第7話ブラックコーヒーと『甘えんな』
株式会社北北堂の出社時間は午前十時。出社したら入口のタイムカードを押すことから始まる。そして全員が揃ったら新人の新島が全員の『飲み物』を用意する。新人の仕事である。男性陣三人は揃ってコーヒー。社長の北王子はミルクと砂糖たっぷり。孝介と椎名はブラック。女性陣は三名が紅茶。そしてコーヒーと日本茶が一人ずつ。年功序列で上から新沼がコーヒーで砂糖なしミルクあり、加山が日本茶、そして若王子、横山、新島が紅茶。砂糖なしでミルクはその日の気分で各々が新島にリクエストする。それから午後からの『営業』に備えてそれぞれが『サンプル』作りや『書類作成』など与えられた役割をこなす。基本、『加山以外全員が営業』である。声が小さく、何を言っているのか分からない加山は経理を担当している。新人の新島は『生地』、つまり『テキスタイル』を勉強中でもっぱら『サンプル作り』と『電話番』がメインのお仕事となる。
「あ、新島さん。お願いしといた『サンプル』出来てる?」
「はい。これで大丈夫ですか?」
そう言って孝介は新島から『生地』のサンプルをいくつか受け取る。
「ありがとう。いつも助かるよ」
「いえ!どういたしまして!」
元気がいい。でも孝介に映る新島は『青』。
(なんだよー…。こんなに明るく元気もよくてキラキラした目で俺を見てるくせに愛子ちゃんは俺のことを『マイナスイメージ』で見てるんだよなあ…。何故だ…!?)
サンプルを受け取りながら孝介は小声で新島に言う。
「あのお…」
「はい?」
「僕…、なんか新島さんに対して変なこととかしましたっけ?」
「え?いえ。そんなこと何もないですよ。急にどうされました?」
「いや…、なんとなく…。いつも『サンプル』作りをお願いしてばっかで悪いなあと思って…」
「悪いと思ってんなら自分で作ればいいじゃん」
新島同様『青』が見える新沼が孝介に向かって絡む。それに便乗して若王子まで。
「そうだそうだー。自分で使う『サンプル』は自分で作るっすよ」
『透明』で『無関心』の若王子まで孝介を責めてくる。
「いえ!今、私は『生地』のことをいろいろ覚えないといけないので『サンプル』作りはとても勉強になってますので!皆さんも『サンプル』作りは私にどんどん言ってください!」
「まあ…、愛ちゃんがそう言うなら…」
「孝介。甘えんなよなあ」
年下の部下に生意気な口を利かれる孝介。まあいつもの日常であり、孝介も慣れている。
「孝介さん。僕はこれから『外回り』なんですが一緒に出ません?」
唯一の男の後輩である椎名から声を掛けられる孝介。
「あ、椎名君も今日は午前中から?いいよ。じゃあ一緒に出ようか」
そしてホワイトボードに二人でそれぞれ『行先』を書き込み新島が作った『サンプル』や加山が作った請求書などを鞄に入れて事務所を出る。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
北北堂が誇る五名の女性社員と社長の北王子からそんな明るい声を掛けられるが孝介自身、『これって俺に言ってんのか?それとも椎名メイン?』と思わず考え込んでしまう。そして椎名と二人で歩き始める。
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