第858話 空の王
「それじゃあ、いきましょうか」
「一気にガーゴイルを片付けちゃおう!」
「これで最後、出し惜しみは要らんな」
「了解だにゃん」
笑って、4人は動き出す。
「【クイックステップ】!」
「【因幡ステップ】】!」
駆け出すアーリィとバニー。
「【三枚おろし】!」
先行したのはバニー。
一撃入れ、反撃をかわしてもう一撃。
そのまま左側へ離脱して、重騎士の視線を奪う。
「【ヴァルキリーストライク】!」
そこへ一直線に跳び込んできたアーリィが一撃を入れ、右側へ抜ける。
綺麗な連撃に、体勢を崩した重騎士型。
「【爆歩】!」
そこに飛び込んで行くのは夜琉。
その身体の大きさゆえに、回避は不可能。
重騎士型は盾を構え、完全な防御体勢で迎え撃つ。
だが夜琉の大太刀の一撃は、防御など許さない。
「【天地裂断】!」
縦に走る斬撃が、空間をズラすような形で断裂。
手にした盾ごと、大きく弾き飛ばされ転がる。
ここまでで約5割。
一気にHPを奪われた騎士型は反撃に出る。しかし。
「バ、【バーサーカー】」
残ったわずかなMPで、アーリィが畳みかけにいく。
起き上がった騎士型の振り降ろしをかわし、払いをかわし、盾の叩きつけをバク転でかわして、振り払いを掻い潜って跳躍。
「ウォオオオオオオ――――ッ!! 【白鳥乱舞】!」
三連の跳躍から放つ荒々しい刃の乱舞で、狂ったように斬りつける。
「あと、おねがい……っ」
しかしここでMP切れ。
ガクンと動きを止めたアーリィが振り返って手を出すと、タッチして前に出たのはバニー。
「おまかせあれっ! まだまだいくよ【微っ塵切り】ィィィィ――――っ!」
荒れ狂う斬撃の直後に、続くめちゃくちゃ軌道の高速二刀流攻撃。
叩き込まれる怒涛の連撃に斬り飛ばされ、ヒザを突く重騎士。
ここで前に出てきたのは、灰猫だ。
「【デモンスレイヤー】」
放たれる最後の一撃。
神殿区画の床がえぐれるほどの魔力光が、剣の重騎士をそのまま粒子に変えた。
「負けてられないぽよっ!」
「【マイン・エクスプロード】」
飛び掛かってきたランスの重騎士型に、自身を巻き込む範囲高火力攻撃を発動。
計算君は【食いしばり】でHPを1だけ残して、高いダメージとダウンを奪い取った。
「【凪一閃】!」
追撃にマウント氏の振り払いが続き、稼いだ時間で黒少女が魔法を発動。
「切り裂け【氷のイバラ】!」
地面を伸びる氷の枝から、生えた氷刃が重騎士を切り裂く。
残りHPは2割強。
スライムはここで、一気に勝負をつけにいく。
「【超可変・海王】ぽよ――――っ!」
変身は巨大な一角の海獣。
その豪快な飛びかかりが、ランスの重騎士型を消し飛ばした。
HP全損。
二体の重騎士型が消え去り、足止めは完璧な形で成された。
「あとは私たちだけね!」
「うんっ!」
「いきましょう」
「は、はひっ」
座り込んだまま剣を掲げるアーリィや、手を振る掲示板組に、思わず気合が入る。
あとは、空の王の打倒だけ。
メイたちは、いよいよ残りHPが4割ほどとなった巨鳥に向かい合う。
「ギャアアアアアアアアアア――――ッ!!」
猛烈な咆哮と共に、翼の色が紅色に変わっていく。
空の王が両翼を広げると、大量の紅羽が舞い散った。
そして、暴風を操る。
舞い散る無数の紅羽は次々に炸裂、パパパパパと起こる小さな爆発の乱舞が、光の網を生み出す。
「【加速】【リブースト】! くっ!」
「【バンビステップ】!」
渦巻く風の奔流は次々にその風向を変えて、襲い掛かる。
ツバメは爆発に肩を弾かれ、メイもかすめた羽に薄くダメージをもらう。
直後。通り過ぎた風は一転して逆風になり、羽が舞い戻ってくる。
「わわわわっ!」
「やっかいですね、これは……っ!」
輝きと共に迫る羽の嵐に、ツバメとメイはHPを削られていく。
「【クイックガード】【地壁の盾】、盾!」
まもりはすでにHP2割強のレンを守りつつ必死の防御で抑えるが、これもギリギリの状態だ。
「風弾がくる……っ!」
レンは空の王の挙動を見て、青ざめる。
クチバシに集まる緑の奔流は、先ほどメイを吹き飛ばした【暴風弾】だ。
紅羽がふわふわと舞い降りる中、放たれる風弾。
「【不動】【天雲の盾】!」
飛来した【暴風弾】を、まもりが盾で受けた。
ドン! という強烈な爆発音の直後、一帯に暴風が吹き荒れる。
「【天雲の盾】! 盾! 盾!」
「本当に、とんでもない威力……っ!」
