第1027話 奪い取れ

「なーにゃちゃん、ありがとーっ!」

「いえいえ。三人のツバメさん、最高でしたな!」

「【水月】の代替スキルには、驚きました」

「ふふふ、見つけるのに苦労しましたぞ!」

「ちょっとなーにゃ! 何やってんのー!」

「おっと、今行きますぞ!」


 なーにゃは手を振りながら、ローチェたちの元へ戻って行こうとして――。


「ふまっ!?」


 小さくなったマリーカに、驚愕の声をあげた。


「なんという可愛さ……っ! ツバメさんとスワロー、そして後衛にマリーカさんという並びも……」

「なーにゃー!」

「おっと、その件はまた後程ですな!」


 急ぎ足で駆けて行く、なーにゃとスワロー。

 一方なーにゃに「可愛い」と言われて、マリーカもご満悦。


「くるわよ!」


 古の迷い人は、ゆっくりと立ち上がった。

 そしてすぐさま、反撃の体勢に入る。


「【双躯】」

「「「ッ!!」」」


 まるで先ほどの意趣返しとばかりに、二体になった古の迷い人。

 早い移動で、走り出す。


「「【暗宵剱】」」


 同時に放つ、飛ぶ剣撃。


「メイ、一対一ではなく二対二のまま挑むというのはどうだ?」

「いいと思いますっ!」


 アルトリッテの誘いに、歓喜するメイ。

 二人は散開せず、飛来してきた剣撃をわずかな横移動で回避して、そのまま敵を迎え撃つ。


「【フルスヰング】」


 先行してきて踏み込んできた古の迷い人は、豪快な振り払いを放つ。


「よいしょっ!」


 派手なエフェクトの一撃を、バックステップ一つでかわしたメイのもとに、迫る二体目。


「【ホーリーロール】!」


 メイを追い抜く形で飛び出したアルトリッテが、回転撃で迎え撃つ。

 二体目が、迫る刃を急停止でかわすと――。


「【アクロバット】!」


 アルトリッテの頭を側方宙返りで飛び越えてきたメイが、そのまま剣を振りおろす。


「【フルスイング】!」


 これを影盾でとっさに防御した二体目は、大きく弾かれた。


「【紫電壱閃】」


 迫るのは、着地際のメイを狙った一体目の斬り抜け。


「【セイントシールド】!」


 これを前に出たアルトリッテが盾で受けると、一体目はそのまま後方へ抜けていく。

 見事な連携だが、結果として二体の古の迷い人に『挟まれる』形になった二人。

 メイが振り返り、アルトリッテと背中合わせになったところで――。


「【暗宵剱】」

「【暗宵剱】」


 聞こえた二つの声。


「メイ、横へ!」


 続けて聞こえた、アルトリッテの声。

『気づいた』メイはすぐさま振り返り、アルトリッテの肩をつかんで一緒にしゃがませる。


「っ!?」


 するとメイの側にいた古の迷い人が放った『横の剣撃』が、二人の頭上2センチのところを通り過ぎる。

 メイは即座にアルトリッテの脇に手を入れ立ち上がらせると、そのまま社交ダンスのように横へ一回転。

 二人の真横を、『縦の剣撃』が通り過ぎていく。


「敵の攻撃は、クロスする形だったのだな!」

「その通りですっ!」


 笑い合う二人。

 連続した剣撃は、メイが見た『横の斬撃』が先。

 続けてアルトリッテが見た『縦の斬撃』という流れだった。


「むはははは! アヴァロニアへ向かった時の海上戦を思い出すぞ!」


 笑うアルトリッテ。

 戦いは優劣なしの緊張下だが、二人はとにかく楽しそうだ。


「今度は、こっちの番!」


 メイは一歩足を引き、剣を構える。

 それを見たアルトリッテは、再びその場にしゃがみ込んだ。


「大きくなーれ! からの【フルスイング】!」


【蒼樹の白剣】を伸ばして、豪快に一回転。

 この攻撃に、古の迷い人はどちらも垂直跳躍を選択。


「ゆくぞ!」


 もちろん、跳ばしたなら落とすのみ。


「解放剣技! 【エクスクルセイド】!」


 大きく踏み出したアルトリッテは剣を掲げ、煌々と輝かせる。

 叩きつけられた黄金の輝きは聖なる光の刃となり、炸裂。

 分身体を、一撃で消し飛ばした。


