第863話 まずはここから!

「ふわわーあ」

「昨夜はしっかり遊んじゃったわね」

「バニーさんの元気さが、とにかくすごかったです」

「ど、どうしたらあんなにポジティブでいられるのでしょうか……っ」


 伸びの仕方がちょっと猫っぽくなっているメイに笑いながら、四人はエルラト遺跡へ。

 昨夜は『とにかくメイたちと離れたくないバニー』に付き合って明け方まで遊んだため、今日は各自短い睡眠での集合だ。


「うつらうつらしちゃったよー」

「私も休み時間は眠っていました」

「わ、私もですっ」


 まもりは特に、食べた後に眠くなってふわふわしていたのを思い出す。

 その後の授業中は、白目をむいたり目覚めたりを繰り返していた。

 メイも「えへへ……」とか言いながら寝ている姿を目撃されて、付近の同級生たちの癒しになっていたのだが、そのことには気づかなかったようだ。

 レンに至っては腕を組み、何かに精神を集中しているかのようなポーズで休み時間を寝て過ごしたことを、今になって反省する。

 ああいう時こそ隙を見せた寝方をすれば、孤高を気取るキャラを払拭できたのではないかと。


「それにもかかわらず定時集合って、相変わらずどうかしてるわね。私たち」


 レンはそう言って笑う。

 眠たいし、無理せずのんびり集合という予定だったのに、四人はいつも通り帰宅時には「今日は何をするのかな」モードだった。


「とにもかくにも、まずは天空遺跡の話を族長にしに行きましょうか」

「りょうかいですっ」


 こうして四人は、天空遺跡の下にあるエルラトの集落へ。

 すると長老とブレスレットの少女ローラが、石板の前で待っていた。

 メイたちに気づいた長老が石板に文字を書くと、それが変形して通訳の代わりとなる。


『空は荒れていたようだな。よく無事に戻ってきた。天空遺跡には何が隠されていたんだ?』


 消えていく文字。

 代わってレンは杖で答えを書く。

 ゼティアの門という異世界へつなぐ巨大な装置。

 そこからやってきた化物との戦いと、異世界の素材で作られた兵器による世界の滅亡。

 赤月の夜は、ゼティアの門が開かれる時に起きる現象だということを。


『我らが守っていたのは、異世界へつながる危険なゲートだったのだな……』


 興味深そうにうなずく族長。

 ローラも真剣な顔で石板を見つめている。


『白のローブの青年は、かつてこの石板をここに置いて行った者だ。世界の危機を知らせるために動いていたようだな。天空遺跡に向かったのもその時のことだ』


「かつて……ローブの青年って今はどうなっているのかしら。ここから探しに向かう流れだと思うんだけど……」

「『かつて』というほど昔なのであれば、少なくとも今は青年ではなさそうですが……」

「しかも、組織に追われているとも言ってたわね」


 青年の居場所、第二のゲート。

 青年はこの時を見越してホログラムを残し、天空遺跡を去ったのだろう。

 二つの問題を追いかけるにはもう少し、情報が欲しいところだ。


『まずは長い歴史の中で、いつしか何を守っていたのかすら分からなくなっていた我らに、答えを持ち帰ってきてくれたことに感謝を』


 族長はその杖を下ろし、ローラとうなずき合う。

 すると部族の者たちが、遺跡特有の石金属製の箱を持ってやってきた。


「今回はこういう形の報酬になるのね」

「た、楽しみです」

「とにかく開けてみましょう」

「りょうかいですっ」


 さっそくまもりが、ワクワクしながら箱を開く。


【チャリオット】:盾防御をしたまま突撃し、敵にぶつかることが可能。衝突ダメージ。その推進力と威力は【耐久】に依存する。


「盾を前にしての突撃。まもりなら便利に使えそうね」

「まもりさんが防御しながら突っ込んでくるというのは、強力です」

「おおーっ!」


 新たなスキルに、皆歓声を上げる。

 続くのはツバメだ。


【水月】:伸長する水の刃による突きで、敵を貫く。


「刺突用のスキルなのですね……斬ることに重きを置いた【アクアエッジ】とは、少し違った感じでしょうか」

「そ、そういえば、【村雨】の特殊効果って……」

「はい。水系スキルの効果上昇。これは楽しみです」

「次はわたしがいきますっ」


 メイはその尻尾を期待にブンブンしながら、箱を開く。


【海皇の槍】:水中でも地上と同じように振ることのできる槍。投擲攻撃の威力が高く、威力は【腕力】に依存。水中であれば手元に戻ってくる。


「いいタイミングね! これは近々役に立つんじゃない?」

「三叉の槍は、海の王様を彷彿とさせますね」

「カッコいい! けど、海にまで進攻した野生の王様みたいなことにならないようにしないと……っ! これ以上範囲を広げるわけには……っ!」

「みんないい感じね! 使えるもので間違いないわ! これは私の報酬も期待できるわね!」


 各自が良い流れできた報酬確認。

 レンは意気揚々と箱を開き、中にあったスキルブックを期待と共に広げる。


【ナイトメア】:対象を内部から貫く閃光を発生させる、強力な近接攻撃。瞬間的に一帯が闇に包まれる古代魔法。使用後は全攻撃スキルにクールタイムが発生する。


 レン、どう見ても強力な新魔法にも関わらず、その場にガクリとヒザをつく。


「な……名前とスキルの一致は、どう考えてもダメでしょ!! いよいよ私が『悪夢』の代名詞みたいになるじゃないっ!!」


 白目のまま、天に向かって叫ぶ。

 追いかけてきた中二病はついに、『なかったことにしていたナイトメアという言葉を』を、レンに唱えるよう強制してきた。


「わあ! カッコいいね!」

「はい、自らの名前を冠した魔法……最高です!」

「す、すごいです……っ!」


 一方、素直に目を輝かせるメイたち。

 これにて、天空遺跡エルラトの冒険は終了となった。


『まさか、かつて世界を滅ぼした『門』を守るために戦っていたとは……君たちの肩に、選択に世界がかかっている。その旅路に幸多からんことを』


 そう言って族長とローラは、浮かぶ天空遺跡を見上げる。

 メイとツバメ、まもりもあらためて、今回の冒険の舞台を見上げる。

 そんな中、虚空を見上げるレンの目だけが死んでいた。

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