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そして僕らは付き合いはじめた。
それまで"友人"として過ごしていた僕らの距離は"恋人"としての距離になった。少し変わった僕らの距離を隠すことなんてしなかった。
好奇の目で僕らを見る人もいたけれど、そんなこと関係なかった。僕とキミが、お互いを想い合っていればそれでいいと思っていた。
理解できない人は僕らを蔑むような言葉を吐いて離れていったし、僕たちの距離を受け入れてくれる人もいた。
それからキミは幾度かの手術を経て、戸籍を変え、ようやくこころのままのキミになった。
肉体的なことだけではない。精神的にも辛いこともたくさんあったはずなのに、キミは笑っていた。僕の隣を、堂々と手を繋いで歩くために、こころのままの、なりたい自分になるためだからと、そう言って笑った。
そんなキミが、心から、愛おしいと思った。
愛おしくて、ずっと笑っていて欲しくて。キミに想いを伝えたのと同じ日に、僕はプロポーズをした。
あの時以上に、心臓が速く脈打った。
キミがいつか、好きだと教えてくれた、ピンクのガーベラを1輪差し出したら、キミはとても嬉しそうに笑ってくれた。
『覚えていてくれたの?』
なんて、顔を綻ばせながら。
そして、ニコニコしながら突然のプレゼントを眺めているキミの目の前に、そっと指輪を差し出した。
僕の手はきっと震えていた。
キミは驚いた顔をして小さく息を吸って、そのまま一瞬時が止まったようだった。それから僕の手にキミがそっと手を添えてくれて、満面の笑みで受け入れてくれた。
僕は嬉しくて、泣いてしまった。そんな僕を見て、キミも一緒に泣いてくれた。
この瞬間、僕は最高の幸せを手に入れたと確信した。キミを誰よりも幸せにすると決めた。
そして、2人で決めた。
はずだった。
記念日には必ずデートをしよう。はじめてのデートと同じように。流行りの映画を観て、ランチをして、ショッピングをしよう、と。
僕たちの子どもは持てない代わりに、毎年ひとつずつ思い出を増やしていこう、と。
"約束"したはずだったのに。
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