「ないすーっ!」


 当然のようにハイタッチを決める二人。

 しかし古の迷い人は、すぐさま走り出す。


「……【霊鳥】」

「【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 後衛組のけん制を、綺麗な足の運びでかわして接近。


「【フルスヰング】」


 大きな剣の払いを、メイとアルトリッテはバックステップでかわす。

 するとさらに踏み込んで、返しの【フルスヰング】へ。

 これも続け様の後退で回避したところで、古の迷い人は影の剣を振り上げた。


「【大地烈斷撃】」


 手にした剣は『影の斧』のとなり、派手な弧のエフェクトを描いて振り下ろされる。

 しかしあくまで攻撃は、縦の線を描くもの。

 二人は問題なくこれをかわすが――。


「「ッ!?」」


 大きな斧はそのまま、『溜まりの地面』を大きく割った。

 崩れ落ちる足場に、慌てて左右に分かれて跳ぶ二人。

 しかしその直後、大きな揺れを起こした溜まりが、硬質なトゲのような黒飛沫を突き上げる。


「わあああ――っ!」

「ぬはあああーっ!」


 斬り飛ばされた二人は、そのまま地面を転がった。

 すぐさま追撃への対応に入る六人。

 しかし古の迷い人はその場にとどまったまま、その手に一本の結晶を手に取った。

 そのまま噛み砕くと、光を身にまとう。

【原始結晶】は、全ての使用スキル性能を高める異世界アイテムだ。

 ドン! という衝撃と共に駆け込んできた古の迷い人は、これまで同様『払い』の形で剣を振るう。


「【フルスヰング】」

「【セイントシールド】! ぬはあああーっ!?」


 これをしっかり受け止めたにも関わらず、アルトリッテはゴロゴロと後転。

 古の迷い人は止まることなく跳躍し、そのまま剣をアルトリッテに振り下ろす。


「【フルスヰング】」

「ぬっはあああーっ!」


 叩きつける一撃を、アルトリッテはどうにか転がってかわすが、吹き荒れる衝撃波に再び地を跳ね転がる。

 すぐさま追撃をかける、古の迷い人。


「……そうはさせない。霊鳥乱――」


 マリーカが杖を構え、今まさに魔法を放とうとしたところで、踏み出す強い一歩。


「【紫電壱閃】」

「……っ!?」


 雷光のごとき速さの斬り抜けは、なんと魔法を放つ前にマリーカの横を斬り抜けていった。


「【フレアストライク】!」

「【暗宵剱】」


 そしてレンの放った炎砲弾を、長さ5メートルを超える高速の斬撃を放って消し飛ばす。


「ッ!?」


 レンは炎砲弾を切り裂き飛来する斬撃を、飛び込みでかわしに行くが、斬られて転がった。

 古の迷い人はまた、食べかけの【原始結晶】を齧る。


「【ラビットジャンプ】からの【フルスイング】だあああーっ!」


 古の迷い人は、メイの飛び込み【フルスイング】に盾を合わせに行く。


「【シルトパリヰ】」

「うわわわわーっ!」


 その威力はすさまじく、メイが弾き返される。

 そうなれば、狙うは残ったまもりのみ。

 初撃は剣の振り降ろし。


「【クイックガード】【地壁の盾】!」


 これを防御したところに迫る二連撃。


「盾盾っ!」

「【フルスヰング】」

「【不動】【地壁の盾】っ!」


 剛剣と盾がぶつかり。激しく跳ぶ火花。

 ここで古の迷い人が掲げたのは、【影の斧】


「っ!!」


 斧はそのまま、地面に突き刺さる。


「【大地烈斷撃】」


 ドッ、と先ほどを超える勢いで溜まりが割れ、飲まれたまもりを硬質のトゲの乱舞が突き上げる。


「きゃあああっ!」


 戦い方が正統派ゆえに、明確な弱点がない。

 シンプルな強化で敵をかき回す戦いはまさに、メイのようだ。

 一気に逆転した形勢。

 このまま攻め切らんとばかりに踏み出す、古の迷い人。


「私にも……使うことができるでしょうか」


 突然の輝きに、古の迷い人が振り返る。

 光源は、ツバメの手にした【絆の宝珠】だった。

 描かれる魔法陣。

