第6話 雛人形 ①
伊藤と浅見は、重い足取りで格納庫に向かう。
「俺から話します」
「いいよ。こればっかりは上官の仕事だからね」
伊藤はやれやれといった感じで肩をすくめる。原田には「やむを得ないだろう」と承諾をもらっているが、避難者たちの反応を考えると気が重い。
「こんな時に上官ぶらないでください」
「上官ぶるじゃなくて、上官なの」
伊藤がぴしゃりと言う。
「ねえ、何の話かな」
「さあな。新入りが来るととまずいのかもな」
伊藤たちの後ろで沖村たちが話している。ああ、余計な気を遣わせてしまった。
「大丈夫。あなたたちのことじゃないの。ちょっと荒い人もいるけど、気にしないでね」
伊藤が明菜ににっこりと笑う。
「さて、行きますか」
伊藤は腹をくくる。
「すみません。各班の代表の方は集まってください」
浅見が避難者らに呼びかける。ここでは五十人を一つの班として、班ごとに代表者を置いていた。のそのそと、四十人の代表者が集まってくる。
「みなさんに、お知らせとお願いがあります」
伊藤が努めて明るい声で言うと、大半の者が沖村と明菜に気付いたようだ。
「新入りか?」
「はい。沖村さんと小林さんです。四十班に入ってもらうことにしますので、班長さん、よろしくお願いします」
四十班の班長が、やや迷惑そうな顔で二人を見る。四十代くらいの女性の人だ。
「なんで今更、新入りなんて。この人たち、危険なんじゃないの。大丈夫なの」
沖村たちには、ある程度予想した反応のようだった。お互い顔を見合わせて苦笑している。
「ちょっと事情があって、昨日保護しました。大丈夫です。身元は保証します」
おいおい。勝手に保証しちゃったよ。浅見は、伊藤を大したものだと思った。会ったばかりで保証なんてできないが、きっぱり言うことでそれ以上の反論を封じることができる。
「それなら、まあいいけど……。何かあったら、あなたが責任取ってね」
「わかりました」
うまいな。正直責任の取りようはないが、ここまで言えば、沖村たちの方でも問題を起こさないよう気を付けてくれるだろう。
「そいつらが増えると、私らの食事が減るんじゃないか」
おい、ここで言うことか。浅見は不快なものでも見るように発言した者を睨む。岡野、またこいつだ。権利ばかり主張して、自分のことしか考えないことはわかっていたが、本人の前で言うか。それを聞いた二人は何て思う。しかも一人は十代の女の子だぞ。
「二人分の備蓄は問題ありません。足りない分は私たちから減らすので、みなさんにご迷惑はかけません」
「いいよ、あなたたちだって大変でしょう。皆で少しずつ融通すればいいんじゃない」
四十班の班長だ。先ほど迷惑そうにしたのが心苦しかったのか、同情を寄せる。隊員たちが大変なことも理解してくれてるのはありがたいことだった。
「それなら、そっちの班だけでやってくれ。それならいい」
「こっちの班には迷惑かけないでくれ」
また岡野。そしてそれに同調する奴らも。自分さえよければ、誰かが困ってもいいのかよ。どこまで行っても不愉快な奴だ。伊藤も内心怒り心頭だろうが、努めて笑顔をつくろうとしている。ちょっと引きつってるけど。
「お知らせはここまでです。次に、お願いしたいことがあります」
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