4

 なぜ僕はこんなにも大事なことを忘れていたのだろう。

 他でもない、キミとの約束だったのに。

 忙しさに追われて日付の感覚がなくなってしまっていただなんて、そんなこと言い訳にもならない。


 キミを傷付けようとするものから、キミを守ると決めていたのに。キミを傷付けたのは僕だった。大切にすると言ったのに。

 あんなにも悲しそうな顔をさせてしまった。


「ああ、もう!」


 自分の不甲斐なさにイライラした。

 でも、ここでこうしていても仕方がない。

 急いで顔を洗って髪を整えた。服も着替えなければ。

 キミの好きなピンクのガーベラを持って、キミに会いに行こう。

 キミは今どこにいるだろう。ひとりで映画を観たのだろうか。

 きちんと謝って、今からでもデートを仕切り直させてもらおう。ランチの時間はとっくに過ぎているから、ディナーでも許してくれるだろうか。少し高くても、キミの行きたいところに行こう。駅の裏にできたオシャレなイタリアン、行きたいって言っていたよね。


 あれこれ考えながら着替えていると電話が鳴った。ディスプレイにはキミの名前。僕は慌てて電話に出た。まずは謝ろうと思って



「もしもし? さっきはごめん。あの…」


「すみません、…」


 確かにキミの名前が表示されていた。キミの番号のはずだった。

 けれど、聞こえたのはキミの声ではなかった。


 状況が飲み込めないままでいる僕を置き去りに、電話の向こうの人間は淡々と話を進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る