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 なぜ僕はこんなにも大事なことを忘れていたのだろう。

 他でもない、キミとの約束だったのに。

 忙しさに追われて日付の感覚がなくなってしまっていただなんて、そんなこと言い訳にもならない。


 キミを傷付けようとするものから、キミを守ると決めていたのに。キミを傷付けたのは僕だった。大切にすると言ったのに。

 あんなにも悲しそうな顔をさせてしまった。


「ああ、もう!」


 自分の不甲斐なさにイライラした。

 でも、ここでこうしていても仕方がない。

 急いで顔を洗って髪を整えた。服も着替えなければ。

 キミの好きなピンクのガーベラを持って、キミに会いに行こう。

 キミは今どこにいるだろう。ひとりで映画を観たのだろうか。

 きちんと謝って、今からでもデートを仕切り直させてもらおう。ランチの時間はとっくに過ぎているから、ディナーでも許してくれるだろうか。少し高くても、キミの行きたいところに行こう。駅の裏にできたオシャレなイタリアン、行きたいって言っていたよね。


 あれこれ考えながら着替えていると電話が鳴った。ディスプレイにはキミの名前。僕は慌てて電話に出た。まずは謝ろうと思って



「もしもし? さっきはごめん。あの…」


「すみません、…」


 確かにキミの名前が表示されていた。キミの番号のはずだった。

 けれど、聞こえたのはキミの声ではなかった。


 状況が飲み込めないままでいる僕を置き去りに、電話の向こうの人間は淡々と話を進めた。

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