トップシークレット

 眉間にしわを寄せながら、二人はため息をつく。

 カルトがぎゅっと肩を寄せる。


「大丈夫だ。都市伝説に詳しい芳賀瀬に聞いてみるよ。今日は風呂に入ってゆっくり休むんだ。今から電話してみるから」


 芳賀瀬は結の高校時代の同級生で、カルトと同じ東王大学の同級生だ。独特の雰囲気がある。現在は大学院の院生だ。きっと研究の道を極めるのだろう。メガネの奥に光る鋭い瞳の奥は何かを見透かすような彼特有のものがある。好きなことは、とことん突き詰めるというタイプ。芳賀瀬ならば何か知っているかもしれない。助言に期待する。


 カルトは芳賀瀬に連絡する。


「呪いの子どもについて教えてほしい」

「呪いのアプリの話か?」

「知っているならば、話は早い。早急に知りたい事がある。教えてほしい」

「俺の家に来てもかまわないぞ」


 芳賀瀬の家へ向かうと言って去るカルト。

 芳賀瀬は一軒家で家族と同居している。何度か来たことがあるが、部屋には本が山積みになっており、整理整頓された部屋は芳賀瀬の神経質で真面目な性格を表している。芳賀瀬の銀縁の眼鏡が光る。


「被害者がいるのか?」

「あぁ。俺の婚約者、立花結だ」

「何もしなければ、14日後に確実に死ぬ。なんとかしなければならぬな」

 歳よりも威厳のある芳賀瀬の口調は少々独特だ。


「俺が趣味で調べた呪いのアプリの記事だ」

 すごい膨大な切り抜きやネットの情報をまとめている。


「彼女を救いたい。方法はあるのか?」

「呪い主を言い当てればいいが、呪い主は死ぬのだ。誰も死なないハッピーエンドを探した。その結果、呪いの子どもを消せばいいとは聞くが、詳細はわからぬ」

「呪いの子どもというのはスマホのアプリにいるキャラクターだろ」

「スマホの権利を譲渡することで、被害を防いだという事例を聞いた事があるがな」

「でも、アプリは解約できないんだろ。だったら供養でもしてもらえばいいのだろうか?」

「スマホの権利を何度も譲渡する説はあるが不確実な情報だ。元々の所有者として認識されなくなることがあるらしい。確実なのは呪い主を突き止めることだ」

「連絡先をコピーして来た。ちなみに、恨みをもっていそうな人間を見分けるにはどうしたらいい?」

「心当たりはないのか? ならば、彼女にブログを開設させてみたらいい。それにいち早く反応した者は怪しいと思うのだ。多分、ストーカーのような執着をしているだろうし、自分が特定されれば死ぬのだから、あちらも気が気でないはずだ」

「さすが頭脳派の芳賀瀬だな」


 眼鏡の真ん中を人差し指で持ち上げる。芳賀瀬はびしっとした顔をしてまっすぐ見つめる。

「でも、どうやって訪問者を特定するんだ?」

「訪問者を解析できるソフトがある。これを使えばいい。あと、思い出したんだが、呪い主に呪いを放棄させるとアプリは勝手にアンインストールできるらしい。噂がだな。特定して、何かしらの脅しをかけて、呪いを放棄させればいいかもしれぬな」


 芳賀瀬は落ち着いた口調で助言する。


「新聞の切り抜きを見ると、突然死や孤独死の記事もある。これは、何か呪いのアプリと関係あるかもしれぬ。以前、怖い呪いの子どもと書きこんでいた人間が何人か死んだ。そんなリストもあるのだ」


 芳賀瀬の専門は、民俗歴史学だが、趣味で現代の都市伝説を調べていた。


「このリストの人間は全員死んだらしいがな」


「死人に口なし……か」

 カルトはため息をつく。


「まずは、監視カメラの映像でストーカーがいないか調査しろ。警察の特権を使わぬのはもったいなかろう」

「そうだな。何かわかったら教えてくれ」


 彼女のマンションの管理会社に連絡し、監視カメラの映像を見せてもらう。ストーカー被害に遭っているという名目だ。警察というだけで協力してくれるのはありがたい。監視カメラに映る怪しい奴。なかなか見つからない。ゴミ置き場付近のカメラもチェックする。盗聴器などがないかも、くまなく探す。


「一体誰が? もしかして俺に恨みがあるのではないだろうか?」

 カルトは一瞬考える。でも、彼女以外と付き合った経験もなく、交際歴は長い。そして、特別モテるわけでもないカルトが告白を断って恨まれたことも思い当たらない。色々考えたが、全く恨まれた記憶はない。


♢♢♢


 自分の部屋で一人になった結は仕方なく、以前交際を断った人にメールを送る。

「ごめんなさい」

 これで、反応を見る。

 メールはリターンされた。つまり、連絡先は使われていない。でも、電話番号は使われているかもしれない。非通知でかけると、お客様がおかけになった電話番号は現在使われておりませんとアナウンスが流れた。


「一方的に連絡先を入れていて相手が使っていない場合は、当てはまらないの?」

 スマホの呪いの子どもに話しかける。


「そうだよ」

 呪いの子どもはちゃんと答える。


「じゃあ、削除してもいいってことだね」

「そうだよ。使われていない連絡先は削除しても大丈夫」


 削除をしようと連絡先一覧を見ると、知らない名前が一覧にある。誰だろう? そう思い、リストを眺める。一覧を見ると、どう考えても知らない名前がある。この人は誰だろう?


「この人は、誰? 一人だけ思い出せない名前があった。連絡先を交換した覚えはない」

 カルトに電話で連絡する。


「この人知ってる? 威海繰人(いかいそうと)っていう人が連絡先一覧に載っているんだけど」

「知らない人なのか? 俺は聞いたことがない」

 同級生のカルトならば、もしかしたらわかるかもしれない――と思う。


「威海操人以外は知り合いなんだな」

「うん」

「調べてみる価値はあるかもな」

「連絡先がわかるならばメールを送ってみるといいかもしれない」



♢♢♢


 翌日、カルトの元に人事異動の連絡が入る。

「連続不審死の極秘捜査をすることになった」

 部長からの話は何かの運命の導きのようだった。

「公にはできないが、調査の結果、呪いのアプリが関連した死亡が最近多い。それに関して、調査をする捜査員として配属する。一応警察内でもトップシークレットだ」


 呪いのアプリ――これこそ、今立ち向かうべき敵だ。そして、呪いのアプリの調査により、彼女を救うべき道が開けるかもしれない。


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