第8話 突入 ⑤
駒田の指揮で、三班の荷台に物資が次々と積まれていく。積み込みは順調だ。間もなく荷台はいっぱいになる。伊藤は荷受けの補助をしながら、二班の車を回すタイミングを考える。積み込みに使えるのは二台のみ。二班の車には乗員が多くなるため、出来る限り積み込みたかった。
だが。一班の動きが気がかりだ。先ほどの無線に応答しなかったが、離脱はしたのか。徐々に煙幕が晴れてきてうっすらと影が見える。ああ、車が……見える。
三班の荷台には八割ほど積めたか。まだ少ないけど、当面の物資は確保できた。伊藤は決断する。
「二班、車を準備して! 搬出隊の方々、いま持っている物を積んだら、この三班の車に乗り込んでください!」
伊藤が指示を出すと、搬出隊の避難者が動揺したように手を止める。当初の予定では、二班の車に乗って帰るはず。突然の変更に、避難者も事態の悪化を悟ったようだ。すぐさま作業を終えて、荷台に乗り込んでいく。
「沖村、あんたも早く!」
沖村を急かしたところに、駒田がやってきた。
「伊藤、助けにいくつもりか」
駒田が一班の状況を見て、伊藤の意図を悟ったようだ。黙って頷く。
「駒田一曹も乗ってください。まずは避難者を安全に帰すことが先決です」
「そうだな。しかし、物資はどうする。これだけだと半月しか持たんぞ。また同じように危険を冒すか」
そこに拠点と車両の間で作業をしていた浅見が割って入る。
「心配いりません。俺たち、伊藤班ですよ。拠点の入口も考えてあります。次来るときは、陽動なんていりません。危険なんてありませんよ」
浅見が人差し指を立てて天井を指し示す。拠点の入口上部には大きなネットが張られており、車の屋根にかかっている。これは。浅見がニッと笑う。
このネット、三班の車が出発したら、そのまま拠点の出入口を塞ぐネットとなる。しかも、次に車が入る時には、ネットを押し込んで拠点の中に入って来れる。浅見、あんた。何をやっているかと思ったら、すごいことを考えやがった。これなら。
「これは……。伊藤、すまん。ここまでとは思っていなかった」
違う。すごいのは私じゃないんだ。口を開きかけた時に、そっと肩を叩かれる。浅見が無言で首を振っている。
「よし。一班を助けに行くぞ! 三班、車を出せ!」
駒田の合図で、三班の車が発進する。
「ちょっと、駒田一曹、あなたは」
「仲間を助けに行きたいと思っていたのは、お前だけだと思うな!」
なんだ、みんな一緒か。仲間。この言葉が、この時ほど心強いと思ったことはなかった。
「おい、あんた。何でいる!」
浅見が倉庫に入ると、道具を運んでいる要を見つけて詰問する。
「助けにいくんだろ。道具を探しておいた」
要は浅見に用意したものを渡す。消火器、ロープ、傘。浅見が探しに行こうとしていたものがだいたい揃っていた。ん、傘? これは何に使うんだか。
「まあ、助かる。正直探す手間が省けた。なあ、他の民間人はもう出発したんだぞ。わかってんのか。帰れなくなるかもしれないんだぞ」
「あんたら、死ぬつもりか?」
浅見は、要の問いかけにゆっくり首を横に振る。こんなところで死んでたまるかよ。
「なら、問題ない。一緒に帰ればいいだけだ」
こいつの言うとおりだ。麻美先輩。一緒に帰りますからね。
浅見たちが拠点に戻ると、あまりの帰りの早さに伊藤がキョトンとした顔で出迎える。
「あれ、浅見早いね。道具は? え、ちょっと、なんであんたがいるのよ!」
伊藤は要を見つけると浅見と同じ反応をした。
「あんたら、やっぱ似てるな」
要は苦笑して荷台に乗り込む。浅見も苦笑しており、伊藤は憮然とする。
「浅見、一班から無線が入った。状況は思った以上にまずいよ」
「生きていたんですね! それで、状況は」
駒田が確認した一班の状況は、原田が意識不明であること、車両が乗り上げて動けないこと、残弾がないこと。確かに、思った以上にマズい。特に車が動かないことは、隊員を乗せ替えるか、車を移動させるかの二択しかない。どちらもカラスに囲まれた中でやるには至難の業だ。
「浅見、ロープは持ってきたな。ここにある板を使って、車を引っ張り上げる方針で行く。ただし問題は、あのカラスども。伊藤、浅見、危険だが頼む」
二人とも頷く。そこに要が割って入る。
「俺が行く。伊藤さんは援護してくれ」
その言葉に、さすがの伊藤もかっとなった。
「ふざけんな! 素人のあんたに何ができんの。どんだけ修羅場くぐったか知らないけど、こっちは死ぬような思いして訓練積んできてんの。自衛官をなめんな!」
一気にまくしたてると、さすがの要もたじろぐ。わかれ。仲間を助けるための覚悟を。何度も吐いてまで繰り返してきた訓練の成果、今使わないでいつやるんだ。
「そういうことだ、沖村。お前は陽動につき合ってもらうぞ」
「わかった。伊藤さん、あんたに失礼だった。ひとつ、提案がある。駒田さん、射撃のプロだったよな」
駒田が怪訝な顔をする。確かに、駒田の射撃の腕は随一だが、これだけの数を相手にできるものではない。
「一発でいい。狙ってほしい奴がいる。カラスの指揮官だ」
「カラスの指揮官、だと」
「ああ。奴らの群れは統率がとれているだろ。必ずどこかに指揮官がいる。きっと、高みの見物をしているはずだ」
合点。俺たちも部隊だ。部隊同士の戦いなら、負けるわけにはいかない。
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