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しばらく(とは言っても時間にすると数秒だろうけれども)、僕は閉まった扉を見つめてから、ひとつ欠伸をしてソファに寝転がった。
そしてまたひとつ、欠伸をしながらテレビをつけた。特にこれといって見たいものがあったわけではないけれど。適当に、ぼーっとしながら眺めていた。
たまに座ってみたり、また寝転がったり、時折姿勢を変えながらだらだらとすごしていた。
しばらくして喉の乾きを覚えた僕は、飲み物を持ってこようと立ち上がった。その時、ふとカレンダーが目に入った。今日の日付に赤いペンでハートマークが書かれてあった。そしてその下には『記念日デート』と、キミの独特の丸みを帯びた字で書かれていた。
瞬間、僕は、僕の過ちに気付いた。そして、さっきキミに投げた言葉が、どれだけキミを傷付けたのかも。
キミの言っていた『約束』は、ただのデートではなかった。僕らにとって、大切な記念日だった。
僕らが付き合いはじめた日で、キミが僕のプロポーズを受け入れてくれた日でもあった。
出会った頃、キミはまだ生まれたままのキミだった。キミも本当の自分を隠していたし、僕らは友人として過ごした。
一緒にいて楽しくて、気付けばキミに惹かれている僕がいた。
はじめは勘違いかもしれないと思ったし、きっとそうだと思おうとした。けれど気持ちは次第に大きくなって、そんな僕自身に悩んだりもした。いつも傍にいるから、思い込みなのかもしれないと。
けれどキミと過ごして、キミが僕に向ける笑顔を見るたびに、この気持ちは勘違いでも思い込みでもないと感じるようになった。他の誰でもない、キミがいいのだと、僕は確信した。
そうは言っても、キミの気持ちはわからないし、気持ち悪いと思われるかもしれない。僕の気持ちを知ったら、キミはどう思うのだろう。
だけど、このまま何もなかったようにキミの隣で『友達』をすることができないと感じた僕は、玉砕覚悟で思いを打ち明けた。
心臓が、それまで経験したことのない速さで早鐘を打った。冷え症でもないのに、感覚が無くなるくらい指先が冷たくなった。そんななのに、普段はかかない汗がじんわりと手のひらに滲んでいた。
とにかく、今までにないくらい僕は緊張していたことを、はっきりと覚えている。
そうして、僕はキミに想いを伝えたけれど、俯いたまま顔が上げられなかった。キミがどんな表情をしているのか、怖くて見ることができずにいた。一言も発しないキミは、汚いものでも見るような顔をしているかもしれないと思うと、顔を上げられずにいた。
けれど、その時笑い声が聞こえた。恐る恐る顔を上げると、キミは笑っていた。そして、泣いてもいた。
それから、僕と同じ気持ちでいてくれたことを教えてくれた。キミがずっと悩んでいたことも、その時に打ち明けてくれた。今のキミと、本当のキミが違うこと。
ひとつひとつ、ゆっくりと話すキミの声は震えていた。
きっと、怖かっただろう。その時キミに想いを伝えた僕の何倍も、キミは怖かったと思う。
でも、そんなキミを見て僕は思ったんだ。キミを守りたいと。いつも僕に笑いかけてくれるキミ。ずっと一緒にいたいし、笑わせたいし、キミを傷付けるものから僕が守ってあげたいと、強く思ったんだ。
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