第2話未確認飛行物体の免許発行が必・・・・須?

 死ぬほど揺れる。

 舗装されていない道路は車体を上下左右に揺らし、僕の五臓六腑は体内ミキサーにかけられる。

 ぐわぁぁん。ぐちゃぐちゃ。もぐもぐ。

 やはり三半規管は鍛えるべきだったか。

 あれって鍛えられるの?

 知らなーい。

 瞼を閉じる。視界を暗黒に、しかしそれ以外の感性が研ぎ澄まされる。 

 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ・・・・・。

 おにぎりの塩の香りと米の微かな甘み。

 海苔の風味が近くに海があるのでは?と錯覚させる。

 あるのは雑草と半うちゅうじんと新聞紙を内側に詰めたポリ袋。

 いつもなら大好きな辛子明太子の独特な生臭みが、毒々しい生臭みに変わる。

 これだから田舎は。

 滞在期間1日にも見たない間に早くも辟易する。

 まぁ舗装されていても頭グワングワンするんですけどね。

 ただの八つ当たり。

 瞼を開ける。瞼の上に変な線が入り、それを上書き。

 思い切り瞼をこする。

 視界にモヤがかかる。

 その現象にクラっとする。

 催眠術にかかったような。才能あるのかも。

 かけるほうじゃないよ。バラエティー的にもそっちの需要高いでしょ。

 視線を窓の外に向ける。

 見える世界が目まぐるしく変わる・・・・と言いたい所だったけど全然変わらない。

 同じところを連写した写真を何枚もスクロールしてみる様な。

 もし色だけで表すなら緑。

 それと茶色。

 僕の口からも同じ色の吐しゃ物が出そうなんだけど。

 なんたって今日の朝ごはんはほうれん草カレー。

 昨日の残り物。そして僕も恋の流れに取り残された残り物。

 カレーは2日目がおいしい。コクも深みも野菜の甘みも出る。

 僕から出るのは哀愁。

 この世は愁嘆場。

 でもそれもこの日を境に変化する。

 闇と光が対極であるように、僕の恋はこれからホーリーロードを歩む・・・・だろう。

 ゴホン。咳払い。

 気分が落ち着いてきた。

 体験入部を続けよう。

 その前にこの不本意な現実を解決する。

 「おふくろの味はどうだ?」

 窓の外を眺めながら、唯一無二の半うちゅうじん基半グレイマンにチャネリング。

 どうやらこのバスに乗るためにあのバス停にいたらしい。

 まぁそれもそうか。

 てっきりうちゅうじんは自分の未確認飛行物体くらい持っているもんだと思っていたよ。

 あぁ免許ないのか。それは残念。

 「もぐ。まぁまぁ。もぐもぐ。できれば中身はもぐ。チュパカブラのから揚げとかもぐもぐ・・・・。」

 おかあさぁぁぁん。こいつ贅沢言ってるよー。

 えっ?可愛いからいい?この世は外見至上主義ですか?

 食べるか喋るかどっちかにしろよ。そんな言葉を嚥下する。

 今はそれでお腹いっぱい。

 小さい口で成長期の男のおにぎりを遮二無二にほおばる。

 そのしぐさに思わずグッとくる。

 ・・・・なんか萎えた。こいつにこんな感情・・・・すぐにでも上書きしたい。

 ごっくんと喉を通る音が聞こえる。

 「ぷはぁぁぁ。うまうま。」

 その割と大きな声は僕たち以外に運転手しかいないバスの中に響き渡る。

 隣で聞いていた僕の耳に言霊の残滓が残像のように反響する。

 静寂に包まれていたバスがその瞬間だけ喧騒に包まれた。

 それはこの世のすべての食材に感謝をこめて以下略の彼女なりのやり方なのだろうか。

 僕の口角が少し上がった。

 「お外、何かある?」

 「ナンニモナイ。」




 3度目の停車。

 タイヤとコンクリートが摩擦によってスピードを減速させる。

 開けた窓からゴムの焼ける匂いがほのかに香る。

 流石に慣れた。

 なんたって3回目。

 リアクション芸人ならここらで大声は封印される。

 芸人の道は厳しいものだ。

 ちなみにここが今日の目的地。というかこれからの?

