第8話 突入 ①

 ブロロロロン。

 輸送車のエンジンに火が入る。

「皆、準備はいいか」

 真剣な面持ちで原田三尉が声をかけると、作戦に参加する自衛官、避難者とも、力強く頷く。

 要たち避難者は、駒田一曹率いる三班に入る。このうち七名は、駐屯地での荷受け要員として残る。この要員、はっきり言って危険度は低いが、危険な仕事から帰ってきた時にスムーズに受け渡しができることは効率的にもいいし、気の緩みやすい荷下ろし時の生存率を高めることにも繋がり、地味だが有難い要員だ。もうひとつ重要なのは、体力的に劣る者や、無理をして志願した者にも「作戦に参加できた」という達成感を与えることで、自信にも繋がる。

 次いで危険度の比較的低い、車での荷受け要員。最もリスクがあるのは現場での搬出要員となる。要は地上で生活してきた経験を買われて搬出要員となった。

 避難者の適性を考慮できるように要員を采配した原田は、若いながらもさすが指揮官といったところだ。

 車の荷台に乗り込んだところに、明菜が駆けよってきた。

「これ、持ってって」

 つんとした顔で、何かを渡してくる。てっきりまた「連れてけ」等とごねるかと思ってたところだったので、少し拍子抜けした。

「ん? ありがとな」

 何かと思ったら手袋だった。ピンク色のちょっとかわいい感じのもの。これをどうしろと。

「帰って来なかったら死ねって呪いをかけておいたから。ちゃんと着けてってよね」

 それだけ言い放つと、足早に戻っていった。

 呪いって、おい。帰って来ない時は死ぬときだろうが。要は苦笑する。まあ、あいつなりの励ましのつもりなんだろう。

 早く帰って安心させてやろう。要は似合わない手袋を嵌めながら、強く思った。


 施設班となる二班の車には、伊藤と浅見を含めた隊員十名が乗り込む。この車は、行きに搬出拠点を構築するための資材を積み、帰りに物資と第三小隊の現場搬出要員を積んで帰ることとなる。拠点をつくっている時は無防備となるため、一班の陽動頼みだが、危険を肩代わりするのは一班だ。二班が作業に手間取った分だけ、陽動班のリスクが格段に増す。十人で手早く構築しなければならない。時間との勝負となる。

「浅見三曹、わかってるね。あんたの建設能力が頼りなんだから」

「任せてください。施設隊の誇り、見せてやりますから」

 調子のいいことを言う浅見だが、そう言えるだけの能力があることは間違いない。浅見の細やかな配慮からなる建設は、他の隊員より頭ひとつ抜きんでている。駐屯地周辺の安全化も、大半が浅見の力によるものだ。単純に安全にするだけじゃなく、生活する人の快適性までも考えた気配りがまた浅見らしい。

 伊藤も、全体を見て的確に指揮することには長けているが、使いやすさを伴った完成度の高さという一点では、浅見に及ばないことを自覚している。それだけに浅見を頼りにしている。

「ねえ、ちょっとあれ」

 伊藤が浅見の脇をつつき、外を指さす。明菜が三班の車に駆けていくのが見えた。

「あ、嬢ちゃん。何か渡したぞ」

 浅見が何か嬉しそうに話す。ピンク色のかわいい手袋を受け取った沖村が、微妙な表情で見つめながら、仕方ないといった表情で嵌めていた。あの男にピンクって似合わない。

 伊藤は浅見と目を合わせると、自然に顔がほころんできた。

「くっくっく。あいつがピンクって、似合わねえ。やるなあ、あの嬢ちゃん」

「ふふ。いいもの見させてもらったわね。よし! あたしらもさっさと終わらせて、無事に帰るぞ!」

 こんなもの見せられて、大人しくくたばってられるか。絶対に生き残ってやる。

 伊藤の檄に隊員たちが力強く頷いた。

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