第1026話 古の迷い人
ゼティアの門から現れた第六陣。
「おいおい、止まらねえな……」
「五陣からは一度ごとに流入が止まって、態勢の立て直しをできるのが救いか」
魔物の行列は後方にいくにつれて大型になり、明らかな大物が二体登場。そして。
「あれが、第六陣の最後尾ですか」
「む、私たちと変わらぬ人型か!」
「……大型の後に出てくると、そのコンパクトさが一転強者に見える」
現れた大ボスの体躯は、2メートルに届かないほど。
酸化して白くなった黄金と、濃灰色のツートンカラーで造られた鎧には、遺跡のものを思わせる紋様。
そんな鎧の内側に黒い『影』が貼りついている、もしくは『棲んで』いる感じだ。
「よく見ると、足元に大きな『溜まり』ができてるわね」
第六陣の大ボスは、『古の迷い人』
その足もとには、丸い影が色濃く溜まりを作っていた。
「さあ、来るなら来い! 聖騎士アルトリッテが相手だ!」
そう言ってアルトリッテが【エクスカリバー】を向けると、古の迷い人はこちらに視線を向けた。
そして、早い移動での接近を開始する。
走りに合わせて、足元の『溜まり』も同時に移動する。
「ハッ」
発された感情のない声と共に、高く跳躍。
見れば足元の溜まりから出た一本の影の糸に、しっかりとつながっている。
古の迷い人は、手に生み出した影の剣を豪快に振り下ろす。
「【フルスヰング】」
「なっ!?」
派手なエフェクトと共に迫る剛剣を、アルトリッテは下がって回避。
すると激しい衝撃波と共に、高々と砂煙が舞い上がった。
「【フルスヰング】」
踏み込みから放つのは、払いの一撃。
髪を大きく揺らすほどの衝撃と共に迫る剣を、アルトリッテはさらに飛び下がってかわすことに成功。
すると古の迷い人は剣を掲げ、その場で振り下ろす。
「【暗宵剱】」
生まれた三日月形の、大型空刃が迫る。
思った以上の速度と、エフェクトから感じる火力。
アルトリッテがこれを、大きな横っ飛びで回避すると――。
「【紫電壱閃】」
「っ!!」
飛来する剣撃をかわしたところを、高速の斬り抜けで追いかけてくる。
「っ!! 【セイントシールド】!」
その凄まじい速度に、アルトリッテは金色の盾をしっかり合わせてスキル発動。
古の迷い人の剣を、しっかりと弾いた。
二者の間に、生まれる空間。
先手を打ったのは、アルトリッテだ。
「【ホーリーロール】」
【エクスカリバー】を手に放つ、豪快な回転撃。
聖なる光の横なぎを、古の迷い人は大きな後方への跳躍でかわす。
「【ペガサス】!」
アルトリッテは【天馬靴】から生える光の翼で、地上を滑るような動きで進んで追撃。
「はああああ――――っ!!」
同じく跳躍からの、斬り下ろしで迫る。
これをサイドステップでかわされ、続けた払いの一撃を避けられたところで、今度は左手を伸ばす。
「【ホーリーライト】!」
掲げた手、足元から聖なる光の柱が突き上がる。
これに古の迷い人が弾かれ体勢を崩したところで、マリーカが追撃に入った。
「……【霊鳥】」
魔力で形作られた、一羽の鳥が突撃。
爆散し、弾かれ転がった古の迷い人のもとに、すでにアルトリッテは詰めていた。
「もう一度だ! 【ホーリーロール】!」
「【シルトパリヰ】」
「なっ!?」
その左手に現れた【影盾】は、回転撃を弾き返した。
「盾の弾きも使うのか!」
「【投擲】!」
これに反応したのはツバメ。
早い【風ブレード】の投擲で起こした烈風が、反撃に動こうとしていた古の迷い人を足止めする。
「助かったぞツバメ!」
この隙にアルトリッテは距離を取り、一つ息をつく。
「メイに近いかもしれないわね。シンプルに強くて、おそらくそこに変わり種も入れてくる」
