3

 そして僕らは付き合いはじめた。

 それまで"友人"として過ごしていた僕らの距離は"恋人"としての距離になった。少し変わった僕らの距離を隠すことなんてしなかった。

 好奇の目で僕らを見る人もいたけれど、そんなこと関係なかった。僕とキミが、お互いを想い合っていればそれでいいと思っていた。

 理解できない人は僕らを蔑むような言葉を吐いて離れていったし、僕たちの距離を受け入れてくれる人もいた。



 それからキミは幾度かの手術を経て、戸籍を変え、ようやくこころのままのキミになった。

 肉体的なことだけではない。精神的にも辛いこともたくさんあったはずなのに、キミは笑っていた。僕の隣を、堂々と手を繋いで歩くために、こころのままの、なりたい自分になるためだからと、そう言って笑った。


 そんなキミが、心から、愛おしいと思った。


 愛おしくて、ずっと笑っていて欲しくて。キミに想いを伝えたのと同じ日に、僕はプロポーズをした。

 あの時以上に、心臓が速く脈打った。


 キミがいつか、好きだと教えてくれた、ピンクのガーベラを1輪差し出したら、キミはとても嬉しそうに笑ってくれた。

 『覚えていてくれたの?』

なんて、顔を綻ばせながら。

 そして、ニコニコしながら突然のプレゼントを眺めているキミの目の前に、そっと指輪を差し出した。

 僕の手はきっと震えていた。

 キミは驚いた顔をして小さく息を吸って、そのまま一瞬時が止まったようだった。それから僕の手にキミがそっと手を添えてくれて、満面の笑みで受け入れてくれた。

 僕は嬉しくて、泣いてしまった。そんな僕を見て、キミも一緒に泣いてくれた。

 この瞬間、僕は最高の幸せを手に入れたと確信した。キミを誰よりも幸せにすると決めた。



 そして、2人で決めた。

 はずだった。



 記念日には必ずデートをしよう。はじめてのデートと同じように。流行りの映画を観て、ランチをして、ショッピングをしよう、と。

 僕たちの子どもは持てない代わりに、毎年ひとつずつ思い出を増やしていこう、と。


 "約束"したはずだったのに。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る