次々に飛来する【暴風弾】はドン、ドン、ドン! と爆発音を立てる。
吹き荒れる風に、まもりの背後に隠れたレンも思わず足をフラつかせた。
「っ!」
吹き荒れる暴風に、メイとツバメはその場にしゃがみ込んで防御を固める。
続く【暴風弾】の連射を、受け続けるまもり。
そんな中、一つの風弾がまもりの頭上を越えていった。
「「「「ッ!?」」」」
外れた【暴風弾】が炸裂し、突然後方から吹き荒れる突風。
四人はついに体勢を崩された。
もちろん空の王は、この隙を逃さない。
わずか一度の羽ばたきで滑空に入り、そこから得意の急加速。
衝撃波を残し、直接攻撃を狙いに迫る。
その狙いはレン。
「【フレアストライク】!」
迫る空の王に放った魔法が、弾かれる。
まもりはすぐさま盾を構えて壁になるが、さらにその前に出たのはツバメ。
「つかみの可能性があります、ここは私が。まもりさん、空の王の飛来時の脚に注意してみてください!」
ツバメは空の王の急加速をしっかり目視し、直前まで攻撃の種類の見極めに使う。
そしてその爪が地面にぶつかり、火花を上げた瞬間。
「急停止です! 【跳躍】!」
ツバメはギリギリまで引き付けてから、前方へ跳躍。
急停止した空の王は、その場で両翼を豪快に振り回す。
「【エアリアル】【反転】!」
空の王の背後を取り着地したツバメ、しかし大きく開いたままの翼は、空刃放出の合図だ。
「右、左、もう一度左です……っ!」
飛来する多数の空刃を、ツバメは必死の回避でやり過ごす。
「【加速】!」
頬をかすめていく空刃。
ようやく生まれた隙を見て、走り出す。
「っ!!」
しかし振り返りと同時に放つのは、盛大なバク宙蹴り。
ツバメは全力で停止。
空の王の爪が、あご先を通り抜けていく。
どうにか近距離連携を切り抜けたツバメは、さすがに安堵の息をついた。しかし。
空の王はその状態から、羽ばたき一つで急降下。
「ッ!?」
その爪でツバメをつかみ、そのまま地面の床石に擦り付けた。
上がる猛烈な砂煙、ダメージは2割強。
空の王はツバメを置き去りにして上昇すると、上空から三連発の【暴風弾】を放ち、メイたちの体勢を崩したところで急降下。
そのまま再び滑空に入る。
「……いきます」
それを見て、前に出たのはまもり。
「ツバメさんのおかげで、分かったと思います……!」
迫り来る空の王は、そのまま急加速。
まもり目がけて特攻を仕掛ける。
「接敵直前で足を前に出していれば『つかみ』……下げていれば直接攻撃です! 【不動】【地壁の盾】!」
その判断は正解。
空の王の爪と、まもりの盾がぶつかり火花を上げた。
両者のぶつかり合いによって生まれる、わずかな隙間。
「逃がしませんっ! 【獅子霊の盾】っ!」
まもりの盾から胸元まで飛び出した大型の獅子が、その牙で空の王の脚に喰らいつく。
「【フレアバースト】――ッ!!」
まもりの後ろにいたレンが、すぐさま杖を掲げて爆炎を叩き込む。
大きく吹き飛ばされた空の王は、HPが残り3割強まで減少。
空中で一回転して体勢を整えると、崩れた神殿のガレキの前に立ち、強烈な咆哮を上げた。
「様子が……変わったわ」
「最後の攻勢の、始まりでしょうか」
「……ごくり」
放つのは、三連発の【暴風弾】
「【天雲の盾】っ!」
一発はまもりの盾を打ち、二発目は盾をかすめて後方で炸裂。
そして三発目はなんと、まもりの足元に着弾。
体勢を崩したところに、さらに続く【暴風弾】
「きゃあっ」
右から左から吹きすさぶ暴風に、ついにまもりが倒れ込む。
ここで空の王は、両の翼を開いて再び咆哮。
すると前面に広い半円型の範囲を持つ、【羽散弾】が巻き散らされる。
「わーっ!」
「こ、これはっ!」
「マズいわ……!」
まもりが転倒したことで、防御を選んだレンのHPが削られていく。
ツバメは回避と防御を使い分けるが、それでも残りはもうわずか。
倒れたところに暴風と羽刃を受けたまもり、そしてメイのHPが半分を割った。
「さらに、【暴風弾】ですか……っ」
防御し切ったと思いきや、すぐさま放たれる【暴風弾】
吹き抜ける突風が、メイたちのラインを大きく下げる。
あとは【羽散弾】を続けるだけで、レンとツバメは脱落だ。
この状況を崩すには、もう一つのパーティが【羽散弾】を受けないよう、回り込むような戦略が必要なのだろう。
耐えられてあと二発か、三発。
そんな計算がレンの脳裏をよぎった、その瞬間。