「あ、足元の溜まりが怖いですね……」
まもりがそう言うと、古の迷い人はまるでその言葉に応えるかのように、その手を掲げた。
「【虚影街】」
大きな黒の『溜まり』が、一気に半径100メートルを超える大きなものとなる。
直後に影が生み出したのは、遺跡都市に似た外観の漆黒の街並み。
「うわわっ! 何これー!?」
遺跡の街を斬り抜いたかのような町並みの中に、紛れる古の迷い人。
レンが建物に触れると、それはただ硬いだけの謎素材。
硬化したスライムのような感触だ。
「だが、どうしてこんなマネを?」
そう、アルトリッテがつぶやいた瞬間。
「【フルスヰング】」
「なっ!?」
突然建物の一つが粉々に砕けて、その破片が豪速で飛び散った。
「くっ」
急な事態に対応できず、アルトリッテやツバメがダメージを受ける。さらに。
古の迷い人は、黒の建物を足場にして高く跳躍。
建物が視界を遮れば、当然跳躍した瞬間を見られない者も出てくる。
その一人が、メイだった。
「っ!?」
それでも気がついたのは、常に視野を広く確保するクセがジャングルで付いていたから。
「【ルー】」
空中から投じた闇の槍は、稲妻となって敵を襲う灼熱の槍。
メイはしっかりと直撃を避けて回避を決めるが、恐ろしい速度で突き刺さった【ルー】は熱線を散らして炸裂。
「うわああああーっ!」
二段階攻撃でメイを吹き飛ばし、黒建物の壁に叩きつけた。
「【斬龍剱】」
「みんな! 防御して――――っ!!」
「「「ッ!?」」」
腰を落とし、右足を前に出す。
その動きはツバメが、【斬鉄剣】を放つ際に見せる動き。
メイは嫌な予感に、思わず声をあげた。
直後、古の迷い人の手の剣が刀に変化。
駆け抜けた弧型の斬撃が、付近の建物を斜めに斬り落とす。
「「ッ!?」」
そして『範囲内』にいたアルトリッテとツバメを斬り裂いた。
予備動作すら建物で見られない、非道な一撃。
しかしツバメもアルトリッテも、『あのメイの叫び声が危機でないはずがない』と、考えるより先に防御を選択。
ダメージをしっかり軽減し、弾かれるにとどめた。
古の迷い人は、再びメイを狙って動き出す。
壁に叩きつけられたうえ、【斬龍剱】を防御したメイは対応に遅れる。
武器を剣に戻した古の迷い人は、すでに目前だ。
「【ハードコンタクト】!」
得意の衝撃波タックルで、黒の建物を吹き飛ばして飛び出してきたのはアルトリッテ。
メイの注意によって盾防御ができたため、復帰も早かった。
「【ホーリーロール】!」
すぐさま光の尾を引く回転斬りで攻撃。
「【ラピッドリーガード】」
すると古の迷い人は影の盾を展開し、これを防御。
「【連続魔法】【誘導弾】【フレアアロー】!」
「……【霊鳥鳳火】」
続くレンとマリーカの魔法攻撃も、その盾を『広げて』防御。さらに。
「【ストライクシールド】!」
まもりの盾投擲も弾く。
「【バンビステップ】からの【フルスイング】!」
そして駆け込んできたメイの一撃まで、流れるように受け止めてみせた。
「防御まで、この上手さなの……!?」
影の変化で武器の仕様を変え、さらに盾で行う堅い防御。
やはり、単純に敵としてレベルが高い。
正統派ゆえの強さは、予想以上だ。
「相手が人型なら……!」
ここで駆け出してきのは、ツバメだった。
「いきます! 【疾風迅雷】【加速】!」
突如始まった、一対一の戦い。
古の迷い人は、そのまま防御態勢を続ける。
「【ラピッドリーガード】」
「【加速】【加速】【加速】!」
ツバメは六芒星を描くような動きで、高速移動攻撃を仕掛ける。
基礎能力の高い古の迷い人は、手にした盾で冷静な対応を見せるが、【デッドライン】がそれを許さない。
「【加速】【加速】【加速】! 【加速】【加速】【加速】【加速】【加速】っ!」
