14日後に死ぬ呪いのアプリ

響ぴあの

14日後に死ぬアプリと呪いの子ども

 呪いのアプリがインストールされた者は、14日以内に呪い主を突き止めないと――死ぬ。


 これは都市伝説であり噂であるのは、呪われた人はたいてい死亡しているからだろう。


 呪いのアプリを使って呪うことができる条件は、お互いのスマホに連絡先が入っている事。一度も連絡していない知り合いかもしれないし、一番近くにいる人かもしれない。もう、関わりのない忘れてしまった誰か――かもしれない。


 膨大な連絡先一覧の名前から推測することは難しい。呪い主がわからないから、当事者の恐怖は倍増する。人間は、わからないことが一番怖い。そして、未来がないと約束されることがどうしようもなく怖い。


 呪いのアプリは気づくと勝手にインストールされていて、カウントダウンが始まっている。アンインストールすることもできないし、連絡リストを消去しても意味がない。そして、解約や破壊は意味がない。電源を切っても、捨てることも無意味だ。充電をしなくても14日間だけは、バッテリーは無くならないようになっている。


 つまり――呪いからは絶対に逃れられない――と都市伝説では囁かれている。


 馬鹿げていると無視する人もいるが、確実に14日後に死ぬだけだ。


 呪いの先には――ただ死が待っている。


 逃れる術はひとつ。スマホに現れる子どもに呪い主を言い当てること。

 その子供には名前がない。巷では呪いの子どもと呼ばれているが、呪いは純粋無垢な気持ちから芽生えるものだと言われている。つまり、呪いの象徴が子供の姿だという意味らしい。呪われた者には3人まで呪い主を当てる権利がある。もし当てられなかった場合――4人目を当てる権利はない。


 死あるのみだ。


 もし、呪いを言い当てられたら――呪い主が死ぬ。自分自身が死ぬリスクがあるのに、それでも呪うものがいる。世の中は呪いでつながっている。そして、呪いは拡散する。SNSで誰かから誰かに拡散するように、見えないWi-Fiでつながっているかのように呪いの子どもはやってくる。


 呪いの子どもは無表情な男の子。黒髪のストレートヘアー。服装は赤いTシャツを着ており、半ズボンを履いている。見た目はどこか昭和感があるらしい。表情はなく、感情を表に出さない、生気を感じない子どもらしい。この噂は、男の子がまばたきをせずにじっと見つめているからかもしれないと言われているが、あくまで噂の域だ。


 ほとんどの人が呪いの子どもと呼ばれている男の子を見たことがないし、見たくもないだろう。呪いの子どもというのは正式名称ではなく通称らしい。

 純粋無垢な邪悪を抱えた男の子の心の内は無。

 楽しいや悲しいといった同情を持っていない。だから、怖いのだ。


 無表情な呪いの子どもが笑う時――それは、呪い主か呪われた者が死ぬとき。口角が上がり、まばたきをせずにただにやりとするらしい。それが喜びなのか楽しさなのか呪いの子どもの本音はわからない。きっとそれは人々の怨念の塊が創造した子どもなのかもしれないし、現代社会が創造した闇なのかもしれない。もしかしたら、怨念を持った人間が開発したのかもしれない。


 情報化社会の今も人間関係の闇や難しさは増幅している。決して逃れられない人間関係の中で、気づかぬうちに誰かに呪われているかもしれない。いつのまにか、呪っていることもあるかもしれない――。身近な信頼している誰かかもしれないし、知らない誰かがあなたを呪うこともある。


 呪い主が誰かがわからないこと――そして、死という最期を無条件に突きつけられることが一番の恐怖の時間なのかもしれない。


♢♢♢


 長年の交際の末、順風満帆な恋愛結婚をする予定がある立花結。幸せの真っただ中の日々。ふんわりした雰囲気を纏う洋服と毛先のウェーブが愛らしい立花結。女性的な見た目重視な格好を好む結は割と男性に人気はあるが、意外にも交際した人数は一人だけだった。そんな彼女に青天の霹靂が襲う。


