第3話 あの日の隣人は階下のギャラリスト

『それでは、授業を始めましょう

か。シオンさん、アザミさん、

教科書の13ページ、開いて。』


そういって、目の前の 女性教師は授業を始める。

教師の名前は知らない。

年齢も。

担任ではない。


只、全ての教科を、この教師から 教わるから、恐ろしく優秀なのだろう。

現に、わたしの隣に座る彼女は、わたしより学年は上だ。


今朝、ヨットで漂流していた人を

助けたせいなのかな?

不遇の時を生活していた頃を思い出してしまうのは。


あれは、もう10年以上前になる、本来なら高校生として 迎えた季節。


わたしアザミは、関西の中心地にある駅ビルの1つで、『高校』の授業を受けていた。


生徒は 隣の彼女シオンと、わたし、アザミだけ。


ここは、『陰の学校』だ。


わたしも、こうなるまで知る事がなかったけれど、西には企業家倒産の時における、いくつかの共済保険が独自的に、


闇に 存在する。


その1つに、倒産による夜逃げ企業家家族の教育機関が あるの。


必ず開校されるわけではなく、好景気時なら0人生徒。

不況になれば中学生で1くくり、

高校生で1くくり。それぞれ隣の教室で、全教科を 開校される。


わたしの時は世界的経済不況の煽りで、中学教室に 3人。そして高校教室に、わたしとシオンの2人で 開校された。多い方、らしい。


大抵、この生徒は子女。

子息達は基本帝王学までないが、

それまでに経営学など学んでいて、稼業の事業情報というアベレージがある。

その為、役立ち所が多いのだろう。倒産の憂き目でも、親族、知り合いに引き取られて、学業を継続する事が多い。


けれど子女は、よっぽどなければ、そのような 旨みがないのか

親戚などからの 待遇はなく、共済に組する企業家の協賛金や、寄付で闇に運営される学校へ来るという事実がある。


高校生の年齢であるわたしは、この『陰の学校』で、卒業資格を習得するしかない。


ここで時間を稼ぎながら、程なく 事業を建て直したり、嫁入り先が決まったりすれば、年度途中でも子女達は 姿を消す。

大企業ではなく、中堅会社の令嬢達では、そうでなければ、とにかくここで卒業資格をもらい、自分で進学するか、就職をするしかないの。


そんな中、わたしとシオンは今日も、隣同士ほぼマンツーマンで、

名も知らない 女性教師の授業を

受けていた。


そんな時だと思う。


駅ビルの 廊下側の窓から、顔を出して 急に覗いたタレ目の青年が、

武久一こと、ハジメ。


彼は母親の名代として、この日 『陰の学校』に訪れていたのだと

後で シオンから聞いた。


『陰の学校』に、チャイムは鳴らないけれど、、、


「・・・・」


ランチタイム。


いつもなら自作お弁当を持参する

わたしがオフィス食堂に並ぶとは、、、


「うう、節約しているのに。」


漂流した人に朝食を、渡してしまったから、ランチ分を朝に食べてしまったのが悪い。

でも、人助けをしたのだから御褒美ってことにしよう!!


「 Hi☆ !アサミ↑↑カモ〰️ン」


ひとり拳を握って、自分に言い訳していると、掛けられる声!!


ライトブラウンの巻き毛を揺らして、ケイトウが手を振ってる。けど、頼むから やめて欲しいかも。


ほら、ケイトウの隣にね、ダレンも座ってるから目立つんだよね、

見目麗しい ハーフ2人組って。


「Hey、アサミ!!↑↑」


ああ、もう再び呼ばれるのよ。

ケイトウは北欧系のハーフで、ダレンは華僑系ハーフなんだって。

ともあれ、けっこう有名なのよ。

2人は、きっと自覚ないけどね。


「ごめんなさい。遅れて。」


謝って、ケイトウの隣に。

ケイトウは ハーフならではの

色白でもって瞳が 光の加減で

グレーっぽくなるし、ナイスバディで バグしてきてね。女子でも

ドキドキな 胸がすごいわけなの。


見たら、うちの同僚 お嬢さん達が

めちゃくちゃ見てる。

ヤバい。


「ケイトウ。ディスタンス取れ。

そして落ち着け。迷惑だろう。

ムダに、目立って、仕方ない。」


そう口を弓なりにする亜系男子よ。人のこと言えない 目立ち加減

だと思うけど? 君も。

だって何て言ってもね、ツーブロックすっきり襟足ヘアに、グレーのカラーシャツに合わせたネクタイが、パープルだから!!

お洒落インテリモンスター止まらないのよね。


さらによ、前下がり長めにグラデーションカットした前髪をかき上げて、切れ長流し目をしてくるわけ。終わった。


『ZUQUUUN!!』


ほらね、後ろの 同僚お嬢さん2人が、射ぬかれた。もらい事故反対!反対!!


ここは いつも通り、目立たず大人しく=無言貫くの!わたしは!

