第866話 集合します!
「というわけなんですっ!」
「なるほど、どうやら状況は皆近い感じみたいね」
「はい、私もドアのようなものにしがみつく形で漂流していました」
「わ、私は無人島に漂着してましたっ」
大海のど真ん中で遭難してしまった四人だが、現実でも孤立する必要はない。
さっそく現状を皆で確認するため、近くの駅に集合することにしたのだった。
「まもりさんも家が遠くなかったのは、最高の展開でした」
「本当だねぇ」
「しかも今日は皆制服だから、私も浮かないわね」
並ぶ四人は、学校帰りのため制服姿。
今回は一人だけ制服という形ではないので、素直に安心する。
「制服姿、結構普通になってきたと思わない?」
急に変えたら「あ、中二病治ったんだ」感がするため、段々要素を薄くしていく戦略を実施していた可憐。
空からふわふわ降りてこられそうな形をした黒レースの日傘、カバンに付けた妖しい花飾り、包帯を少しずつパージ。
あとはシルバーのチェーンブローチ、レースのニーソックスを辞め、妙に踵の高い靴を替えるだけで、普通の高校生に戻れそうだ。
「……はい。普通の高校生に近づいています」
「なんでちょっとつまらなそうなのよ」
あのフル装備にカッコよさを感じていたさつきとつばめ、若干物足りない。
「で、お店がある通りってこっちでいいの?」
「うんっ」
さつきが先導してたどり着いたのは、飲食店多めの区画。
「ここに入ってみたかったんですっ」
そこにあったオシャレ系コーヒーチェーン店を見て、さつきは目を輝かせた。
「お、おしゃれなコーヒー屋さんですね……わ、私にはハードルが高くないでしょうか」
店の雰囲気に似合わない、暗いヤツは出ていけ。
コーヒー豆を『鬼は外』感覚で投げつけられるのではないかと、カバンを盾のように構えるまもり。
まずは四人で座れる席を、窓側で発見。
カバンを置いて、カウンターへ。
「ここはわたしにおまかせください」
前に入った店とは違うが、こういう店のシステムを知っているさつきは得意げに胸を張り、まもりを連れていく。
そしてキリッとした表情で、店員の前へ。
「イチゴクリームフラペチーノをお願いしますっ」
「ショート、トール、グランデとございますが、どうされますか?」
「……ぐらんで?」
聞きなれない言葉に、思わずまもりを見るが首を振る。
前回の店では『SML』だったさつき、困惑。
なんだったら『意地悪されている可能性』すらあると、コーヒー豆攻撃に備えてカバンを掲げるまもり。
「レンちゃーん!」
「困るの早くない?」
可憐は笑いながらさつきのもとへ駆けつける。
もはや過去の自分より恥ずかしいものなど何もない可憐は、素直にシステムを聞いて注文を進めていく。
こうしてどうにか注文を終えたさつきたちは、安堵の息と共に席に着いた。
「えへへ、レンちゃんありがとーっ」
「あ、ありがとうございましたっ」
続けてつばめも、注文を終えて戻ってくる。
「皆さん、よろしければご一緒にいかがですか?」
「こ、これはっ!?」
つばめのトレーには、抹茶ラテとミルフィーユ。
コーヒー豆をぶつけられないよう大人しくしてたまもりが、ミルフィーユをチラチラ見ていたことに気づいたつばめが勧める。
「い、いいんですかっ!? このようなお店、めったに来られないので……気になってしまって!」
「今回は皆さんの後に続くことで、店員さんに存在を気づいてもらえたので、良かったです」
「どうぞ」と差し出すと、うれしさと申し訳なさに悩みながら一口。
「おいしいですっ! あ、ありがとうございますっ!」
まもりは幸せそうに頬を緩める。
「それじゃあ、現状を少し確認しましょうか。メイは漂流中なのよね?」
「うんっ」
「そして【遠視】でも何も見当たらない状況と……でも、下手に移動しなかったのは大きかったわね」
「そーなの?」
「もしメイさんがケツァールさんやクジラさんで長距離移動した場合、付近にあるクエストのポイントを置き去りにしてしまう可能性があります」
「なるほどー」
「今私たちはどこにいるのか全然分からない状態だから、置き去りにしたクエストを後から見つけるのは大変でしょう」
「め、目印が何もない海で、最初にいたポイントを探すのは、た、大変ですね」
「ただ、無意味に遭難しただけとは思えないから、移動するにしても様子を見つつにしたいわね。メイの場合は【ドルフィンスイム】で水中の確認、【アメンボステップ】で付近の確認くらいはしても良さそう」
「りょうかいですっ」
「潮流に流されてしまう場合は、それで死に戻りになるような形でなければ、身を任せるのも良さそうです」
そうすれば何かにたどり着く可能性があると、つばめは続けた。
「まずは合流を目指しながら、海のクエストを探す。それでゆくゆくは『門』も見つけられれば。とりあえずはそんな形で進めていきましょうか」
「は、はひっ」
「はあーっ! でもこういう緊急事態、ワクワクしちゃうねっ!」
さつきは歓喜の息をつきながら、足をパタパタ。
「はい。まさかこのような形で分断された上に、迷子になるところから始まるとは思いませんでした」
「これまでになかった展開だし、たまらないものがあるわね」
「今はどこの辺りを漂流してるのかな」
「一応、目指してた南東の海だとは思うけどね。船が沈没したってことを考えると、ミューダス三角海域の辺りで間違いなと思うわ」
「南方なので、海が綺麗で陽気なのは助かりますね」
「なんだか漂流も楽しくなっちゃうね!」
「はひっ」
箱に入った猫耳のメイが流れ着いたら、楽しそうだなと想像してちょっと笑うつばめ。
なかなかないタイプのクエストに、歓喜しているのは皆同じようだ。
こうしてこれからの流れを決めたさつきたちは、漂流からのスタートというめずらしい事態に興奮しながら、コーヒーを楽しむのだった。
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