第20話 四天王

 川姫が姿を消したすぐ後に自治会室に四人の大学生が入ってきた。

 男女二人づつで皆が土御門家の者だ。

 現在は大学部に籍を置いているがすでに若手の陰陽師としてその手腕を発揮している。

 如月と同じく祈祷、祓い、占術に精通し、土御門の次世代である。

「如月様、あの大きな妖気の正体はおわかりになりましたの?」

 ファッション誌に載っていそうなゴスロリの姿で口を開いたのは、土御門薔薇子。

 大学一年生だが卜い界ではカリスマ性を発揮し、薔薇子の卜いの館というネットサイトを運営している超売れっ子だ。テレビやラジオにも出演し的中率はほぼ100%という信じられないほどの先見の能力だった。その為、予約は三年先までびっしりだ。

 自らの仕事が忙しく、土御門本家の行事にはあまり関心がない。

「川姫ごときではとうてい太刀打ち出来ないんじゃない?」

 と言ったのは土御門弓弦、二年生で青年部の陰陽師の中では如月に次いで実力者だ。

 テレビアイドルのようなビジュアルだがその甘い容姿とは逆に計算高く立ち回るのが上手だ。自分の為だけにしか霊能力を使いたくなく、弓弦を動かすときは如月でさえ金をちらつかせる。

「土御門でもないのにあの霊能力は素晴らしいですね。ぜひスカウトしましょう」

 黒髪美人は土御門桔梗、二年生で如月の秘書的な立場をしている。

 気まぐれで我儘な如月に心酔しており、片腕を自負している。

 如月に次いで本家に近い血を持っているが、霊能力の修行よりも如月の世話をやくほうが忙しい。

「でも人間かどうか分からないんじゃないかな? あれだけの妖気だ。鬼族かも」

 土御門尊 三年生で陰陽師としての能力は定評があるが、能力自体はそこそこだ。

 だが燃費よく使うのが得意で持ち術の数は群を抜いている。

 研究熱心で自らが編み出した技も持つ。一番実践に向いており、戦いは霊能力の高さではないという持論を持っている。黒髪に黒眼鏡で理知的な顔立ちをしている。

「鬼ならもちろんスカウトするさ。僕の式神にね」

 と如月が微笑んで答えた。

「あ、いいなー。僕も式神欲しいなー」

 と弓弦が言った。

「式神が欲しければいくらでのも庭で遊んでるだろう。そいつらを使役すればいい」

 と如月が言ったが弓弦は唇を尖らせて、

「僕が欲しいのは十二神! それ以外の式神を飼うなんて能力の無駄!」

 と言った。

「そうですわよねぇ、私も使役するなら十二神がいいわぁ。上手に可愛い女の子に化けられる変化の上手なのがいいわぁ」

 と薔薇子も言った。

「如月様だってそうでしょ? 金の鬼計画はうまくいってるのかしら?」

「まずまずだな」

 と如月は満足げに笑った。

「楽しみですわね~如月様」

 ふふふと笑う薔薇子に如月はうなずいた。

「如月様、俺は式神はいらないから、土御門桜子を付き人に貰えませんか」

 と尊が言った。

「あっらぁ、どういう事? 尊先輩ったらまさか桜子がお気に入り? あんな能力ゼロの族外の子、まあ、お顔は綺麗だけれどね」

 と薔薇子が言った。

 尊はすました顔していたが内心では汗をかいていた。

 自分の焦りを悟られまいと自分の不利をさらけ出すように、

「あのなぁ、皆も知っての通り、俺は少しばかり持って生まれた霊能力値が低い。この先の修行で伸ばすつもりはあるが無駄な消費は避けたい。式神を使役するという事は自分の霊能力で奴らを養わなくちゃならないって事だ。俺には皆のように無駄に使える能力がないんでね。式神はいらない。だが雑用をする者は必要だ。下の者を手元に置いて使うとなるとまた手ほどきをして能力を伸ばす教育をしてやるという余計な手間がかかる。桜子ならタダで仕えて、従順。帰る家もないしね。どうだろうか」

 と言った。

「いいところに目をつけたね、尊先輩、タダで使えるっていうのがいいなぁ」

 と弓弦が言った。

 桔梗は何も言わなかった。いつでも如月の意見だけが桔梗の意見だったからだ。

 薔薇子は茶化すようにふふふと笑ったが特に異を唱えなかったので如月はうなずいた。

「いいよ。尊の好きにするがいい」

「ありがとうございます。これで自分で雑用をしなくて済む。知っての通り、僕は術の研究をしているからね。調べる文献によってはいつも徹夜さ」

 尊はほっとしたのを表に出ないように少しだけ笑った。

「確かに尊の術の研究はこれからもぜひ続けて欲しいからね。魂抜きの術など見事な復元だったよ。年寄りどもは門外不出だの禁忌だので、古びた術を後生大事にするだけで実践しようとしない。蔵の中で何百年もしまい込まれたままの術をもっともっと復元してくれ。僕たちはそれを使って未だかつてない土御門の王国を作ろうじゃないか」

 如月の機嫌が良さそうなので、尊はほっとした。

 魂抜きの術がよほど気に召したのだろう。

 金の鬼に貢ぐ為の人間の魂を集めなければならないが、難しい危険な術で先祖代々封印されていたのを尊が復元したのだ。

 如月が幼い頃からの宿願、土御門の当主になり十二神を使役するという願い。

 かなわぬまま年月だけが過ぎていたが、尊の研究でそれも可能になった。

 一の位の金の鬼さえ手に入れれば、後の十一神は第一位の鬼に従うはずだ。

 その為には人間の魂が千個は必要だった。

 土御門本家に見つからないように秘密裏に事を進めてきているのでどうしても進行は遅れがちだ。病気、事故などで年間死亡数が百万人近くいるが人工的にその魂を手に入れるのは不可能である。そうなれば生きた人間から抜き取るしかない。

 如月は躊躇もせずに、それを命じた。

 そして尊は術の復元に成功し、他者を犠牲にするということに関して薔薇子も桔梗も弓弦も反対を唱えることはなかった。

 千個の魂が集まれば次に金の鬼を召還する儀式だった。

 尊は今、それを研究している。そしてそれには桜子が必要だった。

「じゃあ、俺はこれで。少しでも研究を進めたいので」

 と言って尊は自治会室を出て行った。

「まだまだ魂が足りない。研究は尊に任せて僕たちはもっと魂抜きを行わなければならない。薔薇子、弓弦、そっちの方はどうだ?」

 と如月が言うと、薔薇子はうふふと笑った。

「順調ですわ。いくらでも人材はおりますもの。薔薇子のサイトには毎日毎日、たくさんの希望者が訪れますのよ。憎い相手の魂をどうぞ抜いてください、薔薇子様ってね」

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