第2話

 「ごはんよー!!」


 母の声が広い家の中に轟く。一瞬の間を置いて遠くから子供の「はーい」という甲高い返事が返ってきた。



 可愛い・・・。



 うふ、と母は一瞬微笑んだ。しかし子からの返事はあれど、母の顔色はよろしくない。今夜の夕飯のメニューは『人鍋』なのだ。家族全員が揃わないと鍋は始められない。具材を入れたなら、食べ始めから食べ終わりまで家族全員で食事を堪能することこそが鍋の醍醐味であると母は考えている。



 そして人鍋は夫が鍋奉行となり、進行役を司るように具をタイミングよく入れ、食べ時を見計らって妻と子に取り分ける。その颯爽と鍋奉行をしている夫の姿を通じて、普段はだらしないが、父はなんやかんやで頼もしい大事な家長なのだということを子に伝えたかった。



 鍋も食べたいし家族の絆も強くしたい。妻の憧れ、母の意地。滾る鍋に女はいくつもの願望を託すのであった。



 無反応な鍋奉行に苛立ちながらもう一度母は声を張り上げて叫んだ。


 「あなたー!ご!は!ん!」

 

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