防御を貫通しての斬撃が、次々にダメージを与えていく。
さらにツバメは移動の一歩目と着地の足を着くまで、【暗天のブーツ】で姿を消している。
そのため対応が遅れていき、ツバメが通り過ぎた後に振り向くという状況に。
通常攻撃とは思えない勢いで、HPが削り取られていく。しかし。
「【フルスヰング】」
ツバメの縦横無尽な攻勢を前に、古の迷い人はついに方針転換。
剣の振り払いを、強引に挟み込んできた。
付近を駆け回る攻撃を続けていたツバメを捉えるのには、最高の反撃だ。
「【スライディング】【反転】!」
人型である事のデメリットが、ここに出る。
あっさりと足元を滑り抜けたツバメは、反転して【加速】
そのまま短剣を突き刺しに行く。
「【シルトパリヰ】」
だがここで古の迷い人は、『防御』ではなく『弾き』に対応を変更。
あまりに見事な返しに、ツバメは驚く。
「【隠し腕】」
しかしようやく決まった弾きは、義腕が持つ【村雨】の一撃に消費され無意味なものとなる。
「【四連剣舞】」
ツバメは即座に四連の斬撃で、古の迷い人を斬り刻む。さらに。
「【誘導弾】【連続魔法】【フレアアロー】!」
レンが黒い建物の上から放った、炎の矢が直撃。
「【霊鳥鳳火】!」
最後は炎の巨鳥が突撃して、豪快な炎を巻き上げた。
「お、おそろしい攻撃です……」
ツバメの攻勢は、防御を許さぬ刃の嵐。
まもりでさえ、その全てを斬り裂く攻撃に息を飲んでしまう。
翻弄され切った古の迷い人は影の街を転がる。
そして体勢を立て直すのと同時に、反撃のスキルを使用。
「【虚影反転街】」
広がる黒の溜まりは地上だけでなく、空中にも円形の溜まりを生み出す。
そして天地が反転した、地上に向けて屋根を突き出す街が誕生した。
地上にも空中にも、街がある異常な状況。
「これは……!」
すぐにその後の流れを予想したツバメは、走りだす。
「【加速】!」
予想通り、落下を始める天の虚影街。
落ちてきた黒の建物が、地上の建物にぶつかり崩れ出す。
レンやマリーカが慌てて回避に回るが、間に合わない。
「きゃあっ!!」
落ちてきた民家に弾き飛ばされ、慌ててまもりが援護に駆け寄っていく。
「っ!」
次々に降り注ぐ影の建物を、ツバメは必死の回避。
目前に落下してきた影の教会を避けたところで、その陰から古の迷い人が飛び出してきた。
「【フルスヰング】」
肩をかすめる一撃を、どうにか飛び下がって回避する。
しかし続けて落下してきた馬小屋らしき建物に、弾かれ転がった。
「ああああっ!」
「【暗宵剱】」
飛来する三日月形の剣撃。
落ちてくる建物の隙間を低い弾道で飛来し、そのままツバメの太ももを斬っていく。
そこに落ちてくるのは、凱旋門を思わせる形状の建物。
「【ペガサス】!」
そこに飛び込んできたのはアルトリッテ。
勢いのままに剣を振り降ろし、凱旋門を斬り飛ばす。
そして着地と同時に距離を詰め、【ホーリーロール】で接近。
これをかわして、反撃に入ろうとする古の迷い人。
だがアルトリッテの動きはオトリ。
今まさに砕け散った民家の破片に隠れて、接近してきたメイに気づけない。
「ゴ、【ゴリラアーム】」
古の迷い人の腕をつかんで、そのまま三回転。
「それええええええ――――っ!!」
投じれば、虚影街を跳ねるようにして転がっていった古の迷い人は、そのまま『溜まり』の外へ。
すると古の迷い人の身体に引っ張られる形で、溜まりも移動。
影の街が、一瞬で消え去った。
「ありがとうございます! 【加速】!」
起き上がったツバメは、すぐさま追撃に走り出す。
その後姿を見て、メイも【バンビステップ】で続く。
「……なーにゃちゃん」
