第3話曇天の空の下で輝く星は見えないけれど
窓の外に目をやる。
空は大きな雲に席巻され、為すすべなく敗北。
雨は時間と共にどんどん足音を大きくし、今や巨大勢力。
雲は雨と同盟を結び人海戦術でこの空を制覇するつもりらしい。
雨というのは独特の香りがある。
あの匂いを嗅ぐと気分が億劫になる。
それと同時に不安が襲い、体を蝕む。
アスファルトを削り、家屋の腐食を増進させる。
だが、草木を癒し、池や川の水を増やす。
日本の干ばつを防ぎ、動物の喉をも潤す。
良い面もあり、悪い面もある。
しかし多くの人は雨の悪い部分しか見ない。
見ないというか見えない。それだけ生活が慌ただしく余裕がないから。
見えないなら見なくていい。
余裕があるやつが見ればいい。
そうやって世界は回っている。
少しばかり他人任せでもいいじゃないか。
適材適所という言葉がある。
宇宙の謎も、未確認生物も、未確認飛行物体も暇な奴が解き明かせばいい。
「なぁに?青春症候群?吸えば若返るかしら?ってこれ以上魅力的になってもねぇ?」
顔を近づけ、まるで僕を加湿器かのように手で僕の青春精霊を扇ぎ吸引する。
憤慨を通り越し、もはや情けなくなる。
「若返る?」
「若返らねぇよ。」
お前が今より若くなったら存在自体消滅するんじゃね?
肌ツヤぴちぴちうるうるで、髪も艶やかで滑らか。
てか、歳いくつだ?
見た目は・・・・明らかに幼い。
欲情に身を任せ、ワァーカワイイーと彼女に抱き着くものならそれは犯罪。
こんなロリ・・・・痛っ!
「なにをする。」
骨が浮き彫りにもなっていないような未熟な手(グレイマン)から、想像もつかない強い力が俺の脇腹を突く。
もちろん効果音はデュクシ!
それは万国共通らしい。あっ万星か?
「なんか不本意な事考えなかった?」
意外にもこのうちゅうじん(仮)にはテレパシー機能が備わっているらしい。
古風な民家に合わないそのスタイルは虚仮脅しではないようだ。
亜流ではなく我流。
まぁそれもそうか。
こんなのの師匠的なのがいたら世も末。
地球はまだしもこの田舎は間違いなく侵略されている。
閑話休題。
僕の若さ成分を抽出してるらしい精霊を吸いに吸ったおねえさん・・・・あれ?省略してたのに?強い引力的な何かに省略を規制されている。
何度クリックしても大きなブザーが鳴り、謎の英語の文字がずらずらと。
無駄に恐怖を煽る。
素人は阿鼻叫喚し、ポチポチ適当に画面を押してしまう。
そして情報が電脳世界に喧伝され、瞬く間に請求が・・・・。
甘い。甘すぎる。
そういう時こそニヒルに。
読めない英語をさも読めるかのように。自宅を英検会場のような雰囲気にする。
あれ?これって某無料サイトの闇?
ついに僕の煩悩まで侵略されたのか?
や、やめてくれー。
「あのーホントやめてください。」
「やぁーん。つれないわね。」
おね・・・・さんは僕の若さの源らしい精霊を吸い込んだ後、風呂を沸かしに行った。
そしてその風呂にあのうちゅうじんが入り、今に至る。
今どういう状況か?
僕の背中に2つの大きな宇宙が・・・・じゃなくて出会い頭からうざったいこの家の家主がへばりついている。
へ?うらやましい?鼻の下が伸びてるだと?
ふざけんな!
今この瞬間、何か大事な物がどんどんすり減ってる気がするんだぞ。
川の流れに削られる石のように、気づかないうちに丸められて。
それで新しい道がどんどん開拓されていく。
あぁ怖い。アダルト(大人)は怖いよぉー。
ふんっと鼻息を大げさに吹き離れる。
ラブコメのツンデレヒロインみたいな行動を素でやるなぁ・・・・。
「げへっ。」
このバ・・わざとだな。
僕の純情をもてあそびやがって。
こっちが大人にならないと喰われる。
修験者の如く諸手を重ね、滝にうたれることがここでの生活には必須なのかもしれない。
「そんなことする必要ないわよ。」
相好を軽く崩し、頬をほころばせながら言う。
大人という2文字とダンデムしている。
効果音をつけるならクスッ。おねさんの心の中はげへぇだろうか。
五感を超越した第六感を駆使し、心の中の言葉に返答された。
大人やべぇー。いや、この人が超人なだけ?
