第859話 勝利の先に待つもの

「やったー!」


 レンたちのところに戻ってきたメイが、帰って行くケツァールに手を振る。

 するとその帰還と入れ違うように、レンたちが駆けつけてきた。

 そしてそのまま、メイに飛びつく。


「やったわね!」

「お見事でした!」

「す、すごかったです!」


 これにはまもりも、さすがに興奮気味だ。


「まもりちゃんにもいっぱい助けてもらったよ! ツバメちゃんにも!」


 そう言って二人を一緒に抱きしめると、両者共にあわあわする。


「メイ――っ!!」


 そんな四人のもとに、駆けてくるのはバニー。


「バニーちゃん! 無事だったんだね!」

「もっちろん!」


 元気に応えて、そのまま四人の間に飛び込んでくる。


「アーリィさんたちも無事だったのですね!」

「……ちょ、ちょっと!」


 思わずレンが驚きの声を上げる。

 バニーだけではなく、夜琉も灰猫も、アーリィまで全力疾走。

 そのまま容赦なく飛びついてくる。

 8人はそのまま倒れ、笑いながら転がる。


「……この瞬間を見るために来てるんだよなぁ」

「そうそう、この時のために戦うんだよね」

「メイちゃんたちと一緒に戦うのって、こんなに達成感あるんだな」


 うなずき合う、追従プレイヤーと掲示板組。

 そんな中、メイが立ち上がる。


「スライムちゃーん! 皆さんもありがとうございましたっ!」

「は、はいぽよっ!!」


 名指しで手を振られたスライム、固くなる。

 固くなる際にちゃんと四角くなったスライムを見て、掲示板組は手を叩いて笑うのだった。

 こうしてひと時の祝勝タイムが終わると、レンが立ち上がる。


「……さて。この門が何なのか、ちょっと調べてみましょうか」


 滅びた文明を捨て、遺跡を守って生きてきた謎の部族。

 守られ、隠されてきた天空遺跡にはアサシンによる妨害が待ち受けていた。

 そして最後は、空の王による攻撃。

 そこまでして守っていたものとは、一体何だったのか

 8人を先頭にして、浮き島へと続くブロックの橋を渡っていく。

 広い浮き島には紋様の刻まれた二本の塔が立ち、その素材は遺跡特有の石のような金属。

 そして二本の塔の中央には、魔法陣のような円形の紋様があった。


「特別な召喚を行う場所とかかしら」

「レンちゃん、あれは?」


 メイが指さした先には、遺跡の紋様とは違う『今』の魔法陣。

 しずかに光が灯り、ゆっくりと何者かが投影されていく。

 現れたのは髪の長い、女性にも男性にも見える不思議な雰囲気の青年。

 ボリュームのある長い白髪をスカーフのようなもので束ね、大きな白のローブをまとっている。

 古木を銀で飾った杖を持つその人物は、落ち着いた声で語り出す。


『この場所にたどり着いたということは、空の王の守りを跳ね返したということか。どうやら君はかなりの強者のようだ』


 見れば、いつの間にか空の王は神殿の一角にとまり、こちらの様子を見つめていた。


『ここは――――『ゼティアの門』という』


「ゼティア……」

「帝国の兵務区画で読んだ本にあった言葉ですね」


『ゼティアの門を起動すると、こことは違う世界へつながる』


「この門は、異世界とつながるゲートだったのですか」

「異世界とつながると、どうなるのかしら」


『かつての文明は偶然発見した異世界に手を伸ばし、持ち帰ってきた素材を利用して兵器を作り出した。だがいくつかの国が競争と戦争を加速させる中、ついにその時がおとずれた』

『開いた門から、異世界の化物がこちらの世界にやってきてしまった。そこから始まった戦いが、世界を滅ぼした』

『生き残ったわずかな民は、文明を捨てて生きることを選んだ。同じ過ちを繰り返さないために』

『その日のことは、『赤月の夜』と呼ばれるようになった』


「赤月の夜が来て、世界が終焉を迎える。そういうことね」


『私に確認できた門は2つ。天空と海底』

『そして私は『鍵』だ。門の開閉に必要な『鍵』となる血を持つ、唯一の人間』


 そこまで語ったところで、青年の目が遠くに向けられた。


『……どうやらヤツらが来たようだ。『組織』は私を狙っている。もし囚われることになればこの事実は隠匿され、世界はやがて滅びを向かえることになるだろう』

『私は世界をめぐりながら様々な情報を残してきたが、それもいつ『組織』に回収されてしまうか分からない』

『もしも君が世界を守りたいと思うのであれば、私を見つけ出して欲しい』

『頼む……世界の破滅を防ぐため。そして……ゼティアを再び開くために』


 そう言い残して、ホログラムのような映像は消えていく。


「このゲートを使えば旧文明を滅ぼした異世界の怪物がやって来てしまう。だから部族は遺跡を守っていたのね」

「兵器も、そもそも異世界から持って帰ってきたもので造られていた……そう考えると北極の化物と大きな槍は、異世界から来たものと考えるべきでしょうか」

「世界がまた、終わっちゃうかもだって……!」

「そ、それは世界がフローリスのように、大変なことになってしまうということでしょうか……っ」


 メイはゴクリと息を飲み、まもりと手を握り合う。


「すげえ……これはメインルートで間違いないだろうな」

「99%間違いありませんね」

「ドキドキするぽよ……っ」

「さすがは使徒長、ついに世界の存亡に関わるというわけですか。そして裏で動く『組織』……くくく、楽しくなってきたではないか」

「震えてるぞ」

「こ、これは武者震いだ」


 物語の終わりを見届けて、空の王は飛び立っていく。

 再び静かになった天空遺跡。

 ついに露わとなった壮大な背景は、集まったプレイヤーたちを震撼させた。


「……でも、ゼティアの門から異世界の化物が来るのに、世界を守るためにゲートを『開く』って、どういうことかしら」

「確かに、不思議な話ですね」


 首を傾げるレン。

 そんな一つの謎を残して、天空遺跡エルラトの冒険は幕を閉じたのだった。

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