 結はスマホに知らないアプリがインストールされていることに気づく。真っ黒なアプリの名前は「呪い」。そんなアプリをインストールした覚えもないので、アンインストールを試みる。しかし、どうやってもアンインストールできない。不気味な黒いアイコンの中に少年の顔が描かれている。スマホの故障だろうか。


 すると、スマホの画面全面に知らない少年が現れた。何も触れていないのに、勝手に起動する。


「こんにちは。僕には名前がない。みんなには、呪いの子どもと呼ばれているよ。君は呪われている。14日以内に呪い主を特定してね。君のスマホの中の連絡先アドレスに入っている誰かが呪い主だよ。その中から3人まで選ぶことは君の権利だよ。呪い主が当たれば、呪いは解けるよ。でも、3人目を間違えたら、君はすぐに死ぬよ」


 抑揚のない声だ。スマホの音声だからだろうか。でも、スマホに入っているはずのない何者かが話しかけてきているということは恐怖以外の何者でもない。口調は子どもなのに怖さがある。この不気味さは当事者でなければ、わからないだろう。


「どういうこと? 私が呪われている?」

 結は震えながら聞き返す。


「君が生きるためには呪い主を14日以内に特定して僕に伝えるしかないよ。アンインストールすることもできないし、連絡リストを消去することもできないよ。そして、解約や破壊は意味がないよ。電源を切っても、捨てることも無意味だよ。充電をしなくても14日間だけは、バッテリーは無くならないようになっているよ」


 妙に機械的な説明は説得力と威圧感を感じる。まばたきをしないまあるい瞳。呪いの子どもの顔は子どもなのにとても不気味だ。この状況から逃れられない。本気感を肌で感じる。お坊ちゃん風の切りそろえられた髪型と昭和風の独特な雰囲気が更に不気味だ。赤いTシャツも血染めのように感じる。とにかく全てが不気味だ。


「じゃあ、今すぐ連絡先一覧から適当に名前を言ったほうがいいの?」

「事は慎重にしないとね。あと、14日も生きられるのに、今3回間違えたらすぐに死んじゃうよ」

「死ぬって、どうやって?」

「3回間違えた瞬間、君の心臓が止まるってことだよ。人間の死の定義って心臓が止まることだよね」

「私は、恨みを買うようなことはしていない。一体誰が――?」


 スマホの連絡先にはもう連絡していない忘れてしまった人からすごく仲の良い人まで一覧が入っている。連絡先が変わってしまった人もいるだろう。連絡先だけ知っているだけで連絡していない人もたくさんいる。会社やお店や業者の名前もある。


「連絡先一覧って電話番号とメールアドレスが入っている人?」


「呪い主と君の両方に名前ともうひとつ連絡先が入っていれば呪いは成立するよ。名前と電話番号だけでもいいし、名前とメールアドレスだけでもいい」


「会社やお店や業者さんの名前でも、呪いは成立するの?」

「成立するよ」

「電話帳って消去しないから増える一方で関わりのない人もたくさん入っているからなぁ。恨まれることしたかな?」

「人間って逆恨みとかいろいろあるからね」

 機械的な音声だが、会話がちゃんと成立する。


 ため息が出る。スマホに入っている膨大な情報が結自身を苦しめることになるとは――。辛い――。せっかく幸せを目の前にこんな形で最期を迎えるなんて。祝福される披露宴や華美なウエディングドレスが遠のいていく。


