***

 ポコッ――〈はい〉

 ポコッ――【ん? 何これ。なんでこんなの送ってきたの?】

 ポコッ――〈心配性な妹に本当にこの先生の家にいます、と。その証拠を〉

 ポコッ――【いや、いやいや。あのねぇ、お姉ちゃん、私が心配してるのは誰の家にいるとかじゃなくて、女子高生に興味を持つような変態の家にいることについて、なんだよ? わかってる?】

 ポコッ――〈されてないもん。何も〉

 ポコッ――【それがふつうです。でもなぁ、お姉ちゃんの虚偽申告の可能性もあるしなぁ】

 ポコッ――〈されてないもん。してくれなかったもん〉

 ポコッ――【まさか、自分から迫ったの?】

 ポコッ――〈うう。彼女がいるのかなぁ〉

 ポコッ――【それは、ないと思う。いるなら、その彼女はなんというか、相当気にしない人なのかなって、思う】

 ポコッ――〈やっぱり、教師にとって生徒なんて、子どもなのかなぁ〉

 ポコッ――【そりゃそうでしょ。雨も止んだでしょ。アホなこと言ってないでもう帰ったら? 心配してるよ、母さん】

 ポコッ――〈聞いてみようかなぁ〉

 ポコッ――【なかなか粘るね】

 ポコッ――〈ちゃんと誤魔化さず、聞いてみるよ。わたしのこと、どう思ってますか? って〉

 ポコッ――【それして、なんの意味があんの?】

 ポコッ――〈諦めがつく!〉

 ポコッ――【なんでそんなに好きになっちゃったの】

 ポコッ――〈わかんない。わかんないけど、いつの間にかずっと目で追ってたの。こんな気持ち初めてなんだ。もう二度とこんなチャンスないと思うし、やっぱりちゃんと聞いてみる! またあとでれんらするね!〉

 ポコッ――【へ?】

 ポコッ――【おーい? おーい!】

 ポコッ――【ま、まじか……誤字も気づかないのか】


 もう。ほんとう、ひとの話聞かないとこ、父さんそっくり。まぁ今度の土曜日、どうだったか聞いてみればいっか。


 ――


 突き飛ばされた。なら、よかったのに。先生は私をそっと優しく外すと、


「お前なに、俺のこと本気でそう思ってんのか?」


 憐れみとしか呼べない目で私を見つめてきた。


 そんな可哀想なものを見る目をするなよ。誰のせいでこうなってると思ってんだよ。こっちだって決死の覚悟だよ。


 首筋を一筋の汗が滑り落ちた。わざと大きく息を吐いてやる。


「先生、抱いてください」


「いやです。だいたい、菊池さんの意図が読めません。怖すぎます」


 急な敬語に突き放された気がして、


「……そりゃそうだよね」


 ぽつりと漏らしていた。先生が眉を寄せる。


 唇が意地悪く歪むのが、自分でも分かった。


 

 先生は動きを止め、目を大きく見開いて私を見つめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る