 ありがとうございました、と会釈混じりにボソッと呟きお金を払う。

 ガーガーとお金を取り込む機械。

 ついでに心の中で願う。

 新生活に幸あれ。

 なんか賽銭箱っぽかったから。

 急な階段を降り、少し先の民家を目指す。トテトテ。

 閑話休題。オットット。

 さっきから新生活をほのめかしている件についての説明が不足している。テクテク。

 分かっている。だから語らしてください。テクテク。

 家に着くまで。トテトテ。


 

 

 「あんた結局どうするの?」

 冬の凍てつく寒さが我が家の隙間を氷柱の様に貫く。

 体の末端からどんどん侵略活動を始める。

 脳から指先の神経に至るまでに時差があるような。

 無意識にはぁと指先に息を吹きかける。

 母はもはや節約を通り越して文明に取り残された原始人のような神経の図太さ。

 この家は暖房という文明の利器を知らない。

 受験生の僕にとってはクライシスそのもの。

 おっと勉強の成果がこんなところに。

 母のうざったいまでの耳に響く高い声に答えるかのようにとりあえず咳払い。

 あっどうも高校受験を控えた僕こと渡辺幹人です。

 名前を名乗ったのは初めてのような・・・・。どうでもいいっすよね。

 季節は冬。受験まで残り数ヶ月となったこの時期。

 そろそろ受験校を決めなければと焦る。

 「どうするって・・・・分かんねぇよ。」

 未知への挑戦という事もあり焦燥感と睡眠不足により茹だる体に苛立ちを隠せず、語気が少し強くなる。

 高校進学を渇望しているわけではない。むしろ行かなくていいなら行きたくないというのが本音。

 別にいじめられてるとかじゃないよ。

 ただ世の中そうはいかない。

 それに高校に行かなかった未来を想像すると・・・・強い畏怖を感じる。

 「私たちに付いてくるか、ここに残って1人暮らしするか、それとも田舎に行くか。せめてそれくらい決めないと。」

 分かっている。

 ただ選択肢が多すぎる。

 1度頭をビックバン・・・・そんなことしたら今日までの勉強がパァになる。

 思考を宇宙規模に広げる。

 父は僕の高校進学と共に転勤。母はそれについていくことが決まっていた。

 転勤場所はここよりさらに都会。

 それはキツイ。

 だって肩とか当たりそうな時避けてくれないんでしょ?

 今の季節くらい冷たいじゃん。

 そんなところで友達作り・・・・それが出来るならうちゅうじんと交信できるよ。

 そんなところでユニバァァス!できる気がしない。

 からついていくのは却下。

 天の川に流す。

 なら1人暮らし?

 地元の高校に行って、彼女が出来て、家に連れ込んで・・・・グヘヘ。

 やべぇ!毎日がピンク色じゃねぇか。

 暗がりの部屋に月くらいの光を灯す。 

 初めてのことだ、呼吸は少し荒くなるが時間の速さは変わらない。

 静寂に包まれた部屋にチクタクチクタクと秒針が動く音が響く。

 そんな緊張を鷹揚のある笑顔で誤魔化す。

 応用編は知らない。初級編で勝負を決めるつもり。

 ・・・・てか自炊できねぇや。

 毎日外食・・・・は無理だし、コンビニ弁当だけでは成長期の体に毒だろう。

 それに彼女って都市伝説だろ?

 だって僕出来たことないもん。

 そんな、今から空を飛べと言われるくらい無謀な夢を叶えるために健康を犠牲にはできない。

 というわけで残念ながら却下。

 となると・・・・田舎?

 田舎かぁぁぁ。

 あるのは澄んだ空、おいしい(無味)空気、満天の星空だろぉ?

 都会から離れ、空と星空を見て、空気を味わう。

 エッチな服を着た女性を見て、流行りの飯を味わう方がよくね?

 目測では測れないような、スぺリチュアルなものに感動しないし、そんなもの栓無いものと手の甲で羽虫の如くはらってしまうからなぁ。

 今という電脳世界に侵略された世界に生きる僕にはねぇー。

 でもまぁ消去法で考えるとなぁ。

 それに・・・・・・・・。





 「ここか・・・・。」

 歩くこと15分。ようやく家に着いた。

 5分ほど歩けば周りに家が散見され、なんだか落ち着いた。

 もうホームシックかよ!ママの以下略。

 僕の口唇期はとうの昔にすぎていった。

 あっ。ママのじゃなかったら大歓迎だよ。

 母乳は出ずとも僕からあふれるアドレナリン。

 性の奔流に流されてドンブラコ。

 おばぁちゃぁぁぁん!鼻血出て来たぁぁ!

 メイぢゃぁぁぁん!

