン姫。

つい数分前、 ボスから連絡、

もらった。プレゼンテーション

ヘルプ。悪いね。そうだ、

まずは、一服如何だろう?」


長身の 中華系男子

ダレンが、茶の野点セットを手に

シオンを迎えた。


ヒルズタワーオフィス専用

フロアのラウンジ的空間。


その1つのコーナーに

黒塗りのテーブルと卓上釜が設え

られて、

ダレンが立礼卓の 亭主席から、


「急な召集任務前に一服どう?」


シオンを席に促してくる。


「シオーンは、アサミのベスト

フレンドでしょ?!サプライズ

ゲストヘルパーね!シオーン」


ケイトウがトレーで菓子を運ぶ。

菓子は月餅だ。


懐紙に箸で月餅を 1つ取ると、

シオンは 口入れた。


「さんざしの月餅だから、

この季節にも良いね。」


月餅の 酸っぱ甘い 香りと

薄茶の香りが オフィスラウンジに

くゆり 流れた。


「このフロアって、他に

オフィスどれだけ入ってるの?」


「5組のオフィスかな。

セミナールームと、ヒルズライ

ブラリーって オープン書斎も

このフロアに併設している

から、すぐ上のフロアより

オフィスは少ない 。」


「このオフィスラウンジもだけど

タワー内で コミュニケーション

出来る空間が多くてイージーね」


ケイトウは 、

奥にみえる 庭園風景を

シオンに大きく手で 示しす。


「和風庭園、、

このヒルズビレッジ、凄いね」


ダレンは

自分で 淹れた 薄茶を手にし、


「 このヒルズビレッジは、

旧財閥家の所有と聞くぞ。」


シオンに 答えると

自分も月餅を綺麗に口にした。


「レジデンスの住人基準だから

高級ホスピタリティ病院とか、

コンセプトモールがあるって

事かっー。セレブとかって、

それこそ芸能人御用達とか

なりそうじゃんっね!」


「イエース。お向かいの病院は

ハイソサエティな

ホスピタリティコースメニュー

がサーブされるって噂ですわ!」


「そんな情報だけじゃないだろ、

ケイトウ。

トップクオリティの 外科チーム

がいるハイスタンダードな

総合医療機関だ。 困るな、

これから顧客になり

得るヒルズファシリティだぞ。」


ダレンがケイトウに、小言する。


「ダレンは ホント、

堅物ボクネンジンですね↑↑

NO!シオーン!アサミに会いに

行く時間!すぐ下のフロアーが

アサミのワークフロアーね!

今は、ホールにいるよ、

ハリアップ!!ねシオーン」


ニッコリと笑うケイトウが、

臨時カードキーをシオンに

渡してくれた。


シオンは、

ケイト達と 一旦別れ、

ケイトウから渡された、

カードキーを 一瞥する。


エレベーターのボタンに翳すと

アザミに会うからか、

『かつて使ったカードキー』を

嫌でも想い出した。



.・゜・.※.・..・.※・゜.・.



