第17話綺麗じゃあ…。『綺☆ガァ―ルちゃん』
「椎名くーん、一本くれるー」
「えー、新沼先輩はメンソールじゃないんですか?」
「ちょうど切らしちゃってさー」
新沼はよく人にタバコをねだる。北北堂の二階喫煙スペースにある灰皿。メンソール系の緑に赤い口紅は新沼が吸った証。
「新沼さんも『サンプル』?」
「そ。アルバは常に新しいからね。『ヤング』は当たれば大きいし」
北北堂の取引先で一番の大手は新沼が担当している『アルバローズ』である。ハイビスカス柄などで一世を風靡したこともある。孝介も『アルバ』の忘年会などに呼ばれて参加したことがある。
「でも『アルバ』を開拓したのはすごいですよね」
「そおなの?じゃあ椎名君に引継ぎしようか?」
「ホントですか!?」
「んなわけねえだろ」
そう言いながら椎名からもらったタバコの煙を椎名の顔面に吹き付ける新沼。
「まああそこは決まればデカいからね。それに『ヤング』は『ミセス』と違ってまた難しいし。社長も新沼さんに期待してるよ。僕も昔何度か営業に行ったけど契約取れなかったもんなあ」
「つーか、私の分はないのお?コーヒー」
「あ、いえ…。いると思わなかったので…」
「椎名君。それじゃあ『アルバ』どころか『伊太利亜』も難しいよ。木島ちゃんは手厳しいよおー」
そう言ってもう一度椎名の顔面に椎名から貰ったタバコの煙を吹きかける新沼。
「孝介!」
(『コマンド』
『話す』
→『気☆ガァ―ル』ちゃん
いきなり現れるなよ!)
「なんだとお!呼んだのは孝介の方なのらぞ!」
(呼んでませんよー)
「そうなのか?」
「あ、じゃあ僕はちょっと明日の分のサンプルを切ってくるから」
椎名が『僕を新沼さんと二人きりにしないでください!』と言うような表情で孝介を見ている。孝介は『気☆ガァ―ル』ちゃんの相手がある。
(いや、マジで。急に現れないでよ。まだ慣れてないんだから)
「そんなこと言ってたらいつまでも慣れるもんも慣れんもんやで」
(へいへい)
そんな会話をしながら昼間に『伊太利亜』のデザイナー、木島さんからお願いされたニットの反物を探し出し、台の上に乗せ、一メートルの長さを計ってハサミでチョキチョキ切り始める孝介。
「ところで『それ』はなんじゃぞ?」
(え?『それ』って?)
「そのチョキチョキしてるやつやん」
(あー、昼間にサンプルで見せて気に入って貰った『生地』だよ)
「きじ?」
(そう。これで洋服やバックを作るんだよ)
「ふへええええええええ!洋服の材料はこんな巻物みたいなんじゃあ!?」
(あれ?『気☆ガァ―ル』ちゃんは反物を見るの初めて?)
「綺麗じゃあ…。『きじ』とはとても美しいのう…。それになんか切りにくそうじゃね?」
(ああ、これはニットだからね)
「ふへ?『ニット』って?」
(伸びるじゃん?ほら)
そう言って『矢振り』の生地を伸ばす孝介。
「おお!わたすが寒い時に纏う服もそんな感じやで!」
(そ。だから丁寧に切らないとダメなの)
「孝介!『生地』に詳しいのか!?」
(まあね)
「教えてくれえ!」
(『気☆ガァ―ル』ちゃん、『生地』に興味持ったの?教えてって言われても…。まあ慣れだよ。『生地』は基本的に二種類しかないよ。『織物』か『編み物』ね)
「お、お・り・も・の・か・あ・み・も・の」
メモを取り出してメモメモしてる『気☆ガァ―ル』ちゃん。椎名と新沼の方をちらりと見る孝介。新沼と目が合う孝介。相変わらず新沼の『色』は『青』のままであった。
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