葉次の目的

 真崎壮人と立花結が最近入籍した事実を知ってから、カルトはしばらく立ち直ることが難しいと思えた。二人は、結が呪いのスマホで呪われたのちにすぐに入籍したことが戸籍から知りえる情報だった。本当に結は壮人が好きだったのだろうか。死人に口なし――自分は邪魔者だったのだろうかとカルトは葛藤していた。


 カルトの婚約者であった立花結こと真崎結については警察は詳細に調べていた。空気が重くなる。


「岡野、お前の婚約者は真崎壮人という男と入籍していた。しかも、つい先日だ。これは、呪いのアプリが関係しているんじゃないか。お前は何も聞いていないのか?」


  上司がつめ寄る。一番不可解で人間不信に陥っていたのは岡野カルト本人だった。一体なぜ? そんな思案がぐるぐるまわる。事実を受け入れることが難しく、カルトは事実に背を向けていた。しかし、カルトは思った以上に恋人よりも事件の真相の解明のほうに目が行っていることに気づく。


 根っからの仕事人間だということに気づく。真実を確かめることが一番大事なことだ。結がなぜ死ななければいけなかったのか。そして、それを操っていた人物は誰だ? そして、なぜ壮人は結と極秘入籍しており、二人ともがなぜ死んでしまったのか。呪いのアプリのせいなのか?


「真崎壮人は高校と大学の同級生でした。そして、彼は幼稚園からの結の幼馴染で、ずっとただの友達だったはずです。きっと何か理由があるんだと思います」

 落ち着いた口調でカルトは説明する。


「駆け落ちじゃないのか? 立花結がお前に愛想を尽かしていたことに気づかなかったのか、岡野は仕事人間だからな。女心がわからんのだろ」

 課長が責め立てる。異議はないと思う。


「たしかに、最近連絡はとっていませんでした。彼女は怖がりだから、呪いのアプリが入ったスマホを使いたくないといい、箱にしまうと言っていました。だから、彼女を助けるために警察として動くのが最大の務めだと思っていました」


「じゃあ、彼女が死ぬ前に最後に会ったのは?」

 部長が質問する。


「最後に会ったのは、彼女が呪われたと言っていた、呪われた1日目です。その後、縁あって俺はここの捜査本部で捜査をはじめていました。譲渡というシステムが本当ならば誰かにアプリを譲渡させようと思っていました。でも、誰に譲渡していいものか。彼女のために誰かを殺す。そんな非人道的なことが許されるのか葛藤していました」


 真面目なカルトらしい正論だった。


「とにかく、重要参考人である秋沢葉次とは連絡がつかないのか?」

 課長がいらいらした様子で貧乏ゆすりをする。


「先ほどから電話をかけてもつながりません」

 同僚の城下が嘆く。これは、黒かもしれない。捜査協力を名乗り出たタイミングも計算だったのだろうか。


「秋沢を探せ。奴は今回の一連の事件について、色々なことを知っているであろう重要人物だ」

 部長は怒鳴る。確信を持っているからこその焦りがあった。


「秋沢の自宅の家宅捜索の令状を取った」


 部長が命令する。ヨージの自宅の私物を警察は押収して調べる。

 呪いの子どもをデザインしたと思われるデッサンが見つかる。

 多分、小学生の頃に落書き帳に描いたただの落書きだ。紙の色合いや様子からして随分前に描かれたものだろう。こんなに前から構想があったのだろうか? 最近模写したにしては子どもが書いた感じが否めない。多分、呪いの子どもをデザインしたのはヨージだろう。この落書きは本人も忘れていたものかもしれない。だから、落書きを処分していなかった。幼い頃に生み出していた呪いの子の原型がこの落書きなのかもしれない。これを描きながら何を思っていたのだろう? 天才小学生は、これから大きな計画を立てていたのかもしれない。


 名簿リストがパソコンから見るかる。何かしらの連絡をとっていたリストがパソコン上で発見された。

 実際に連絡を取っていたメールアカウントの履歴は残っていなかった。

 確認を取ってみる。相手に探りを入れてみると、呪いの子どもを譲ってほしいという依頼人の一覧だった。つまり呪われた人と呪われたい人を仲介するリストだった。あえてヨージは残したのだろうか?


 譲渡した人に連絡を取る。

 しかし、誰も譲渡仲介人の顔や声を知らないと言う。

 ネット上でマッチングしていたということだろう。


 やはり、ネットで偽善者でありたいと公言し、殺人仲介人をしていた小説を書いていた幻人は秋沢葉次だったのだろう。


 そして、ヨージの机には大切に持っていたであろう父親の写真を見つける。真崎真人、つまり真崎壮人の父親だ。日付と色あせた感じから、この写真は母親が真崎真人と付き合っていた頃の写真のようだった。ヨージに愛情を渡さなかった父親の写真を大切に持っている。意外だった。


 壮人を殺したことで一番になれると思っていたのだろうか? あの、したたかで誰にも本当に心を開かなかった男が一番尊敬し、一番嫌悪感を抱いていたであろう人間が父親なのだろうか。愛情を注がない父親……。


 その後、跡継ぎを亡くした真崎真人は、天才と言われる実の息子である秋沢葉次に連絡を取らなかったらしい。隠し子の存在を表沙汰にしたくなかったということらしい。それは、わかっていた事実のように思う。いないほうがいい子ども。幻の子どもだ。


「秋沢葉次は呪いのアプリを使って殺人を行うことができる人間だ」

 捜査本部で出た結論だった。彼のパソコンの知識と真崎家の呪術師系の血筋を引いていることも決定打のひとつだった。


「とにかく、我々はアプリによって殺されるかもしれない。その時は、銃を使って警察署へ同行を強行しろ」

 警察本部では血眼になって、秋沢葉次の行方を追った。


 ヨージの呪い主の夏本さぎりはその後突然心臓発作で死亡した。本人のスマホがなくても呪いの子どもと連絡が取れるということが証明された。秋沢葉次は幻人なのだろう。そうでなければ、辻褄が合わない。秋沢のスマホは警察にある。アプリは死亡を聞いたのちに、消滅していた。遠隔で彼女の名前を告げたのだろう。秋沢の消息は全く掴めなかった。


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