そして古の迷い人が転がっていく先に見えた、なーにゃの姿を見て思いつく。
「なーにゃちゃん! 【装備変更】【まやかし】っ!」
「メイさん……?」
そしてメイの【まやかし】による変身を見て、なーにゃが呼ばれた意味に気づく。
「そういうことですな! スワローちゃん!」
起き上がった古の迷い人は顔を上げ、悩む。
そこに見えたのはツバメに化けたメイ、ツバメを模して作られたスワロー、そしてツバメ本人という奇妙な陣形。
「それっ!」
初撃はメイツバメの振り降ろし。
【まやかし】による効果で、古の迷い人はギリギリまで『短剣』による攻撃だと思考。
そのため、動きがわずかに遅れた。
「【電光石火】!」
ギリギリでかわしたところに迫るツバメの斬り抜けに、早くも盾を持ち出し対応。
「【宙返り】【二連空閃】!」
しかしこの後、わずかな時間差で来たスワローの攻撃は頭上から。
相手を飛び越えながら放つ二連撃への防御は、初撃で生まれた『後手』のせいで遅れることになった。
肩口を斬られて、古の迷い人がのけ反る。
「【反転】【電光石火】!」
すぐさま背後から、行って戻る『ツバメ返し』が決まる。
「【フルスイング】!」
そして続くメイの全力の振り降ろしは、古の迷い人を高くバウンドさせた。
「いきます」
ツバメは武器を【村雨】に変更。
「スワローちゃん、武器を【政宗】に!」
するとなーにゃの指示に合わせてスワローも、短剣を長い一本の刀に持ち変えた。
「【水月】」
跳ね上がった古の迷い人に、ツバメの放つ水刃の刺突が直撃。さらに。
「【光刃】【串刺し】!」
武器に光をまとわせ、攻撃範囲を伸ばす【光刃】というスキル。
突き出した【政宗】が、そのまま敵を貫通する。
もちろんこれは、ツバメの【水月】を真似たもの。
小さくても、速くて高火力。
そんなツバメを出来るだけ模したいと、こだわり抜いたスキルが見事に決まった。
長い二つの刃に、クロスする形で刺された古の迷い人は、再び宙を舞う。
「す、すごいです……」
三人のツバメによる高速の崩しから、連携への流れは速く強力。
感嘆するまもり。
だが、宙を舞う古の迷い人に狙いを付けるマリーカに、メイたちはさらに驚愕することになる。
「……【効果延長】【妖精の実】」
一歩前へ、踏み出したマリーカ。
発動したスキルとアイテムが、その身体を変えていく。
「うそ……」
「ええええっ!? マリーカちゃんが……っ!」
「小さくなりました!?」
驚きの声を上げる、メイとツバメ。
一際背の高いマリーカが、【妖精の実】を使うことでツバメのように小柄になった。
「……【不死鳥昇華】」
放つ魔法は、地面からノータイムで垂直上昇する巨大なフェニックス。
古の迷い人をくわえたまま、天に向かって一直線。
強烈な輝きを放った直後、盛大な火の粉をまき散らして爆発した。
「まさか、小さくなるという目標の本当の狙いは……種族を変えてステータスをあげることっ!?」
吹き付ける猛烈な風と、舞い散る大量の火の粉。
驚愕するレンに、マリーカは魔女帽を抑えながら応える。
「……べつに、なにもかわらない」
「なんなのよ!」
「……ただ、かわいさはアップしたとおもう(とうしゃひ)」
そう言ってこれまでのマリーカからは、想像もできない可愛いらしいポーズを決める。
変わらぬ無表情がわずかに動き、がんばって作った薄い笑みが浮かんだ。
「おおーっ! マリーカちゃん可愛いーっ!」
「……がんばってよかった」
そんな小さな魔導士の姿に思わず目を輝かせ、ぴょんぴょん飛び跳ねるメイ。
その姿を見て、ちょっと照れるマリーカだった。
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