 いろいろ混ざってしまった。

 閑話休題。

 田舎というだけあって散見される家はどれも大きく、これからお世話になるこの家も例外ではない。

 瓦張りの大きな屋根はまるで龍の鱗の様で、圧倒的な存在感がある。

 敷地は石の壁で囲われ、シティーボーイの僕にはどこか威圧的。

 歓迎されている気がしない。

 足取りがさらに重くなる。

 何かすごい引力に引き込まれるように。

 それは動物的危機感とでもいうのだろうか。

 神のお告げが聞こえるように半歩下がる。

 「痛いっ!」

 「あっ。すいません。」

 反射的に謝る。

 わぁぁこれこそが日本人の美徳ってやつだよねぇー。

 相手の顔を確認する。

 これからご近所さんになる方かもしれない。

 声の質的に若い人?女性っぽかったような・・・・。

 「入らないの?」

 曇天の空に舞い降りた未確認生物というのが惹句な生物。

 空の色とシンメトリーな全身。

 本物は軟体なのだろうか。本物がいたら確認したい?いやぁー別に。

 遠い遠い過去の既視感ではなく、数時間前の既視感に苛まれ、頭痛が痛くなる。

 あぁ。日本語もまともに話せない。

 社会不適合者光線に侵されたのか。

 ・・・・まぁ分かってたんですけどね。

 テクテク、トコトコついてきてたし。

 なんなら途中で足音聞こえなくなった時、何度か振り返ってるからね。

 初めに振り返った時にはもう仮面を被っていた。

 顔出して歩けばどっかの芸能事務所がこぞってチャネリングを計ろうとしてくるのに。

 なら防衛本能?それにしては私情が大いに占めていそうな。

 ガラガラ。ピシャ!ドンドン。

 「グレイちゃん!侵略出来た?」

 引き戸が開く。

 僕の眼も大きく開く。

 そのままの状態なら未来まで見えそうなほど。

 硬直していた瞼の皮膚が伸びきり、皮膚に微かな痛みが走る。

 それはまるで静電気が流れるくらいの痛み。

 これから起こるややこ面倒な事の予兆の様な。

 「侵略は出来なかった?でも、キャット?ニューット?デローンしてきたよ?」

 さっきまでとはうって変わり大きな声で話す。

 しかし残念なことに声がこもって聞き取れない。

 慣れないことはするもんじゃありません。

 ほらぁ。むせてるじゃないか、グレイマン。

 やっぱり地球の空気は合わないんですよ。

 さぁ、帰った帰った。どこに?

 「侵略出来なかったんだぁぁ。残念無念また来年ね。」

 ほらぁ。案の定最後のわけわからないの聞き取れてないじゃん。

 てか、このおねえさ・・・・んじゃないな。残念無念以下略は僕の親の持ちネタ。

 世代がわかる。

 「でもね・・・・」

 グレイマンの交信は天候によって遮られる。

 「あらっ。雨降ってきたわね。さぁ家に入りなさい。」

 ドンドンと玄関まで戻る、おねさん。

 略した。何を?は無粋だ。なんか呼び方考えないと。

 おねさんの手招きに応じ、グレイマンはトテトテと慣れた様子で招かれる。

 「ほら。同胞君も。」

 ドウホウジャネェヨ!コノクソババア。




 「お邪魔しまぁす。」

 「おいおい。そりゃあ違うでぇい!」

 「でぇい。でぇい?」

 意味わからないなら復唱するな、馬鹿うちゅうじん。

 まぁお約束だわな。他人行儀なのもよくない。

 ゴホン。照れ隠し。

 「・・・・ただいま。」

 おねさんの狐の様な目が垂れる。

 歓迎・・・・はされているようだ。

 その褐色の髪は長年しっかり地面を踏んだ証と言わんばかりで、その土が反射したような。 

 悪い意味ではない。それくらいまともで芯の強い大人であることがうかがえる。

 華奢な体躯はまぁ努力の証?なんだろう。

 玄関の奥にバランスボールが見える。

 オンナノコ?って大変だねー。

 そんなことよりも。なによりも僕の目を惹いたのは鎖骨とへその間にある2つのバランスボールだった。

 玄関の奥にあるのは水色。

 それはあのうちゅうじんの瞳のようで1つの惑星のようだった。

 だが僕の目は15年という歳月をかけ、慧眼へと昇華している。

 幻術だって使える・・・・かも?

 妄想は出来る。なんなら得意分野。

 ゴホン。落ち着け。

 球体を見て狂喜乱舞するのは中学生まで。

 高校生は明鏡止水。

 だが体にへばりつく2つの球体には抗えない。

 未知の引力に慧眼が惹きつけられる。

 うちゅうじんが地球という球体に惹かれるように、グレイマンがおにぎりに惹かれるように、男というのは女の子の球体に惹かれる。

 おねさんの、首元が少しよれっとしたスウェットに猥雑な期待を寄せる。

 ま、待て。相手はお・さんだぞ。

 「きゃあきゃあ!グレイちゃん。あなたが連れて来たのはどうやら狼のようね。まぁ。私に欲情するのは世の常。とりあえず姉ちゃんに電話しなきゃ。」

 ドタドタと木目調の廊下を蹴り上げる。

 外の雨音が大きくなる。

 おねさんの足音とリンクし、奇妙なリズムを奏でた。

 そのリズムは世界の終わりを告げ、入居1日たたず青息吐息。

 「狼なの?」

 「ソンナワケナイダロ。」

 そんなに震えなくともお前みたいなわけわからん生物喰わねぇよ。

 狼は狼でも飢えてはいない。

 選り好みくらいはする。

 パイオツはカイデーの方が良い。

 いや、でもこいつ顔は・・・・。

 「た、助けてぇーー!」

 ゴホン。はぁ~。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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