第12話 それぞれの思い ④
明菜と駒田は、電気自動車で急ぐ。浅見たちとは、集合場所を決めて待つことになった。女子供を護衛もなしで放っておけないという結論だ。浅見が護衛は駒田に任せて自分が行くと主張したが、「伊藤のことを考えろ!」と駒田が一喝すると、しぶしぶと「お願いします」と護衛役を承諾した。
ホテルが遠くに見えてきた。奈津さん、要はどこ。
逸る気を押さえながら周囲を注意深く見渡す。そこで明菜が見たものは。
「要、危ない!」
聞こえるはずがないのに、思わず叫ぶ。高いホテルの上からライフルを構えた男が、隣のホテルの三階から出ようとした要を狙っていた。あの男、忘れるはずもない。金田だ。奴の腕から発射された弾丸は、要の鼻先をかすめて行った。
電気自動車が急ブレーキをかけて停まる。要のいるホテルの一階から、女性が一人飛び出してきた。おそらく奈津さんだ。女性の後ろから、男が一人、せき込みながら出てきた。あの様子だと、奈津さんは逃げ切れる。でも。あれじゃあ要……逃げられないよ。
「くそ! あいつ、ライフルで狙ってやがる」
駒田さんは、車の中からライフルを取り出すと、金田に狙いをつける。駒田さん、要を助けようとしてくれてる。だけど。
「だめ! 撃っちゃだめ!」
明菜は駒田の前に立つ。
「嬢ちゃん、どきな。沖村がやられるぞ」
「要が危ないのはわかっている。でも、駒田さんは撃っちゃだめ!」
「なんでだ! あいつを助けたいんだろ!」
「助けたい! でも……人を撃ったこと、あるの?」
「……そんなものは覚悟の上だ。どけ」
「どかない。あたしが嫌なの」
「はあ? どんな理屈だ!」
「駒田さんが人殺ししてしまったら、あたしが目覚め悪いの!」
「おい……無茶苦茶だ。なんだそれ、反則だろ」
その言葉に気の抜けたように、駒田はゆっくりとライフルを下ろす。
明菜も駒田の射撃の腕はわかっている。金田がくたばっても自業自得だけど、それをこの人が背負うこととなったら。あたしたちのためにここまでしてくれたのに、これ以上、背負わせられない。要なら、きっと大丈夫だから。
駒田は、そんな明菜の頭をくしゃくしゃっとかき回す。
「まあいいさ。これは嬢ちゃんの戦いだ。さっさと沖村を連れ戻しにいくか」
「うん、ありがと。駒田さんは、あの女の人を助けてあげて。追いかけてくる男から引き離さないと。あたしは大丈夫。もう負けないから」
「おい、どうするつもりだ」
「要を迎えに行く。おじさん、ありがと!」
明菜は、車から飛び降りると手を振って駆けだしていった。
「おい! 嬢ちゃん! おじさんってなぁ……三十六だよ」
後には駒田のぼやく声が残った。
奈津の前方から、小柄な少女が走ってくる。なんでこんなところに女の子が。走ってきた方を見ると、小さな車と一緒に、迷彩服の男性が手を振っていた。今後こそ、助けに来てくれた自衛隊さんだ。
「奈津さん、あの車に乗ってください!」
「え、ちょっと。あなた」
自衛隊にも見えない少女。こんな子が、なんで私の名前を。
「悠菜ちゃんが待ってます!」
それだけを言い残して、色々問いかけようとした奈津の前を、せわしなく駆けてゆく。まるで一陣の風のように。
後ろ姿をぽかんと見送ると、はっと我に返る。よかった。悠菜、ちゃんと保護されたんだ。私の一番大切な宝物。要さんたちが守ってくれた命。ほっとした途端、涙が止まらなくなった。
そして、さっきの少女に思いを馳せる。あの人がつけていた、ピンクの手袋って。
「要さん、あなたにも宝物、見つかったんですね……」
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