「…………いきますっ」
じっと空の王の攻勢を見ていたメイが、そう宣言した。
繰り出される広範囲かつ高密度の【羽散弾】を前に、スキルを発動する。
「【裸足の女神】っ!」
駆け出したメイは、真正面から羽の乱舞に突撃していく。
迫る【羽散弾】
その隙間に小さなステップで入り込み、身体を傾け、小さく飛び、止まることなく駆け抜ける。
放たれる二発目の散弾。
「【アクロバット】! 【装備変更】!」
その角度を見て、即座に装備を変更。
【狼耳】による速いローリングを挟むことで、速度を落とさない。
そして三発目。
「【装備変更】!」
【鹿角】にすることで速度を上げ、迫る羽の壁を驚異的な回避で抜ける。
「ッ!!」
すると今度は、羽ばたきによる【風起こし】
向かい風でメイの速度を落としたところに放たれる、四発目の【羽散弾】
「や……【野生回帰】ィィィィ――ッ!!」
ここで防具をまとめて取り払う。
インナーに角と尻尾だけになったメイは上昇したステータスによって、風に押される分すら取り戻して進む。
だが続けざまに放たれたのは、鈍く輝く紅羽。
それは小爆発が連続することで攻撃範囲の網を生み出す、驚異の範囲攻撃。
かすめただけで足を止められ、止まればそのまま連発を喰らう最悪の一撃だ。
「……い、いきますっ!」
それを『接近しながら』かわすなど、正気の沙汰ではない。
メイの戦いを見守っている全てのプレイヤーが、さすがに首を振る。
しかしメイは、覚悟を決めてスキルを解放。
「よ……よ……【四足歩行】だああああああ――――っ!!」
一気に伸びる加速は、羽の隙間を雷のような軌道で抜けていく。
つながる無数の小爆破が生み出す光の網も、それがつながる寸前に置き去りにする。
「たどり……着いた」
追従プレイヤーが、奇跡のような光景に思わず声をもらす。
「せーのっ!」
驚異の速度で踏み込んだ、空の王の目前。
「【フルスイング】!」
剣を全力で振り降ろす。
すると大きく弾かれた空の王は、空中で一回転。
反撃は超高速飛来からの突撃。
ドン! という轟音と共に衝撃波を起こし、一直線にメイに向けて飛来。
広げた翼と、スクリュー回転。
一転メイは足を止め、静かに見極める。
そして一歩だけ下がり、走り出す。
「【裸足の女神】!」
駆け出したメイは、なんとそのままスクリュー回転する翼の間を駆け抜けた。しかも。
「【ターザンロープ】!」
後方に残すような形で放った【ターザンロープ】が空の王の脚にかかる。
すれ違ったメイと空の王。
振り返ったメイは、両手でロープをつかんでそのままその場で回転。
「せーのっ!」
巨大な空の王を豪快に振り回し、そのまま空高く放り投げる。
「それええええええ――――っ!!」
そして上げたままの右手に、残した召喚の指輪が輝く。
「それでは――――何卒よろしくお願いいたします!」
空中に現れた魔法陣から滑降してきたケツァールは、そのままメイを乗せて空の王を追いかける。
天高く投じられた空の王は、その大きな翼を広げて急制動をかけた。
狙う反撃。
そのクチバシの前に溜まっていくのは、【暴風烈弾】
これまでにない勢いで集束していく、風の奔流。
こぶし大にまで圧縮された風の砲弾が、爆音と共に放たれた。
緑光を煌々と輝かせながら迫る一撃。
ケツァールといえど、触れるだけで容赦なく吹き飛ばされることになるだろう。
しかしメイは、これをかわしもしない。
喰らえば遠く海まで吹き飛ばされるであろう一撃を、メイは真正面から受け止めにいく。
「【ドラミング】っ!!」
始まる豪快なドラミング。
ドンドンと胸元を叩き、敵を一撃で数百メートルは吹き飛ばすであろう【暴風烈弾】を、仁王立ちのまま弾き飛ばした。
ケツァールとメイは止まらない。
「いきますっ」
一直線に空を登り、そのまま剣を構える。
「必殺の……【ソードバッシュ】だああああああああ――――っ!!」
すれ違い際の一撃が、空の王に放たれた。
駆け抜ける衝撃波は空をゆき、そのまま雲を割る。
弾かれた空の王は隕石のように落下して、神殿の一つに突き刺さってHP全損。
盛大な砂煙を巻き上げた。
「「「「オ、オオオオオオオオ――――ッ!!」」」」
その圧倒的な光景に、あがる歓声。
メイたちは見事、空の王の打倒に成功した。
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