第13話鼻の下伸びてるねん。『既☆ガァ―ルちゃん』

「じゃあ俺、こっちだから。椎名君頑張ってね」


「はい!今日はパチの負債をごちありがとうございます!」


「いやいや。お礼ならまた『合コン』とかよろしくね」


 苦笑いしながら椎名が駅で孝介とは反対側のホームへと歩いていく。


「さっそく『合コン』のお願いとは孝介も寂しい生活を送っておるのじゃのう。うっうっ」


(いや…。むしろちゃんと話聞いてたの?『バツイチ』とかいろいろあったのよね)


「まあまあ、孝介も『気☆ガァ―ルアイ』を使いこなせばいいおなごとお近づきになれるぞい」


(なんだなんだ。『気☆ガァ―ル』ちゃんはお見合いおばさんみたいなことを言ってるなあ)


 ぽかり。


「エンジェルをつかまえて『おばさん』とはなんじゃああ!エンジェル界ではまだまだ『ぴっちぴち』なのじゃぞ!」


(あ、すいません…。で、あとは…、そうそう、まあ確認だけどね。『色』の濃度はそれだけ『想いの強さ』を意味してるってことでおっけ?)


「そうだよーん。血のように染まった『赤』はもう情熱の好感度だわさ。逆に超ブルーブルーブルーは『こいつもう顔も見たくねえ』の『青』だよん。そして厄介な『色』が一つ。分っかるかなあ?分っかんねえだろうなあ」


(え?その口調は?まあ置いといてえ。『黒』でしょ?)


「正解!やるな孝介!『殺意』の黒に濃度は分からんす。『灰』色と『黒』は別じゃからのお」


(え?『灰』色もあるの?『灰』色は何を意味するの?)


「それが私にもよく分からん。『灰』色って見たことねえのね。サンプルが少なくて申し訳ないのお。ごめんぴ。ちなみに『黒』の対極である『白』もあるんだよねえ。『白』はもう見えた?」


(え?『白』?まだ見てない。へえ、『白』もあるんだね)


「そそそ。ちなみに『白』は『悔しさ』を意味するのであーる。ある意味『優秀』なものしかそういう『色』で見られることはないからであーる」


(なるほどねえ。大人になれば『悔しい』ってあんまり感じないかもね)


「そうなのか?」


(うん。『悔しい』ってことは『負けを認める』ってことでしょ?相手を認めるってことでしょ?素直にそう思える人って少ないと思うんだよねえ)


「そっかあ。私が前に来た時代とはちょっと変わってるんやねんなあ」


 電車に乗って営業先を回る孝介。移動中、取引先での商談中、たくさんの『色』を見る。


「あ!北北堂の星野さん!こんにちはー!」


「こんにちはー。デザイナーの木島さんと十四時でアポイントを取ってまして」


「木島ですね。少々お待ちください」


「はい(うわー。このお姉ちゃん。いつも愛想がいいなあと思ってたけど…。めちゃめちゃ『赤』色じゃん。俺のことめちゃめちゃ想ってるんだ…)」


「星野さんはいつもおしゃれですねえ」


「え?どうなんでしょう?まあ、こういう業界ですので気を遣うようにはしてますが…(あ、えーと、名前は確か…、田中さんだったよね。受付の。結構若いんだよねえ…)」


「では奥の部屋へどうぞ。木島がお待ちしておりますので」


「ありがとうございます(うわー、めっちゃ『赤』だよおおお。田中さんって若くてかわいいんだよなあ。受付の子ってみんな愛想がいいから勘違いしないように心掛けてたけど…。これは嬉しい!)」


 ぽかり。


「こらこら孝介。鼻の下が伸びておるぞ。だらしない」


(あら。これは…『気☆ガァ―ル』ちゃんには『そう』見えてるのね。気を引き締めまーす)


 ミセスブランド専門の『伊太利亜』のデザイナー室で独身貴族の孝介は木島恵理子(三十二歳)と打ち合わせを行う。

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