第7話 いびつな契り ②
荷物の積み込みが終わると、原田司令が皆に声をかけてきた。
「よし、みんな集まってくれ」
集合の合図で自衛隊員、避難者の回収要員とも、ぞろぞろと集まってきた。
「これから作戦を伝える。今回の作戦の目的は、物を探しに行く避難者の護衛。避難者の安全が最優先だ」
原田が一呼吸置く。伊藤たちが頷く。
「目標は、丘の上にある大手流通会社『フォレスト』の倉庫。避難者の目的は、そこにある飲食物や日用品の確保。量が多いだろうから、時間との勝負になる。我々は三班の小隊編成で行く。小隊長は俺、一班の班長も兼ねる。二班は伊藤二曹、三班は駒田一曹だ」
「え! 司令も行くんですか」
伊藤が思わず遮る。
「伊藤! 説明の途中だ! まあいい。先に説明する。これは立派な作戦行動だ。現場での指揮や判断が必要になる。下士官だけに任せてのうのうと待っていられるか。安心しろ。駐屯地の指揮権は橋本曹長に委譲したから」
原田はニヤッと笑う。ああ。忘れていた。原田三尉はこういう人だった。今は階級上、駐屯地司令をやっているが、それさえなければ、こういう無茶なことは率先してやるような人だった。むしろ、避難者のケアも必要な司令の仕事がストレスとなり、橋本曹長に体よく押し付けてきたに違いない。
「と、いうことだ。異論は認めん」
「……橋本曹長、かわいそ」
ぼそっとつぶやくと、原田はじろりと伊藤を睨む。
「続けるぞ。まず一班は陽動だ。俺たちがカラスを惹きつける。次に二班。伊藤二曹の施設隊は、その隙に出入口に安全な拠点を構築しろ。構築後は搬出作業の護衛だ。やれるな」
「ちょっと待ってください! この作戦の言い出しっぺは私です。陽動は私が引き受けます。三尉は拠点構築を指揮してください」
「適材適所だ。施設班の指揮は伊藤が適任だ」
「拠点の指揮は浅見三曹もできます。だから」
「異論は認めんと言っただろ。二班は今回の作戦の要だ。自分の能力の高さを理解しろ。拠点づくりに集中するためにも、陽動班が全体の指揮を総括するのが理にかなっている」
伊藤は黙る。悔しいが、今回の作戦の成否は、どれだけ早期に搬出拠点を築けるかにかかっている。私と浅見、二人が中心になることで生存率も増すことはよくわかる。
「最後に三班。駒田一曹の後方支援隊で、二班の構築した拠点から荷物を搬出する。必要な資材の選別を頼む。そして避難者の方々は、三班に入っていただく。十七人の内、七名は駐屯地での荷受け、四名は車の荷台での荷受け、六名は倉庫内での搬出を頼みたい。第二小隊の拠点が完成するまでは外に出なくていいから、安全を一番に行動してくれ」
避難者らが緊張した面持ちで頷く。怖いのもあるだろうが、きびきびとした作戦が展開されることを想像してか、うまくやれるか不安なんだろう。
「駒田一曹は、現場での援護。避難者の方々の役割分担をしておいてくれ」
「了解です」
「よし。作戦は明朝〇七〇〇決行。皆よく休んでおいてくれ」
「はい」
全員が力強く頷く。てきぱきとした指示に、作戦のイメージも沸いたようだ。この人と一緒ならやれる。そんな風に思わせてくれる指揮は、さすが幹部というところ。
予定とは違う編成になったが、適材適所なのは間違いない。大丈夫、きっとうまくいく。
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