第862話 ここはどこ? わたしはメイ!
「んー……」
視界が真っ暗になり、閉じていく感覚。
その後、最後に立ち寄った街やポータル等のポイントに戻る。
これが『死に戻り』または『リスポーン』と呼ばれるシステムだ。
「大変な目にあったねぇ……」
メイはぽつりとつぶやくが、返事はなし。
聞こえるのは、ちゃぷちゃぷという音だけ。
メイは目を開き、ゆっくりと身体を起こす。
そしてその場にぺたんと座り込んだ。
「レンちゃん?」
返事はない。
そしてそもそも、死に戻りでもなかったようだ。
やがて段々と、自分の状況が明らかになっていく。
メイが座っているのは、畳二枚分くらいの大きさの木板。
「ツバメちゃん? まもりちゃん?」
やはり返事はない。
辺りを見回してみてる。
右を見る、海。
左を見る、海。
前も後ろも、ひたすらに海。
他に見えるのは、青空と太陽だけ。
「え、ええ……」
そこには、レンたちを始めとした仲間の姿はない。
マップもないため、現在位置も分からない。
視界が真っ暗になる前、どこにいたのかも知らない。
【帰巣本能】で東西南北こそ分かるが、逆に言えばそれ以外は何も把握できていない状態だ。
広大な海でただ一枚、ポツンと浮かぶ木板。
その上にはメイ一人。
ちゃぷちゃぷと聞こえ続ける水音は、木板に当たる海水の音だ。
メイの【遠視】をもってしても、島の一つすら見えないため、どっちへ向かえば良いのか分からない。
どうやらメイは、広大な『星屑』の世界の大海で、遭難してしまったようだ。
「ええええええええ――――――っ!?」
メイの叫び声は、どこまでも広がる海に消えていった。
◆
メイの大海での漂流から、数時間前のこと。
「わあーっ! また野生児みたいになってるよー!」
広報誌を手にしたメイは、悲鳴を上げた。
空の王の外見はほぼ、巨大な猛禽。
【野生回帰】のメイが【四足歩行】で飛び掛かっていく画は、どうみてもジャングルの王を決める争いの空中決戦編。
次のページではターザンロープで巨鳥を振り回しているのだから、その迫力は圧倒的だ。
「これはとてもよい一枚ですね」
一方ツバメは、王城前でのお茶会の一枚がお気に入り。
これだけの食べ物を高々と積んでいるパーティは、他にないだろう。
そしてメイとバニーの仲良しショットは、とにかく可愛い。
今回誰もが目を留めたそのページに、思わず見とれてしまう。
「仲間たちとの冒険記って感じがしていいわね」
「は、はひっ」
まもりには8人という人数で一緒に遊ぶということは、選ばれた者にしかできないことだという感覚がある。
そのため今は、そこに自分が参加していたという事態に不思議な気持ちでいっぱいだ。
「でもこの後はどうしていく? 次は帝国を抜け出した黒づくめの後を追って、情報を集めてみる?」
天空遺跡エルラトから帰ってきたメイたちは、ラフテリアの海を眺めながら次の行き先会議を始める。
消えたホログラムの青年を探すか、帝国艦を追っていくのか。
流れとしてはどちらかになるだろう。
「ゲートに向かうとなると、海が舞台になるのでしょうか」
「帝国の黒づくめたちが、『海のゲート』に向かった可能性は高いものね」
「海かぁ……いいねぇ」
ラフテリアの明るい港町感も良いが、以前行ったルルタンのような南国リゾートの海の感じも良い。
帝国艦が向かったのは、南西との情報。
かなり大雑把だが、それを探してみるというのもいいだろう。
それで別のクエストにたどり着いたとしても、それはそれでありというのがメイたちの考えだ。
「狙いどころとしては、南西だとミューダス海域なんかが面白そうだけど」
「みゅーだす海域?」
「何かと船が消えたり沈んだりするミューダス・トライアングルっていう三角海域。実際にあの辺りに船で向かうと嵐に巻き込まれたりするんだって。他にも幽霊船が見えたなんて言う話もあるわね。でも基本的には南方の海だから、雰囲気は明るくて楽しい感じよ」
「おおーっ!」
「いいですね。南の鮮やかな衣装や軽装は、メイさんにとても似合います」
「か、海産物はあるのでしょうかっ」
各々が、新たな海の冒険に思いをはせる。
「次の目標はミューダスで良さそうね。でもまずは――――」
「ほうしゅうからっ!」
「そういうことですね」
「はひっ」
こうして次の行き先を決めたメイたち。
四人はまず報酬の確認のため、エルラトの遺跡に向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます