第864話 ミューダス諸島

「着いたーっ!」

「ここもまた綺麗ねぇ」

「はい。素晴らしい景色です」

「す、素敵ですっ」


 メイたちは、広がる海の街に思わず感嘆する。

 ポータルによる移動でやってきたのは、世界地図でいえばかなり南東に当たる位置。

 いくつもの島が集まってできた、ミューダス諸島の中心街だ。

 空は青く、砂浜は白く、海は綺麗なエメラルド。

 到着と同時に、メイだけでなくツバメも浜辺に向かって走り出した。

 そして、ツバメだけ急な砂に足を取られて転ぶ。


「ふふふ、ルルタンの時も転んでなかった?」

「あっ、そうだった気がする!」

「お恥ずかしい限りです」


 レンの手を取り、起き上がるツバメ。

 ルルタンは孤島の完全なリゾート地といった雰囲気だったが、ミューダスは街と隣接した観光地といった感じだろう。

 小型の漁船なども多くみられ、現実でいえば住人と観光客が入り混じる海の街だ。


「ルルタンの時は、メイが着てた『腰みの水着』が印象的だったわね」

「あれは最初だけだよっ!」

「……そうだったっけ?」


 レン、銛に刺した魚を差し出して「クエ、ウマイゾ」と言いそうな貝殻ビキニのメイに、記憶を上書きされて困惑。


「その後、とても可愛い白の水着になったんですよ」

「ああ、そうだったわね」


 ついに皆の記憶まで野生に浸食されている事態にブルブル尻尾を震わせながら、メイがつぶやく。


「せっかくだし、また着られないかなぁ」

「それはいいですね」

「多分、装備品の店に行けば普通に着替えられるんじゃないかしら」


 まず最初の行き先は、防具店。

 店売り商品も色々と地域で違いあるが、海の街はインナー装備を水着化することができることが多い。


「水着を探しに来ましたーっ!」

「それでは、こちらの試着室にどうぞ。ご指定頂ければ、当店のおすすめをご提案いたします」

「貝殻とかヤシの葉を使わない感じのもので、お願いしますっ」

「了解しました」


 今回はしっかり指定したメイは、店員NPCの返事に安堵。

 試着室のカーテンが開く。

 するとそこには、トラ柄の毛皮ビキニに腰巻を身に付けたメイ。


「なんでええええ――っ!?」

「あははははっ、確かにヤシも貝殻も使ってないけど!」

「一度話を聞いた上で、ちゃんと別の形の野生を提案したのですね……」

「で、でもすごく可愛いと思いますっ」

「こんな格好で外は歩けませーんっ! 別のやつでお願いしますっ!」


 メイが試着室に飛び込むと、すぐさま指定に入る。


「あっ、ヤシも貝も毛皮も、使わないやつでお願いしますっ!」

「了解しました」


 試着室のカーテンが開く。

 するとそこには、長い草を身体に巻きつける形の新たな原始スタイル。


「これも困りますーっ!! 草はやめてくださいっ!!」


 漫画などでも一、二度見たことがあるかくらいの格好に、驚嘆するメイ。

 すぐさま試着室に逆戻り。

 あらためて試着室が開くと、今度はメイらしく白の可愛い水着にパレオという、ルルタンの時のものに酷似したものになってひと安心。

 続くツバメも、シンプルな紺色のビキニにパーカーという形にまとまった。

 長い黒髪が一本に結んであることで、いつもより少しアクティブな雰囲気だ。


「私も普通のでいいから」

「了解しました」


 念のためレンも早めに断りを入れるが、こちらは黒に銀パーツの水着に、同じく黒レースのパレオ。

 赤のリボンだけしっかり残した外見に、思わずメイが「おおーっ」と声を上げる。


「もうこれが、私の普通なのね……」


 NPCの一切曇りのない眼差しに、ため息をつくレン。

 それでも肌が出ている分だけ、中二病感は濃くないはずと自分に言い聞かせる。


「最後はまもりちゃんだね!」

「み、水着なんて学校指定のものしか着たことないのですが……っ」

「了解しました」

「「「「えっ?」」」」


 試着室が閉まる。

 そしてカーテンが開いた時、そこには学校指定型の水着に白のスイムキャップのまもりが。

 ゴーグルまで付いている辺り、なかなか抜かりない。


「あははははっ! なんでこんなものまで用意してるのよ!」

「これは楽しいおふざけですね」

「うんうん、本当だねぇ」

「な、なんかこれはこれで恥ずかしいですっ……!」


 まもりは指定水着を盾で隠すという、不思議な格好をする。

 インナー装備は防具を付けてしまえば見えないということもあって、遊びの要素も用意されているようだ。


「せっかくだから、まもりにも可愛いのをお願い」

「了解しました」


 逃げ込むように試着室に入ったまもり、再びカーテンが開く。

 すると一転、白地に淡いグリーンのヒモ、パレオもエメラルドグリーン色という水着姿になった。


「まもりは麦わら帽が合うわね」

「あ、ありがとうございますっ」


 金色の髪に乗せた麦わら帽はツバの大きなもので、メイの思う『素敵なお姉さん』感もある。

 それでいて表情はちょっと引っ込み思案な感じもあって、とても可愛らしい。


「レンちゃんもまもりちゃんも、こういう水着が似合うねぇ……」

「はい、羨ましい限りです」


 こうして定番の『一人だけスクール水着』というオチを回避したまもり。

 もじもじと、恥ずかしそうに盾に隠れながら店を出る。すると。


「あっ! あれは!」


 めずらしい売店を見つけて指を差す。


「ココナッツのジュースがあります!」


 一度は見たことあるけど一度も飲んだことないでお馴染み、ココナッツにストローを刺して飲むヤツを見つけて走り出すまもり。


「あ、あの……っ」


 そこにはココナッツのジュースやミルク、パウダーを使ったスイーツなども置かれている。

 NPC見知りを見せつつも、まもりは思い切って注文する。


「あるもの全部ください……っ」

「「「っ!?」」」


 ついにメニューすら見ずに言い放ったまもりに、驚くメイたち。

 どうやら初めての飲食物を前に、水着の恥ずかしさは薄れてきたようだ。

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