超能力をかける側の人間だったという事か。
なぁんだ。選ばれた側の人間か。
ゴホン。なんだろこの気持ち。
静寂に包まれた、でも僕には慣れないこの場所が静寂に包まれることは無く、ドクドクと心臓が働く音、換気扇が回る音、生唾を飲む音に苛まれ、喧騒に包まれる。
そんな自分を悟られぬよう頭をぐるぐる動かし、色々なことを考えた。
そのせいか、田舎の土地というか高度によってか耳鳴りが体を蝕む。
雨の音の残滓が何かに追われていると意識させ、生活感のあるシャワーの音さえ体を震わせる。
もちろん杞憂だというのは分かっている。
「安心していいのよ。」
背中をさすられる。
その手は妙に温かみを持っていて、どこか懐かしい。
骨ばった手にちょうどいい肉づき。
それが心を癒し、安心感を与える。
ありがとうございますと感謝を伝えるべく息を吸い込む。
「やっぱりいい背中ねぇー。筋肉の繊維を感じるわぁ。」
じゅるりと涎を拭く仕草。
この民家でおねさんはヒエラルキーの頂点。
この世は弱肉強食。抗うべきは自分より弱い敵。逃げるは自分より強い敵。
好きなことは打ち込み、苦手な物からは尻尾をまく。
「僕の戦意も、今ので少し上がったおねさんの好感度も僕から完全に失われました。」
ここがサバンナならおねさんに腹を見せている。
しかしここは民家。そんな事すれば皆さんにお見せできないようなことになりかねない。
というわけで省略。
「さっきからおねさんおねさんって壁を感じるわ。他の呼び方希望しますっ!」
ビシッと手を上げ発言する。
あぁそうですか。僕の上手い言い回しは無視ですか。
虫は殺虫スプレーで完膚なきまでに・・・・ゴホン。
「じゃあ・・・・『え』を省略してるから・・・・Aさん!良いじゃないですか!未知感が出て。」
「もぉう。分かるわよ。好きな娘にはいたずらしちゃいたくなるものね。でぇもぉー未知は間に合ってるわ。」
ツンツンとわき腹を突いてくる。
距離感がカップル。実際は初めて会った親戚。
距離と関係が比例しない。
「僕は好きな人に尽くすタイプです。」
「ふぅぅん。でもそういう人ってすぐ飽きられるわよ。・・・・・・・・なんてね。」
おねさんは遠くを見る。
その先にあるのはこれからどうなるか分からない未来か、それともどうにもならない過去か。
それは僕には分からない。
人の心は宇宙と同等、いやそれ以上に複雑で、見えるようで見えない。
ぐるぐると渦を巻き、複雑に絡まる毛糸の様に解くことも容易ではなく、力任せに切り刻めば取り返しのつかないことになる。
「・・・・なぁぁに冗談よミッキー。あれ?これってまずい?うぅぅぅん。しぃぃらなぁい。」
数分前は優しく背中をさすってくれたその手が、今やバンバンと背中を叩くマッドネスな凶器と変貌する。
それと同時に溢れる自嘲めいた笑い声に僕は苦笑を浮かべるしかできなかった。
これが大人。そして子供。
何か裏を含めて話す。その裏を理解できず、でも理解してる風を演じる。
それは降りしきる大粒の雨ですら削り取る事の出来ない距離。
埋めてしまってはいけない距離。
「まぁ、今は蠱惑的で、大胆で、ナイスバデーな女の子で十分よぉぉぉ。」
「さいですか。」
おねさんは歩き始める。
今は家の中を。
これからは知らない。
「分からないことだらけで大変ね。」
おねさんがつぶやく。
でも僕の耳には届かない。
いや、曇天の空にうずくまって聞こえないふりをしたのかもしれない。
未知は未知のままに。
それが僕のポリシー。
・・・・今日は星見えないだろうなぁ。
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