第11話 決意 ③

 誰もいない廊下を歩く。ここを曲がると、きっとあるはず。

「おい、どこへ行く」

 リュックを背負った明菜は、駒田一曹に呼び止められてしまった。ここまで来たのに。あと少しなのに。

「散歩です。ちょっと外の空気を吸いたくなっただけ。見回りお疲れさまです」

 そう言って足早に通り過ぎようとする。

「そんな家出少女みたいな恰好でか。ふーん。なら散歩の護衛をしてやるよ。どこまで行くんだ」

 だめだ。気付いてる。あたしの嘘じゃこの人を撒けない。

「お願い、ひとりになりたいんです。ちょっと行くだけだから。すぐ戻るから」

「そっちは車の格納庫だ。民間人は立入禁止だ。わかってるな」

 駒田が鋭い目で睨む。明菜は観念した。もういい、これはあたしの戦いだ。

「行かせて。それが必要なの。通してよ」

「はあ? 嬢ちゃんみたいな子供が運転できるわけないだろ。自衛隊もバカにされたもんだな」

「運転の仕方はわかるから。バカになんてしていない」

「ま、いいさ。燃料の入ってない車でいいならな」

「そんな、燃料……ないって」

「沖村の奪った車に燃料移し替えてあってな。すっからかんだよ。嬢ちゃん、作戦には情報収集が基本だぞ。まだまだ甘いな」

 どうしよう。車だけが頼りだったのに。正直運転できる自信はなかったけど、近くまで行ければよかった。それなのに、その望みも絶たれてしまった。

 でも、ここで諦めるなんてできない。とことん足掻け。何もせずに待っているだけなんて、もう嫌だ。

「もういい。あたし、ここを出ていきます。駒田さん、自衛隊の皆さんにお世話になりましたと伝えてください」

「おい、嬢ちゃん。走っていくつもりか。どんだけ距離があると思っている。普通に走っても三日はかかるぞ。それにカラスだっている。相変わらず、ぶっとんでいるな」

 無謀なのはわかっている。でも、あたしはもう止まらない。止まりたくない。

「わかっています。あたしがそうしたいだけですから」

 明菜はそう言い切った。明菜の意志を感じ取った駒田は、しばらく何も言わない。明菜が立ち去ろうとした時、駒田が声をかける。

「わかった。ついて来い」

「え」

「どうせ止めたって行くんだろ」

 駒田はニッと笑う。明菜は迷う。ついて来いってどこに。あたしを閉じ込めておこうっていうんだろうか。

「どうした。悪いようにはしないよ」

 逡巡する明菜に追い打ちをかけてくる。この人、顔は怖いけど悪い人じゃない。どうせあたしには走っていくしか手段はない。明菜は駒田について行くことにした。

「お。信用してくれたのか。嬉しいじゃねえか」

 駒田はちょっと嬉しそうだ。完全に信用したわけじゃないけど、可能性があるのなら少しでもそれに賭ける。要に、会いたいから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る