第19話『企☆ガァ―ルちゃん』らぶ涙色じゃあ!

「孝介!」


(なんですかー。今それどころじゃ…)


「『涙色』とはどんな『色』じゃね?」


(は?)


「いやな。昨日、孝介と離れてる時に耳にしたのじゃぞがな。『らぶ涙色』との言葉が耳に入ってきたぞない。それが聞いてると切なくて切なくて。『涙色』とはどんな色じゃねんな?」


(あ…。あの『歌』を聴いたのね…。まあ、涙って透明だから『色』はないんじゃないの?)


 ぽかり。


「あほかああ!だったら『らぶ無色透明』と歌うじゃろうがあああ!それじゃあグッとこないぞい!『らぶ涙色』だからこそグッときたのじゃあ!そうじゃあ!『らぶ涙色』の『生地』を作ってみんか?売れそうじゃねえか?乙女チックで勝負服にはピッタリの気がするぞお。気がァ―ルぞい」


(はいはい。今度織元にお願いしてみるね)


 ぽかり。


「はい×2は馬鹿にしとるらろー!」


(そ、そんなことありませんよ…)


「だったらよいが」


(それより『気☆ガァ―ル』ちゃん。『黒』って『殺意』の意味なんだよね?)


「そそそ」


(あのお…。思い切り『黒』が見えるんですが…。俺はその人のことまったく身に覚えがないんですが…)


「『気☆ガァ―ルアイ』は絶対じゃぞ。まあ、人間は自覚なしで他人を傷つける生き物っすからなあ。暫くは用心しといた方がよいぞ」


(用心って…。暫くって…。いつかは消えるもんなのかよ…)


「うん。一時やその相手の性格にもよるが『色』はコロコロ変わるもんっすなあねんよ」


(へえー。まあ、『透明』が多いけど…。『赤』が多いのはビックリですねー。俺ってイケてるんだあ…)


「それより『らぶ涙色』の『生地』だぞ!」


(へえへえ。織元に…)


 ぽかり。




 そして北北堂に出社する孝介。昨日と同じように新島と新沼は『青』で、他の女性陣は『透明』、北王子社長と椎名は『赤』で。


「おはよう」


「おはようございます!」


「おはようございます」


「おいーっす」


「…」


「おはようさん」


「おはようございます」


 そして午前中はサンプル作り。


「あ、椎名君」


「はい。孝介さん」


「『伊太利亜』の同行の件、今日はちょっとなしで。いいかな」


「ええまあ。孝介さんが言うなら訳アリなんでしょう。大丈夫です」


「椎名くーん。残念だったねえー」


 新沼が『伊太利亜』の木島さん狙いだった椎名をからかう。


「ベ、別に…。僕は…」


「はいはい。木島ちゃんには私が今度上手く言っといてあげるから」


「え、椎名さんって『伊太利亜』のデザイナーさんに気があるんですか?」


 二十五歳の横山が話に加わる。


「横山さん。それはデマだよ。新沼先輩が言ってるだけですから」


「椎名くーん。星野君は『孝介さん』で私は新沼『先輩』って何基準で分けてるの?」


「あ…、いえ…、新沼さんは先輩ですので…。あと孝介さんは新人の時から同行で取引先の皆さんが『孝介さん孝介さん』と呼んでたので…。その名残です…」


(ん?前から思ってたんだけど…。新沼って椎名にやたら絡むよなあ…。それも好意的な絡み方で…。『気☆ガァ―ルアイ』って俺以外の気持ちは分からないのかなあ。椎名目線で新沼を見たら新沼の椎名に対する『色』が見えれば分かりやすいんだけど…。今度『気☆ガァ―ル』ちゃんに聞いてみよう)


 そして孝介は午後から外回りに出る。ただ、椎名の同行を断った理由。午後一に離婚した元嫁と急遽会う約束をしていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る