第3話 「女勇者エリーシャの恋」
彼と知り合ったのは、自分が駆け出しの冒険者のときからだった。一年先輩として色々とレクチャーをしてくれたのだ。
性格は暗く、人との会話を苦手としている私にはとても有難く、一人前の人段階になる前に私は彼とパーティを結成した。
口下手な私は、彼とは必要以上の会話をしない。
それを察してくれていたのか彼は気遣うように、あまり長い話をしない。
用が済めば、嫌な顔をせずに無言でいてくれる。
はたから見たら奇妙な光景だろうけど、私には至福とも言っていいひと時だった。
彼の穏やかな横顔を見るだけでも頬が火照り、胸がカッと熱くなる。
これが何なのか、当時の鈍感な私には理解できなかったけど、時たまに周囲から冷やかしを受ける際、誰かが発した言葉で私は、恋をしていることを自覚した。
好き、恋、愛、に関連した本を読み、乙女が男性に抱くときの気持ちがすべて合致して、さらに私を溺れさせた。
そんなある時。
王国の勇者を選定する儀式で私は選ばれてしまった。
人類に勇者が現れるのは千年以上に一度だけだ。
私は極稀な存在であると周囲の人間に認められ、期待された。
人類を脅かす魔王と、その魔族らを討伐するのが私の使命。
生まれ持って定められた運命である。
あまりにも名誉なことだった。
人類、全員に認められていることを実感して断るという選択肢はなかった。
勇者に与えられる聖剣を手に、私の旅は新たに変わった。
その前にジークなら喜んでくれると私は確信していた。
褒めてくれるはずだ。
それなのに———
ジークはそれを肯定しなかった。
いくら才能があろうと魔王の力は未知数だ。
自分らの想像の及ばない領域にいる存在を相手に、太刀打ちできるはずがない。
彼は私の理想とする自分を危ないからという理由で否定してきたのだ。
剣術や魔術ならジークを簡単にあしらえるほど強くなった私に対して、子供を心配するときの眼差しを彼は向けてきた。
私は、それが許せなかった。
私が一番に心を許した青年に否定されたのだ。
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