「もし、私が言い当てたら、呪い主はどうなるの?」

「呪い主が死ぬんだ。そんなリスクまで背負ってこのアプリに依頼をしてきたってことさ」

「あなたは、依頼されたらインストールされるの?」

「そうなるね」

「ヒントとかないの?」

「連絡リストの誰かとしか言えないな」

  塩対応の少年には慈悲の心は感じられない。


 スマホのアドレス一覧とにらめっこする。

「このことを誰かに相談してもいい?」

「かまわないよ。ただ、巻き込むことで幸せになった人って少ないんだ。経験上、手あたり次第、電話やメールで連絡して反応を見る人が多いね」


 そのまま自宅で色々思案する。幸せの絶頂から不幸のどん底に突き落とされる。

 多分、嘘じゃない。何もしなければ、あと14日で死ぬ。突然の理不尽に何もできない不安に押しつぶされる。結婚することで、誰かに恨まれることがあっただろうか? 職場の人とも浅く広く仲良くやっている。元彼もいない。ずっと付き合ったのは今の婚約者の岡野カルト一人。


 そんなに執着するような人間も記憶にない。記憶に残らない誰かだったら――打つ手はない。もしかしたら、結婚する婚約者のことを好きな誰かがいたのだろうか? 知らないうちに恨まれていたとしたら……。どうにもできない――。でも、スマホのリストに入っているということは一度は接触があった誰かだ。


「どうしても、わからない場合。奥の手はないの?」

 スマホに向かって助けを求める。


「さあね」


 方法がない。一番最悪の事態だ。巻き込みたくはないが、婚約者の岡野カルトに相談する。一番信頼できる相手だ。カルトならば親身に聞いてくれる。そして、解決できるような気がする。カルトに電話をかける。今すぐ、大切な話があると告げる。


 普通ではない様子を察したカルトはすぐに自宅に行くと言ってくれた。やはり頼りになるのは婚約者だ。高校の同級生の岡野カルトと立花結は高校時代、カルトに告白されてから何となく付き合ってきた。大学は別だったが、社会人になって結婚するまでの付き合いとなっていた。いつもそばにいて当たり前の人となっている婚約者は安心感がある。


「どうした?」

 息を切らしながらやってきたのは30分くらい経った頃だろうか。

 ネクタイを外し、汗ばんだ額の汗を拭く。袖をまくりながら真剣な顔をする。仕事を切り上げて来てくれたのだろうか。こんなに幸せなのに――不幸は一瞬にしてやってくる。


 カルトは刑事をやっていて、殺人事件などを捜査している。きっと力になってくれる。


「このアプリなんだけど、呪いのアプリっていうのが勝手にインストールされていたの」

 真剣な様子を察して何も言わずに見るカルト。


「呪い主を14日以内に当てないと私……死ぬの」

「まさか……」

「スマホの連絡先リストにいる3人までしか当てる権利はないって、呪いの子どもが言っていたの」

 スマホのアイコンを指さす。


「呪いの子ども……。聞いた事がある」

 意外な反応を見せるカルト。


「知っているの?」

「昔からある都市伝説の子どもの話だろ。昔は、方法は手紙だったとかそういったことは聞いた事がある。アプリというのは初めて聞いたよ。小学生の頃から都市伝説とか怖い話の類が好きだったからな。都市伝説に詳しい友人の芳賀瀬(はがせ)に連絡を取り、情報収集するよ。ネットでも調べてみよう」


 スマホで調べてみる。どこまで本当の情報なのかはわからない。でも、知ることは大切だ。


※呪いの子どもは、人々の怨念が生み出したらしい。

※呪いのアプリが存在している。

※呪い主を言い当てないと14日後に死ぬ。

※言い当てられた呪い主は死ぬ。

※連絡リストに入っている三人目までしか言い当てる権利はない。

※人に相談してもいいが、アンインストールは不可能。連絡先の消去、スマホを解約、破壊は無意味。


 ほぼ、知っている情報だ。でも、相談された人の書き込みが多いらしく、呪われた当人は死んだという話が多い。偶然かもしれないが、急に心臓発作で死んだということが書かれている。そんなにメジャーな話ではないらしく、ネット上ではほとんど新たな情報が得られない。

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