第5話うそーーーーーん!

『その持ち主が本当に好きな相手の色は見えない』


 それは一番肝心な『意中の相手』の心は見えない、自分に対してどう思っているかが分からないことを意味し、同時に『自分は本気でその相手のことを好きである』ことを意味する。ただ、今の孝介はその意味を分かっていない。


「まあ、今日一日。孝介ひとりで過ごしてみればいいんじゃない?それがあれこれ説明を聞くより手っ取り早いだわさ。『作文は一見にしかず』ってやつだわよ」


(それを言うなら『百聞は』だろ…)


「し、し、知ってるわいな!そんなこと!わざとや!わざと!まあ、ほなね。あ、ちなみに私を呼び出したい時は『コマンド』で


『コマンド』


 『呼ぶ』


 →『気☆ガァ―ル』ちゃん


と思えば駆けつけるだわさ。でも忙しい時はちょい遅れるかもね。じゃっあねえー」


「え、おい!」


 思わず最後は声を出してしまい周りの人たちから変な視線を送られる孝介。少し赤面。だがすぐにその恥ずかしい気持ちもどっかへ飛んで行ってしまう。


(へ、マジで…)


 孝介を見ている人たちの後頭部うしろあたりに見える色。


『赤』


『赤』


『赤』


『透明』


『青』


『赤』


『青』


『赤』


『透明』


 思いのほか『赤』が多い。しかも同じ『赤』や『青』でもそれぞれに微妙な濃度が。それに『赤』と『青』と『透明』以外の色も。それは『黄』や『緑』、『茶』、『黒』もある。


(おいおいおい…。俺って意外と自分が思ってる以上にモテてんじゃねえの?それより『気☆ガァ―ル』ちゃんが言ってたのと違う色も見えるし…)


 ちなみにその『赤』、『青』、『透明』以外の色は同姓、つまり男から見える色が多い。


(おいおい…。待て待て。あの『野郎』は『黄』色だよな…。ちょっと待て…。『気☆ガァ―ル』ちゃんを呼ぶか…。確か…、


『コマンド』


 『呼ぶ』


 →『気☆ガァ―ル』ちゃん


だったよな)


 ………。しかし『気☆ガァ―ル』ちゃんは孝介の元には現れない!


(んだよ!『気☆ガァ―ル』ちゃん呼んだのに来ねえじゃねえか!いやいや、確か『忙しい時はちょい遅れることもある』とか言ってたよな…。ていうかさっきどっかに行ったばかりだろう!忙しいのかよ!『気☆ガァ―ル』ちゃんは!)


 そう思いながら、『気☆ガァ―ル』ちゃんが来るのを待ちながらもいつものように朝の満員電車に揺られながら会社へ向かう孝介。そして会社に到着。


『株式会社北北堂(ホクホクどう)』


 孝介が新卒で八年間勤めている会社である。名前のわりにホクホクしていない。社員数八名。孝介自身、何度も転職を考えながらもずるずると働き続けてきた。ちなみに職種は生地屋さんである。


「おはようございます!」


「ああ、おはよう」


 数か月前に新しく中途で入社してきた若い女の子。新島愛子が孝介に元気よく挨拶をしてくる。


『青』


(うそーーーーーん!)


 うそーーーーーんであり、これが現実である。

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