本当に今日は、グレーのブラウスにしておいて良かった。ここは影に撤するつもり。


なのにケイトウは、容赦なく聞いてくるわけよ。


「アサミ!今日、いつもの ランチ

ボックス 持ってないですの?」


キラキラ好奇心の塊ワンコよ。


「ちょっと今日、、時間なくて」


というわけで、手に持つトレーを

上げて示す わたし。


「アサミ姫、は、彩り野菜の

バターチキンカレー定食だな」


一瞬殺気を送ってしまったのは

ご愛嬌。『姫』呼びさ、止めてよね、ダレン。


「ラッキー!ポークビネガーと

悩んだヤツですわ、

アサミ!シェアプリーズ!!」


ケイトウは、言ってる側からカレーを掬ってるって。


はあー。タメ息つくけど、ダレンがね、


「ケイトウのポークビネガーを

3分の2は貰っても良いと思うぞ」


ってアドバイスしてくれたから、遠慮なく ケイトウの皿から、わたしの 皿に 引っ越しさせてやったのね。ふん。

タラのレモン味噌焼き、ね。

ダレンは美味しそうに、流れるかのように綺麗な手つきで 食べてる。


『あ、この間 ご一緒したーー

やっぱり!たまに、あたし達も

ランチここで食べるんですーー』


にわかに、後ろが騒がしくなったと思ったら、うちの同僚お嬢さん達が、やってきた どこかのメンズ組に 話かけてね、引っ張り こんだのみたい。


『あれ、そうなんだ。オレ達は

いつも 使ってるけど、じゃあ

これまでもニアミスしてたね』


どうやら、昨日の合コンメンズの次期エリートみたい。

あ、かじきのバルサミコソース!

選んでるよ、メンズ。それと、チキンカレー!わたしも迷ったのよ。


このヒルズビレッジのオフィスタワーは、いろんな企業が入ってて

そのうちの1つに社食の委託会社がある。


このフロアは、その会社がシェア・カンパニーダイニングをオープンしてて、タワーにあるオフィスなら、料金を払って使えるのよ。


「ケイトウ。ポークビネガー焼き

美味しいよ、ありがとう。」


いつもは お弁当で、タワーの至るところにあるブレイクコーナーでランチなんだけど、週に何回かは、ケイトウとダレン2人組と ランチする。


「ドウイタマシテ!

シェアさまさまですわ↑↑」


わたしは、お弁当だから

2人は、外に来るキッチンカーで

わざわざテイクアウトして合流してくれるから、いい人達なのよ。


「ケイトウ、どういたしまして。

だろ。残念なことになってるぞ」


「ノー、シャラップ!ダレン!

コジュウト、重箱つつくですわ」


ギャーギャーと言い合いして

相変わらず仲が良い2人。


黙って、彩りバターチキンカレー

食してると、ついつい後ろの同僚お嬢さん達の声が、聞こえるのね。


『今度また、この間のメンバーで

ご飯しませんかぁ。新しくーー』


ゆるふわボブのお嬢さん、グイグイいくね。

そっか、普段はこの同僚お嬢さん達、外の 噂のお店にランチ行くから、本当は ここで会わないわけ。


けど、合コンメンズがシェアカンパニーダイニングの常連ってリサーチかけて、ランチエリアを変えてきたわけよ。


なら当分ここは、使えないよね。あまり接点欲しくないから。


「しかし、アサミ姫が、手作り

ランチをしてこないとは、何か

あったのか?体調悪いとかか?」


後ろに聞き耳たててたら、ダレンがグラデーションカットした前髪ごしに、 目を細めて聞いてくる。


ケイトウとダレンも、ここのギャラリー会社の人達って、どうも鋭い。

ギャラリー『武々1B』。


武久一、ハジメさんのヒルズギャラリー支店が、ケイトウとダレンの職場。あのシオンが、働くオフィスの支店なのよ。


「元気。大丈夫。本当、朝の

ジョギングに 時間とられただけ」


さすが、『ギャラリー探偵』とか

言われるオーナーがやってる会社のスタッフなのよね。


きっと、些細な事に気が回らないと、アートなんて扱えないのだろうけど。


「Really?アサミに何かなれば

シオーンに、怒られるです!」


そういって、ケイトウは わたしのおでこに手を当ててきた。


あはは。


ギャラリー『武々1B』の本部は北陸にあって、シオンは本部スタッフ。


わたしって、職場にも友達いない

のに、この目立つハーフ2人と仲良くやってるのは、一重に、高校?の同志『シオンちゃん』のお陰なのよ。


シオンが石川に勤務な分、ケイトウとダレンは、わたしの面倒を見てくれているの。


「ちゃんと、明日はお弁当持って

いつも通りブレイクコーナーで

ランチするから、、また 誘って」


そう言ってるのに、


「本当に大丈夫か?」


ダレンは 何探るかのな?


「ダレン!熱も、アサミは

ないですよ!明日、 うちの

フロアのブレイクラウンジで

ランチすればいいですわ↑↑」


う、うん。連チャンなの?

しかも、2人のオフィスフロアね。これは、ダレンが沼ハマりしてる抹茶のお手前を拝見するってことね。


「じゃ、明日また ランチでね。」


食べ終わったトレーを片付けに行く、わたし。


あ、同僚お嬢さん達、ランチ終わりに見事、メンズ達と ブレイクコーナーに 移動か。良かったね。


ん?そういえば、始めてかも、

ここの食堂メニューを食べたの。


そんな自分に気がついたら、ダレンの視線を感じる。


この亜系イケメン、今朝のジョギングでの事、知ってる?まさかよね。


わけないわね?そんなわけないよね。何?!


見透かされてるみたいで、今朝の事、ちょっとだけでも思い描けない。

漂流していた人、ちゃんと水上警察で保護してもらえたかな、、

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