第4話 少年の詩 ②

 悠人は、目の前で起こった恐ろしい死に様を見て、恐怖のあまり震えている。

 違う。僕じゃない。

 小さな声でそう呟く。こんな奴は死んでしまえばいいと思った。でも、殺したかったわけじゃない。ただ、守りたかっただけなんだ。

 直接の死因は刈谷自身によるものだったが、悠人の攻撃が間違いなく死に繋がっている。その事実に、言い様のない恐怖がつきまとう。

「てめえ、よくも刈谷をやったな」

 金田は怒りをあらわにし、悠人を睨みつける。

「お前みたいなのにやられるとはな。こんなことして、自分が殺される覚悟もできているんだろうな」

 金田が悠人にゆっくりと近づいていく。罪の重さに震えている悠人は、まともに金田の目を見ることもできていない。

「ハル! お前は悪くない!」

 悠人は、その声に、はっと目を覚ます。要がまっすぐに悠人を見ている。

 あの人がそう言ってくれた。いや、僕が悪いのはわかっているんだ。だけど。そう言ってくれる人がいることは、勇気をくれる。

 悠人は、自分が何のためにここにいるか、はっきりと思い出すことができた。

「来るな!」

 悠人は、自分より一回り大きい金田を真っすぐ見て言う。

「止まれよ。その人を離せ」

「あ? 誰に向かって言ってんだ」

 金田は明らかに格下と見ていた悠人の言葉に不快さを隠さず凄む。

「止まるんだよ。これ、わかるだろ」

 悠人はゆっくりとシャツを捲る。そこに見えたのは、わき腹に残る傷と血の跡だった。


「ハル、お前……」

 要が絶句する。信じられないという面持ちで、悠人の傷を凝視している。悠人の見せた傷。傷自体は浅いが、そんなことは問題でない。今まで散々見てきた、浅黒く独特な傷。それは、カラスによってできた傷だったのだから。そしてその傷を負った人の末路も。

「てめえ、感染してやがったのか」

 金田は悔し気に唇を噛みしめる。感染者とわかれば、下手に近づくことはできない。悠人は、傷口にナイフを当てて深くえぐる。くっ。痛てえ。傷口から血が滲み、悠人の手を赤く染めてゆく。そしてその手を、金田に向かって突き出した。

 ビクッ。金田は思わず後ずさりをした。これまで危ない橋をわたってきた金田でも、自分が死ぬのは怖い。むしろ怖いからこそ、危ないところには巧妙に人を使ってきた。感染者の血はまずい。あれに触れたら感染する。ここへ来て、とんだ隠し玉を持っていやがった。

「お、おい、待てよ。おまえ、このままだと死ぬぞ」

「……わかってるよ。だから最後に、この人のためになりたかったんだ」

 悠人は、田村たちに捕まっている要を見て、静かに言う。その目は、何かを諦めたような悲しい色をたたえていた。それでもなお、意志の輝きは失っていない。

「ハル、何で来たんだ! そんな体、時間がないのはわかっているんだろ。こんなところにくるより、アキと一緒にいてやれよ!」

 悠人は、静かに首を振る。

「アキは……死んだんです」

 声を絞り出すように出されたその言葉に、皆が息を呑む。

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