もう随分前に 毎日使っていた

あの 『陰の学校』のカードキー。


真っ白で、何の表情も表示もない

カードキー。


駅ビルの迷宮に潜む、

『陰の学校』への道しるべ。


それは、

隣の同級生、アザミの潜伏家にも

出入りする為には 必要な

カードキーでもあった。


過去の記憶を辿る。


駅ビルを地下から入り、

左へと曲がる。


それをまた繰り返し

幾つかめの ビルテナントの

飲み屋街路地を左に折れた先に


その 間口の小さな

エレベーターは

あった。


このエレベーターで、

駅ビルのオフィスフロアに

上がれる。


戦後、西で最大の闇市があった

場所に、高度経済成長と共に

発展した 駅都市開発は、

この地域に、幾つも

高層駅ビルを建設させる。


昭和に建てられ、

それ以後どんどん 建て増し、

ビル同士の 階を渡して連絡通路、

地下街で 入り口を繋ぐ。


後から、継ぎ足し工事をして

膨らんだ駅ビル群は、

今となれば

その全容を知るものが

居るのか わからない

都市迷宮となっている。


そこに働くモノでも、

とりわけ 若い世代なら 特に

駅ビルの 上は 一生その迷宮を

知ることは無いだろう。


シオン達が

『陰の学校』を卒業してから、

耐震工事をするため、

建て直しをした 関係で、

大分、迷宮化は整備されたが、

それでも

利便性、デザイン仕様の

新しい近代ビルが

他に建設されると

人々の興味を惹くわけでもなく


時代の斜陽を見せるだけの

仕込み箱として、

話題にもならない。


そんな、迷宮を、

教えられた通りに シオンは

後ろから

尾けられる気配を感じつつ

なるべく、マクように

歩く。

と、いっても それは本当に

些細な抵抗だ。


1つ目のエレベーターを上がって

オフィスフロアに来る。


そのフロアから、

連絡通路を歩いて、隣の駅ビル。


そのフロアも、事務所ばかりが

入っているけど、シオンは

詳しくは わからない。


その一番奥。

非常階段のドアを、

例のカードキーで、


『ピッ。カチャン』

開ける。



「今日も、、」

「・・まあ、学校だろう。」


戸を開ける、


シオンの後ろから

男の声が

これ見よがしと耳に入る。


振り返り見る。

相手は、

隠れるでもない

スーツの男性

2人。


顔を 覚えても

意味はない。


シオンは

非常灯に浮き出す 扉を入って

キチンと締める。

見回せば

踊場に 2つめの、エレベーター。


年季の入った 駅ビル達の、

少しレトロな雰囲気がある

これまでのエレベーターとは

格段違う

真新しい。

エレベーターが、

場違いな非常階段の踊場に

出現するのだ。


これが、

サンクチュアリー聖域の入口。



シオンは

この毎日みる 非現実的行動と

最新鋭エレベーターの光景に、

最初こそ とまどったが、

今となれば この踊場が


安心して 息を吸える

場所になっている。


そんな

神聖な空気さえ 纏う、

エレベーターに

カードキーでタッチする。

このエレベーターには

外側にボタンは無い。


ややして、

エレベーターは静かに、

その扉を 常連である

シオンに開くのだ 。


『シオンさん、

このエレベーターは

このカードキーが無ければ呼ぶ

事も、動かす事も出来ません。

決して無くす、捕られるは

しませんように気を付けて。』


『陰の学校』入校の時に、理事と

呼ばれる男性に、諭された。


今日もシオンは、

エレベーターの中に並ぶ

ボタンの1つを押して、

カードキーで 認識ボタンを

タッチする。


そうすれば、


『シオンちゃん。お早よ!』


隣人 アザミが

教室の扉から顔を出した

シオンに 挨拶してくれる。


奥からは、中学組の子女達が

いかにも キャイキャイと

挨拶する声が 聞こえて、

それさえ 今のシオンには

微笑ましく 安堵する。


ちなみに、中学組の登校ルートは

入口も全く違うらしい。


『アザミちゃんっお早う。

あー、今日も目の下にクマ!

また寝てないんじゃないっ?』


正統派美少女のアザミちゃん

なのに、目の下にクマ、、


さらりと

ショートヘアを揺らして

自然に目の下を、クックッと

指でマッサージをして

アザミは 笑う。


そう、

同じ女子でも見惚れる

『西山王の華』と、言われた

1つ年下の美少女、

西山莇美、、せいざんあざみ。


彼女の事は、

ここに来る前から知っていた。


小中高一貫の女子学園の後輩。

美少女なのに、ショートヘア

なのが 学園で、人気で。


ジュニアボールルーム

ダンスの大会に出ていた。

彼女自身も有名だった。


『シオンちゃんさ、今日は

大丈夫だった?

怖い事されてないの?』


オリエンタルな長い睫毛を

クッと広げて、毎日アザミは

シオンの安否を確認する。


シオンはチラリと

目の前の 美少女を観察して、


『もうー。大丈夫だってっ。

なんなら 今日は、アザミちゃん

とこ行って、手伝っちゃうよ。

だから ご飯食べさせて

もらっても 良いっー?』


そうシオンが 鞄から教材を

出して、電話から母親にメールを

すると、アザミは


『シオンちゃんだって、いっぱい

バイトのシフトあるにさ。

手伝ってもらうの、悪いよ。』


シオンに謝る。


『いーのっ。それに、その方が

息詰まんないからっ。

アザミちゃんとこ、ホント安全

だし、居させてもらえるの、

正直言うとねっ助かるよー。』


『カラカラカラ』


教室の引戸が空いて、


『はい!お早う。授業

始めましょうか。シオンさん、

アザミさん、1限目、世界史ね。

教科書の13ページ、開いて』


シオンは、

机に出した教科書の1つの

13頁を開いた。


世界史の授業を 始めた

女性教師の 講義を受けながら


何もかも『夜逃げ』て置いて

きた、自分の部屋を

思い浮かべる。


今、籠の中のシオンに

やれることは、少ない。


何か自分の存在を

確かめながら 過ごさないと

生きて行けないような

不確定な毎日だった。


『世界史における、この時期の

日本の情勢というのは、、』


女性教師は、まるで難関大学

予備校の 有名講師のように、

全ての教科を、効率良く

興味深く講義していく。

質問にも 丁寧で引き込まれた。


『カタン、、カタン』


女性教師が、

教卓の椅子に座る。

プリントで、講義した内容を

すぐにテストする。


意識は、

目の前のプリントに向くけど、

シオンは、明日の授業終わり、

バイトに行く途中で

図書館によることを決める。


また、後を尾けられながら

だろうけど

嫌がらせを 気にはしない。


自分を位置付けする

作業に没頭しないと。

そう、勉強している間は

自分を生きていられるから。


隣でプリントをする

『華』アザミ。

彼女は、友人や同級生というより

同士だろう。

成金のお嬢様といわれるが

断然オーラが違う。

彼女も 父親の倒産の憂き目から

護られる

まさに『華』だ。


幼いころから教育された品格と

存在感に、

名家ではないとの

謙虚さを兼ね備えた 『華』。


こんな時代でも、

封建な考えが まだある

世界はあって、

こんな家状況なら 子女は

買われることもある。


『学校』で小テストを終えて、

女性教師は確認すると


『カチャカチャ』


と、教卓脇のデスクトップに

打ち込む。

メールが届いた電子音もする。


宿題は出されない。

この授業だけで、

全てを 教え切り、理解する。


今日があるからと

明日があるとは限らない。

から。

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