 そこから出て来たのは――。


「おや、早い再会になったね」

「か、怪盗さん……」

「なるほど、どうやら大変な状況にあるみたいだ」

「はい……その通りです」

「でもこの事態を解決する、簡単な方法が一つだけあるよ」

「一応お聞きします。それは、なんでしょうか」


 ツバメがたずねると、怪盗は笑いながら人差し指を立てる。


「【スティール】さ」


 そう一言告げて、高速移動スキルで走り出す。


「【サイレントムーブ】」

「し、【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】」


 ツバメもすぐさま、白目で後に続く。

 すると古の迷い人は再度【原始結晶】を齧り、剣を構えた。


「【ミスディレクション】!」


 怪盗が発動するスキルは、強制的に敵の注意を自分に向けさせるもの。

 さらにこの時、他のプレイヤーは『敵対』から外れてしまう。


「【紫電壱閃】」

「速い……っ!」


 しかし放たれる強化版斬り抜け攻撃は、稲妻のような速度。

 防御もできず、怪盗が斬り飛ばされる。


「でもそれは、あたしの【イリュージョン】」

「【投擲】!」


 すかさず投じたツバメの【不可視】【雷ブレード】

 強制的にツバメの認識を外されていた古の迷い人に、容赦なく突き刺さった。


「【サイレントムーブ】【トリックスピン】!」


 駆け出した怪盗は、短剣による回転撃を決める。

 離れる距離。


「【フルスヰング】」


 古の迷い人は先行して、豪快なエフェクトの振り払いを放つ。


「うわっとォ! 【側方回転跳び】!」


 しかし怪盗は、華麗な後方回転跳躍で距離を取る。


「きます!」


 ツバメが声を上げる。

 古の迷い人が掲げた、影の戦斧。


「【大地烈斷撃】」


【原始結晶】によって火力をあげた一撃は、『溜まり』を大きく崩落させ、黒のトゲを豪快に突き上げる。


「【ロングジャンプ】【側方回転跳び】」

「【跳躍】【エアリアル】」


 しかし二人は、二歩の助走からトゲ山を飛び越えていく。


「それっ!」


 怪盗は跳躍からの振り降ろしを決めると、そのままスキルエフェクトを輝かせる。


「【快刀乱麻】!」


 そしてそのまま、二刀流で放つ華麗な剣舞で斬り飛ばした。


「いこうか! 【サイレントムーブ】!」

「い、いきましょう! 【加速】【リブースト】!」


 二人は高速移動で接近。

 古の迷い人の左右を駆け抜けるような形で、突き進む。


「さあ勝負だ!」

「これまでの【スティール】で積み重ねてきた全てを……今ここにっ!」

「「――――【スティール】!」」


 二人同時の【スティール】

 古の迷い人の後方へと走り抜けた二人は、同時に振り返る。

 盗みに成功したのは――――なんとツバメだった。


「お見事」


 歓喜で、うっかり泣きそうになるツバメ。

 その手の中で、【原始結晶】はボロボロと崩れて消える。

 一方で怪盗が、指をパチンと鳴らすと――。

 古の迷い人の鎧に貼り付けられた、【火薬針】が炸裂。

 爆竹のように連発する小爆発が、敵にヒザを突かせた。


「すごーい!」

「ツバメが強化結晶を奪って、怪盗が隙を作る! 最高の連携だわ!」

「じゅ、準備はできています……っ!」

「……【ソフトリフレクター】」


 すぐさまマリーカ(小型)が、対呪文用の反射板を、古の迷い人を囲むように設置。


「れ、【霊鳥乱舞】!」

「……【霊鳥乱舞】!」


【マジックイーター】で吸収しておいた【霊鳥乱舞】との同時使用で、その数は単純に二倍。

 殺到する光の鳥は、リフレクターに反射しまくり直撃。

『敵をダウンさせない』というその効果によって、いくらでもくらい続けられるその連携。

 凄まじい輝きを放つ光の檻は容赦なく古の迷い人を削り、そのHPを3割近くにまで減少させた。

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